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…本来ならリーゼロッテ先生に練習場の許可を貰いに行ってもらって、練習場での魔法の試し打ちになっていたと思っていたが、まさかのA組の貸切になっているらしく、許可を貰える事が出来なく俺達は仕方なくレベルデン王国から少し離れた平原に来ていた。
それにしても、A組が練習場を使う時は貸切になるなんて贅沢なモノだ。
それとも、実力があるA組の魔法の練習となると周りの安全を考えての措置なのか?
俺がそう思っていると、
「それで、これからどうすれば良いですか?」
1人の眼鏡を掛けた男子生徒がそう聞いてきた。
そうだな、今は練習場の事なんかよりも先に考える事がある。
それは、この的が無い平原でどうやって魔法の練習をするという事だ。
下手に魔法を使わせて問題が起きるより、何か的の様な物に魔法をぶつける方が良い気がする。
そう思った瞬間、俺はある事を察する。
生徒達を含めリーゼロッテ先生も高レベルではないと考えると、ここにいる皆の攻撃を受けてもダメージは無いと思う。
魔法防御系の装備にすれば、絶対に安全だろう。
俺はそう考え、
「ではリーゼロッテ先生の指示に従って、それぞれ魔法を俺に撃ってください」
生徒達に聞こえるように声を出して指示を出すと、
「ヴァ、ヴァルダ先生?!そんな事はさせられません!今日は軽い魔法の発動では駄目なんでしょうか?」
リーゼロッテ先生がそう言ってくる。
「時間に余裕があるのならそうしますが、あまり時間に余裕がないのでそうは言ってられません。俺の事なら心配いりませんよ。むしろ俺にダメージを負わせられる生徒がいたら凄いくらいです。…お願いします」
俺がそう言って生徒達から離れた所に移動し、ある程度離れた所で止まり腕を少し広げる。
俺の様子を見ていたリーゼロッテ先生は、申し訳なさそうな顔をして、
「では、1人ずつお願いします」
生徒達にそう指示を出すと、生徒達はどうしようかと悩んでいる様子で近くの友達の顔を見合わせている。
…ふむ、流石にすぐには行動できなさそうだな。
俺がそう思っていると、
「俺が行きます」
生徒の中から1人の男子生徒が出来てそう言った。
すると彼は、腰に差してい杖を俺に向けると、
「穿て雫よ、ウォーターバレット!」
昨日レナーテ・ミュルディルさんが言っていた一節詠唱をして魔法を発動させると、彼の杖から一滴の水の弾丸が俺に向かって放たれる。
ウォーターバレットが俺に命中すると、水が弾け飛ぶ…。
…うん、ダメージはないけど、濡れちゃったよ。
俺がそう思って少しテンションが下がっていると、今度は火の弾丸が飛んできて俺に当たる。
い、引火とかしないよね?
俺が心の中でヒヤヒヤしていると、火は消えてくれたので安心した。
そうしている内に、様々な属性の魔法の弾丸が飛んできては、俺の体に当たって弾けていく。
何でみんな1つの魔法だけなのだろうか?
それと、初級魔法じゃなくても良いのに…。
俺が考えていると、飛んできていた魔法が止まった事に気が付いて首を傾げる。
「あの、1つ質問していいですか?」
俺が少し離れている生徒とリーゼロッテ先生にそう声を掛けると、リーゼロッテ先生が少し慌てて、
「ど、どうしましたかッ!?」
そう聞き返してきた。
何故あんなに慌てているのかは分からないが、とりあえず今は俺の疑問を聞いてもらおう。
俺はそう思い、
「何で皆さん、1つの属性の魔法しか撃ってこないんですか?もっと色々と試しても良いですよ」
少し声を大きくしてそう言うと、何故か場が静かになった。
その状態が少し続くと、
「あ、あのヴァルダ先生?普通は先生の様に全ての属性を操れる訳では無いので、そう言われても……」
リーゼロッテ先生がそう言って口を閉ざす。
リーゼロッテ先生の言葉を聞いた俺は、
「あ、魔導書の説明してなかった…」
そう呟いて、生徒達の元に走り寄ると、
「ごめんなさい、説明するのを忘れていました」
綺麗なお辞儀をしつつ、謝罪の言葉を口にする。
それから俺は、魔法学院で読んだ魔導書の事を説明してリーゼロッテ先生を含めてG組の皆さんが基本となる属性魔法の初級魔法を習得している事を説明した。
そんな俺の説明を聞いたみんなの反応は、まさに絶句と言っても良い程表情は驚きで固まっており、口は開いたままである。
誰も微動だにせず、息をしているのか不安になるほど声も動きもない。
俺がその様子を見て少し心配していると、
「つ、つまり今の私達は、ヴァルダ先生と同じ様に全ての属性の初級魔法までなら使えるという事でしょうか?」
リーゼロッテ先生がやっと声を出してそう質問をしてきた。
俺はその問いに、
「そうですよ。これで、様々な状況になっても対処出来るようになったと思うので、後は今まで使う事が出来なかった魔法の精度、威力、派生を強化していく事を重視しましょう。皆さんの魔法を受けた感想としては、それらは生徒同士で難しい所を教えあったり、リーゼロッテ先生に教えて貰った方が良いでしょうね。俺は精度とか威力はあまり教えてあげられる事が無いので、次の段階の実戦練習で活躍して見せますよ」
そう答えた。
俺はこの世界の魔法の様に精密な魔法を使う事が出来ないから、こういうのは本業のリーゼロッテ先生に任せるしかない。
俺がそう言うと、
「…確か魔法を習得する事が出来る魔導書って、国宝級が大半じゃなかった?」
「…うん。しかも特に代償も無しに魔法を使える様になるなんて、聞いた事がない」
「でも、皇帝陛下が前にそう言った物を争いの種にしない様にって全て集められたはずだよ」
生徒達がそう呟き合いながら俺の事を見てくる。
帝都の王族が、魔導書などを集めた…か。
生徒達が言っている通り、争いの種にしないって意味で保管しているだけなら良いのだが、こっちの世界にきて日が浅く王族の情報もあまり無い状態だが信用する事が出来ないな。
俺がそう思っていると、
「では、それぞれ魔法の試し撃ちをしてみましょうか。…申し訳ないですがヴァルダ先生、もう一度的になってもらえませんか?」
リーゼロッテ先生が生徒達にそう声をかけて、俺にそう質問をしてきた。
俺はその問いに対して、
「構いませんよ」
特に気にする事無く返事をした。
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