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アンリの言葉を聞いた受付嬢は、少し呆然とした後に何やら焦っている様な仕草をする。
流石にアンリ程大きな声を出していない様で、私の位置では受付嬢が何を言っているのか分からない。
「大丈夫ですよ!エルヴァン様がいるんですから!」
アンリのその言葉が聞こえると、受付嬢は少しだけ私に視線を送ってきた後に何枚かの紙をカウンターから取り出した。
掲示板にも張っていなかったという事は、何か事情があったのだろうか?
私がそう思っていると、アンリが受付嬢から数枚の紙を受け取ってそれを1枚1枚見ては捲っていく。
すると、何か良い依頼書を見つけたのか、持っていた依頼書の中から1枚を受付嬢に差し出す。
何か良い依頼を見つけたのだろうか?
私がそう思って事の成り行きを見守っていると、受付嬢が何やらアワアワと焦り出してアンリに話しかけている。
その様子を見るに、アンリの手に持っている依頼を受けない様に説得しているといった感じだ。
だが、アンリは特にそう言った事を気にせずに笑顔で話しているのが見える。
そうして受付嬢が最後まで頑張っていたのだが、結局根負けをしてしまいアンリの持っていた依頼書を受け取り何やら文字を書き、判子を押して身振り手振りでアンリに何かを話している。
それが終わると、アンリは意気揚々と私の元に戻って来ると、
「エルヴァン様、良い依頼見つけましたよ!ここから少し離れたレベルデン王国という場所から更に南東にドラゴンが暴れたという報告があって、そのドラゴンの討伐が依頼でした。報酬はドラゴンの種類によって違うらしいので、討伐したら死体を荷馬車で運ばないといけないらしいです」
私にそう報告してきた。
それにしてもワイバーンだったりドラゴンだったりと、こちらに来てから竜関係と縁がある。
私はそう思いながら、
「そうか、では行くとしよう。荷馬車を借りた方が良いのだろうか?」
アンリにそう聞くと、
「受付の人には借りる場所の案内をして貰ったんですが、風魔法を上手く使えば僕が運びますので良いかなって思ってるんですけど、どうでしょうか?」
そう提案してきた。
私はアンリのその提案を聞き、
「なるほど、ならば任せるとしよう。荷物の準備はすでに整っている、行くとするか」
アンリにそう言い歩き出す。
「はい!」
アンリも私の言葉を聞いて元気に挨拶をし、私の少し後ろを付いて来る。
ヴァルダ様のサポートがない戦い、どのようなモノか気を張っていないといけない。
そう思いながら、私たちは冒険者ギルドを後にした。
ヴァルダがレベルデン王国でリーゼロッテと出会い、エルヴァンとアンリが冒険者ギルドにいる時、本の中の世界の塔では、
「納得が出来ないのだけど…」
「…ハイエルフであろうとも、エルフである事に変わりはない。それが事実です」
シェーファとセシリアが、草原島の草原の上に横たわっている人族の女性たちを見てそう声を出していた。
「ヒィ…ヒィ…」
「…し、死んじゃう…」
「お゛ぇッ」
「お水…お水…ください」
人族の女性達は先程まで草原島にいるアレクシアと共に走っていたのだ。
アレクシアは日頃の鍛錬と趣味も兼ての走り込みだったが、人族の女性達は違った。
村での生活は、あまり裕福ではなかった所為か日頃から食べる量は少なく、そして畑などの雑草取りや種まき、収穫した後の荷運びなどをしていた。
そうした環境のお陰で、女性たちは痩せていたのだ。
体のどの部分も痩せており、脂肪はあまり付いていなかった。
だが、塔の世界に来てしまってからその状況は一転する。
今まで食べた事が無かった食材に量。
その全ての食べ物の美味しさに女性達は明日には食べられないのではないかと危惧し、暇でお腹が空いていれば何かを食べに食堂に足を運んでいた。
そんな生活をしていた所為で、栄養を欲していた女性達の体は栄養をどんどんと吸収していき、塔に来てからさほど時間が経っている訳では無いのに膨らんでしまったのだ。
シェーファを見て羨ましがっていた胸の様に、自分達の胸が膨らんだのには喜んでいた女性達だったが、それと同時にお腹周りとお尻、脚に二の腕にもお肉が付いていってしまった。
女性達はその事に気が付かなかったのだが、バルドゥが女性達を見てサラッと発した、
「皆さん健康になったんですね。大きくなって良かったです」
そんな一言に、女性達は様々な意味で目を覚まして互いを見つめ、全員が思っていたよりも太くなってしまった体に絶叫した。
そうして今アレクシアとバルドゥ監修の元、女性達はダイエットの為に草原島を走り回っていたのだ。
シェーファとセシリアはそんな光景を見て、人族と自分たちの体の違いに話し合っていた。
「…それはどういう事かしらセシリア?」
「ですから、エルフは元々胸はあまり大きい訳では無いです。エルフの中では大きい方のシェーファでも、他の人たちに比べたら小さい方になるの。あの人たちは満足に食べられていなかったから小さかっただけで、あそこまで希望があっただけ」
セシリアにそう言われたシェーファは頬を小刻みに動かしながらも笑顔を保ち、
「そういうセシリアだって、あまり大きい訳では無いじゃないの」
そう切り込む。
だが、
「私はシルキー。妖精なのよ?可憐な妖精は大きすぎず、小さすぎない程度が1番。大きいと妖艶に、小さいと可愛いといった感じだから、これが私のベスト体形」
自分の体形に自信があるセシリアは、シェーファの言葉に淡々と答える。
そんな言葉を聞いてシェーファは、
「…私だってヴァルダ様にいつでも見られて舐められて抱かれても良い様に体型を維持しているわ」
何故かいきなり恋する乙女の表情で過激な発言をする。
そんな言葉を聞いたセシリアは特に気にした様子も無く、
「そんな事言ってるから、ヴァルダ様はシェーファを押し倒そうともしないのよ」
と、シェーファの心に突き刺さる暴言?を言うと、
「貴女だって同じじゃない」
シェーファは不満そうにそう返す。
そんな会話をした後、2人はため息を吐いた。
草原島で聞こえる音は、風で擦れる草の音と息切れの音、そしてため息だった。
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