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塔の自室で寝た俺は、翌朝に起きて身支度を整えていた。
さてと、とりあえずF組の生徒の数を見て30人分、8種類の魔導書で240冊、更に中級魔法の魔導書も2種類あるから300冊…。
「大荷物過ぎる…。業者レベルじゃないか…」
俺は自室で本の中の世界を開き、倉庫のページを見ながらそう呟いていた。
これが薄い本くらいならまだ良いのだが、辞典と言われても仕方がないくらい分厚い。
やはり、取り出すのは教室でないとダメだな。
俺はそう思いつつ、
「よし、行くとするか。一応個人に雇われた教師だけど、教師である事に変わりはないしな」
そう呟いて塔の自室から外の世界へと戻ってくる。
朝早くではあるが、やはり商いをしている所はすでに人の声やパンを焼いているのか香ばしい匂いが少ししてくる。
しまった、朝ご飯食べるの忘れていた。
俺はそう思い、自覚していなかったが自分が少し緊張している事を自覚する。
まぁ昼間で食べれれば良いかな。
俺はそう思って気持ちを切り替え、街を歩いて魔法学院を目指す。
まだ俺の事を知らない生徒の方が多いお陰で、特に他の生徒から視線を感じる事は無い。
しかし、俺を知っている人がいるのか少しだけ視線を感じる。
まぁこれくらいの視線なら大した問題は無いな。
俺はそう思いつつ、少しずつ開店していく店を見ながら学院まで歩いて行った。
そうして魔法学院に到着すると、
「…誰あの人?」
「…髪真っ白だね」
「生徒って感じじゃない…よね?」
うぅむ、流石に見た事も無い人が学院に入るとここまで注目されてしまうのか。
俺の事を見ながら、友達同士で詮索し合う様に声を掛けているのが少しだけ聞こえてくる。
…今は知らない人がいるから興味を持っているかもしれないが、俺がG組の担当の先生だと知ったら今俺の事を気にしている大半の生徒が侮蔑の表情を送ってくるかもしれない。
そう考えると、結構怖い事だ。
今の俺はレベルのお陰で強いが、日本にいた時の俺だったら恐怖でそそくさと逃げていただろう。
俺がそう思っていると、
「おやおや?G組の臨時講師じゃないですかぁ?」
後ろからすでに俺を馬鹿にしている様な声と話し方で声を掛けられた。
昨日、嫌という程聞いた声に俺は朝から面倒だなと思いながら振り返り、
「おはようございます。えっと…F組の先生?」
挨拶をしようとしたのだが、ここでまさかの名前が思い出せない所為でちゃんとした挨拶が出来なかった。
俺のそんな間抜けな挨拶をされたF組の先生も、
「ゾルゼ・ヘンネフェルトですよG組の臨時講師さん~?今日からあの出来損ない共の授業を担当しますけど、どこまで成長できるか楽しみですねぇ?」
イラッとした表情でそんな挨拶をしてきた。
すると、俺の事を気にしていた生徒達から微笑の声が聞こえてきた。
視線だけで周りを見ると、皆が俺の事を見てクスクス笑っている。
俺がその様子を見ていると、気を大きくしたゾルゼ先生は更に、
「しかもクラス対抗戦で、どのクラスにも負けない生徒達にしてみせるとか言っていましたけど、本気なんですかねぇ?」
周りに聞こえる様にそう大きな声で俺に質問してくる。
その言葉を聞いた周りの生徒達も、クスクスと笑っていたものが普通に声を出した笑いに変わった。
ここまで言われると、逆に冷静になるな。
亜人の事だったらすぐに怒っていたかもしれないが、今は油断させて対抗戦に圧倒的に勝って見せて馬鹿にしている者達にぎゃふんと言わせたい気持ちの方が多い。
だが、言われっぱなしっていうのも後味が悪い。
何よりも、自信が無い様に見えてまだ見ぬG組の生徒に駄目教師扱いされるのは嫌だ。
俺はそう思い、
「当たり前じゃないですか。たとえどんなに魔法習得が出来ない子達でも、クラス対抗戦の時にはここの生徒達の声が出ない程驚愕の成長をすると私は信じています」
そう言って踵を返して旧校舎に向かう。
流石に旧校舎に来ると他クラスの生徒はいないが、その代わりに俺がこれから魔法を教えるであろう生徒が旧校舎に入っていく。
俺も彼らの後を追おうとしたのだが、授業の時間ではないと思ってリーゼロッテ先生と合流してから教室に入ろうと思い、旧校舎で先生が来るのを待つ。
その間に、生徒達が来るので軽く挨拶をするのだが、案の定皆不審者を見るような眼で俺の事を見てくる。
そうしている内に旧校舎に来る人は減っていき、今はもう誰も俺の近くを通る人はいない。
「あれで全員だったのかな?」
俺は先ほどまで挨拶をしていた生徒の顔を思い出しながらそう呟き、昨日会ったレナーテ・ミュルディルさんがいない事に気が付いた。
まさか、俺が教わるのが嫌で休みとか?
それとも、何か事件に巻き込まれているんじゃ…。
俺がそう思って不安に思っていると、カァーンッという鐘の音が聞こえる。
今のは、何の時間の合図なのだろうか?
俺がそう思って音のした方向を見ていると、本校舎の方からリーゼロッテ先生が走ってくるのが見えた。
手には少し長めの杖と、分厚い本が握られている。
…昨日の彼女を見た感じ、彼女は綺麗な外見では想像出来ないほどドジッ子だ。
何か、転びそうで怖い。
俺がそう思った瞬間、リーゼロッテ先生の足元には何も無いにも関わらずズッコケて動きが悪くなるリーゼロッテ先生…。
だが流石にそこまでテンプレな事が起きる訳でも無く、少し体勢が悪くはなってしまったが俺の元へとやって来れた。
「「………」」
何とも言えない気まずい状況になってしまった。
リーゼロッテ先生はおそらく今の行動を見られて恥ずかしく、俺は先ほどの事に大丈夫ですか位の言葉を掛けた方が良いのか考えてしまう。
とりあえず、触れないでおこう。
俺はそう思い直すと、
「おはようございますリーゼロッテ先生。本日から、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げる。
すると、
「こ、こちらこそよろしくお願いしますっ!」
リーゼロッテ先生も俺にそう言って頭を下げたのか、それと同時に持っていた分厚い本を地面に落としてしまった。
凄い分厚い本だな。
俺はそう思いながら本を拾ってリーゼロッテ先生に渡そうをした瞬間、
「あ…この本、辞典…」
リーゼロッテ先生のそんな呟きが聞こえた。
…その後教科書を取りに戻ってくるリーゼロッテ先生を待ってから、旧校舎に入った。
ちなみに教科書も厚い方ではあったが、先程持ってきた辞典と間違えてしまう程分厚い訳では無かった…。
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