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改めて旧校舎に入って教室の前に待機すると、
「先生、今日は転ばなかったんですか?」
「転ぶ訳ないじゃないですか」
先に教室に入っていったリーゼロッテ先生と生徒の、そんな日常的な会話をしている。
転ばなかったが、ズッコケてはいたな。
それにしても、生徒に言われるくらい毎回教室に入る前に転んでいるイメージがあるのか?
俺がそう思っていると、
「先生のいつものやつは良いけど、それより今日校舎の前に変な人がいたんですが先生はご存知ですか?」
俺の話題が出てきた。
やっぱり不審者扱いされてる…。
俺がそう思って少しショックを受けていると、
「そうでした。クラス対抗戦までの臨時講師として皆さんに魔法を教えてくれる事になった人を紹介しますね。どうぞ、入ってきてください」
教室の中からリーゼロッテ先生が俺の簡易的な説明をしてくれて、俺の事を呼ぶ。
俺がその声を聞いて、教室の扉を開いて中に入る。
教室に入った瞬間感じる視線、転校生ってこんな気分だったのだろうか?
俺はそんなことを考えながらリーゼロッテ先生の隣に立つと、
「初めまして皆さん。と言っても、数人は昨日に会っているので皆さんが初めましてではないのですが…。リーゼロッテ先生の言葉の通り、皆さんに魔法を教える事になりました。ヴァルダと言います、よろしくお願いします」
そう言って軽く頭を下げると、俺は面を上げる。
すると、来ていないと思っていたレナーテ・ミュルディルさんがいた。
どうやら、俺が来るよりも先に教室に入っていたようだ。
俺がそう思っていると、
「どうしましょうかヴァルダ先生?今生徒の前に立っていますけど、皆にも自己紹介して貰った方が良いでしょうか?」
リーゼロッテ先生がそう聞いてきた。
俺はその言葉を聞いて、
「いえ、今全員に名乗られても覚えられる気がしません。これからの授業で、覚える様に努力します。その際に、リーゼロッテ先生に助力をお願いしますので、その時はお願いします」
リーゼロッテ先生にそう伝えると、分かりましたと返事をしてもらえた。
そうして授業が始まったのだが、俺は初めてという訳で今はリーゼロッテ先生の授業をしている様子と内容を聞いている。
昨日レナーテ・ミュルディルさんが驚いていたのは、属性魔法の制限だった。
まさか、魔法の習得が自己認識と相性、素質という運要素が強い傾向があるのが分かった。
ここが、「UFO」との違いか。
向こうでは、基本的な魔法は覚える事が出来るし、スキルポイントで更に強化をする事が出来るが、リーゼロッテ先生の授業内容を聞く限り「UFO」よりも魔法を使いこなせるのは難しいという話だった。
そう考えると、レナーテ・ミュルディルさんはおそらく優秀な生徒という事だろう。
俺はそう思いつつ教室の生徒を見る。
ふむ、皆人族で女子生徒が…11人の男子生徒が…10人。
合計21人のクラスか。
良かった、これで魔導書は十分足りる。
俺がそう思っていると、
「先生」
手を挙げてリーゼロッテ先生に意見を言える様に訴える。
俺はその手を挙げた人を見ると、レナーテ・ミュルディルさんだった。
「どうしましたかレナーテさん?何か質問がありますか?」
リーゼロッテ先生がレナーテ・ミュルディルさんにそう聞くと、彼女は椅子から立ち上がって俺の事を見てきて、
「ヴァルダさんの授業を聞いてみたいです。この人が昨日あれだけ自信満々だった訳を知りたいです」
そう提案してきた。
流石にレナーテ・ミュルディルさんにそう言われるとは思っていなかったのか、リーゼロッテ先生は少し動揺している表情で俺とレナーテ・ミュルディルさんを見る。
「俺は良いですけど、リーゼロッテ先生の授業は大丈夫なんですか?」
俺がそう質問をすると、リーゼロッテ先生は残念そうな顔をして、
「いえ、今は生徒の成長を促さないといけませんよね」
そう言って少し場所を移動する。
俺はそんなリーゼロッテ先生の様子を見て、少し申し訳ない気持ちになりながら、
「では、今から配る本を皆に渡る様にして下さい」
あらかじめ指示を出し、本の中の世界を開いて用意しておいた魔導書を出すと近くにいる生徒に手渡していく。
「お、重っ!」
「何この本?見た事も無い表紙…」
「軽くこれで殴ったら昏倒しそうだな」
俺が出した魔導書を手に取って様々な反応をする生徒の声を聞きながら、俺は更にどんどん魔導書を出して手渡す。
…正直、売っても大した額にもならないこの魔導書が消費できて嬉しく感じているのは、この生徒の人達には言えないな。
俺はそう思いつつ魔導書を取り出していき、そうして人数分の魔導書を全て出した。
生徒達の机の上には、分厚い魔導書が積み上げられてしまった。
少し面倒そうな顔をして本を弄っている生徒達が見える。
気持ちは分かるが、その魔導書を読んだら魔法を習得する事が出来る事を生徒達に説明しないとな。
俺がそう思って声を出そうとすると、リーゼロッテ先生が1人の生徒の近くに移動して魔導書を興味深そうに見ている。
…まぁ、彼女にも渡しても良いだろう。
俺はそう思うと、
「リーゼロッテ先生にも渡しますから、生徒の本を羨ましそうに見ないで下さいね」
彼女に注意の言葉を投げて、生徒達と同じ様にリーゼロッテ先生に魔導書を渡そうとする。
だが、彼女の近くには魔導書を置けるスペースがない事に気が付き、
「リーゼロッテ先生、何か物を置ける机か何かを持って来て貰えますか?」
そうお願いすると、リーゼロッテ先生は慌てて教室から出て行き、少ししてから簡易的な机を持って来た。
それを先程いた俺から少し離れた位置に持ってくると、俺は置かれた机の上に生徒達と同じ様に魔導書をそこに置く。
そうして準備が完了し、俺は改めて生徒達の前の教壇に立つと、
「では、これから皆さんの前に置いてある本を読んで貰います」
そう言う。
すると、
「さ、流石に今日中に全て読むのは無理だと思います…」
少し気弱そうな女生徒がそう言ってくる。
俺はその言葉を聞いて、
「それなら大丈夫だと思いますよ」
俺はそう答えた。
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