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俺がレナーテ・ミュルディルさんを含めたリーゼロッテ先生の生徒達を強くしようと心に決めていると、
「そんなに自信満々ですけど、本当に出来るか疑わしいですね」
レナーテ・ミュルディルさんが、ジトーッとした眼で俺を見つめながらそう言ってくる。
俺はその言葉に対し、
「世界最強にするとは言っていません。この学院内の生徒達より強くすると言ったのですよ?それくらいなら、2週間もあれば十分に可能でしょう。後は貴方達の向上心が保つかが問題でもありますけど、そんなに簡単に諦めるタイプだとも思えませんしね」
少し苦笑しながらそう言うと、レナーテ・ミュルディルさんがプイッと顔を逸らし、ソフィ・ベイロンさんとブノア・ドノン君は互いに頑張ろうと言い合っていた。
俺がそんな光景を見ていると、
「ではヴァルダさん、明日からよろしくお願いします」
リーゼロッテ先生が頭を深々と下げて俺に挨拶をしてきた。
「こちらこそ、改めてよろしくお願いします」
俺もリーゼロッテ先生よりかは深くはないが頭を下げて挨拶をする。
そうしてとりあえず2週間の仕事が決まった俺は、少し満足した気持ちで魔法学院を後にした。
レナーテ・ミュルディルさんを含めた残っていた3人も、明日からの授業がきついかもしれないという事を話して体を休めるために帰った。
リーゼロッテ先生は学院で先生としての残業があるらしく、すぐには帰れないと少し暗い笑顔をしながら言っていた姿を見ると、俺ももしかしたらあの様になるのではないかと少し心配してしまう。
さて、あのF組の担当先生にはああ言ってしまったが、正直あれはハッタリだったりする。
もし学院側の者達が俺の言ったとおりの連中なら、リーゼロッテ先生の生徒達を気にしないと思う。
だがもしも、寧ろ俺達の動きを危険視して何か妨害工作や嫌がらせをして来たらそれはそれで面倒だ。
それを阻止するのとかで生徒に接する時間が減るのは避けたいところだ。
俺はそう思いながら夕暮れで店じまいをしている店などを見つつ、どこか人が少ない場所がないか探す。
宿屋とかに泊まってそこから本の中の世界に帰った方が楽だが、金がないので今はする事が出来ない。
俺はそう考えて、少しため息を吐いてレベルデン王国の裏路地を探す。
そうして裏路地ではないが人影がない空き地を見つけると、俺は塔に帰る事が出来た。
少し時間は戻り、ヴァルダ達より先に練習場を後にしたF組担当のゾルゼ・ヘンネフェルトは先程話したヴァルダの言葉を思い出して、
「何なんだあの男はッ!」
そう声を荒げる。
すでに自分の担当している生徒達は帰るように伝えて解散している。
生徒の前では基本的にあまり声を荒げるゾルゼは、1人になると1日の鬱憤を誰もいない場所で吐き出す事をしている。
普段なら自分の魔法技術ならもっと上のクラスの担当になっているとか、A組の担当の先生が自分より遥かに劣っているかなど不満などを出しているのだが、今日はそれ以上に面倒な事になりストレスの発散をする相手がヴァルダとG組担当のリーゼロッテになったのだ。
「あの顔と体だけが取り柄のリーゼロッテもだ!あの女、次のクラス対抗戦で負けた際にはG組のゴミ共は退学として、あの女も生徒を教育出来なかったという名目で解雇の予定だったと言うのに!」
ゾルゼはそう言って校舎の壁を自分が傷つかない程度の威力で殴りつけると、言葉と行動に起こしたお陰で少しだけ冷静になる。
「仕方がない、私の生徒も実力だけはゴミ達と変わりは無い。むしろミュルディル家の娘は魔法の実力だけで言えば私の生徒達よりも上だろう。……フハハ、私のこれからの為にあの子達にはもっと強くなって貰わないと」
そう呟きながら、ゾルゼは校舎へと入っていき職員室に入って自分の荷物を持って学院を後にした。
ゾルゼは魔法学院を出た後、普段から言っている店に行くと、店の隅のテーブルで酒を呷っている男の向かい側に座り、
「…頼みたい事がある」
唐突にそう切り出した。
だがその言葉に手に持っていたグラスが空になると、
「…良いですぜ。今回はどのくらい必要なんです?」
グラスをゆっくりとテーブルに置き、小さな声でそう返した。
そんな質問をされたゾルゼは、あらかじめ予想していた問いに、
「数は30。全て錠剤で頼む。…そろそろ周期的にここを離れるのだろう?」
そう返し、更に向かい側の男に質問を返す。
男はゾルゼの問いに、指を数えながら頷き、
「そうですねぇ。そろそろ帝都に向かって荒稼ぎをして、数日でまた地方を回ろうかと思っていますよ。帝都は騎士団が私の事を調べていると思うので、お得意様の屋敷を回ってすぐに逃げないといけませんね」
そう言うが、男の表情は余裕の笑み一色だ。
そんな男を表情を見て、
「…やはり50売ってくれ。次に会う時までに使ってしまうかもしれないからな」
ゾルゼは先程注文した数を更に増やした。
その言葉を聞いた男は、
「まいど、ありがとうございます。…それで、受け渡しはどうします?」
そう言って次の段階の話を持ち出す。
その質問にゾルゼは、
「うちの屋敷に持って来てくれれば構わない。どうせ使用人共にバレても職を失いたくないと思って黙っているさ」
そう言うと、懐から金貨1枚を取り出し、
「前金だ。出来るだけ急いでくれ、ディーター」
そう注文すると、ゾルゼは席を立って店を後にした。
残されたディーターと呼ばれた男は、店のマスターに酒をもう一度注文すると、ニヤニヤと臨時で入った大きな仕事に笑みを漏らす。
「…パプはまだある。追加で生成注文しなくて良さそうだな」
ディーターがボソッと呟くのと同時にマスターが注文した酒をテーブルに置き、カウンターへと帰って行く。
その酒には、砕いて粉末状にしたパプが入っており、ディーターはそれを一気に呷ると、
「さて、仕事をしないとな」
そう言って立ち上がりテーブルに銀貨を置いて店を出て、店仕舞いが目立つ街の闇へと消えていった。
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