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今のアースバレットの威力、普通の人に当たっていたら怪我をする威力だ。
誤ってこちらに放たれたとしても、謝って済む話では無いな。
俺がそう思っていると、
「な、何が起きたんですか?」
リーゼロッテさんが少し戸惑いながらそう声を掛けてくる。
それにしても、やはりダメージを受けないな。
俺はそう思いつつ、
「誤射かもしれませんからハッキリとは言えませんが、土魔法のアースバレットがレナーテ・ミュルディルさんに向かって飛んできたのが見えたので、俺が受け止めました」
そう答えると、リーゼロッテさんは戸惑いの表情から一転し魔法が来た方向を見ると、
「今こちらに魔法を放ってきたのは誰ですか?!」
少し声を大きく出してそう問う。
その先には、俺達がこの練習場に来た時にはいた他クラスの者達がいる。
すると、
「すみませんねぇリーゼロッテ先生。クラス対抗戦の練習をしていたのですが、誤って違う的に当てそうになってしまいました」
眼鏡を掛けた男が、そう言いながらヘラヘラと笑いながらこちらへやって来る。
その後ろには、男女の生徒達10人前後が後を追いかけてくる。
一応謝ってはいるが、今レナーテ・ミュルディルさんを的と言っていたな。
反省する気は無い様だ。
「ゾルゼ先生、貴女に名前を呼んで良いと私は言いましたか?それと謝罪の言葉も誠意も何も感じられません。レナーテさんを的と言った事、訂正して下さい」
リーゼロッテさんは大切な生徒に危害を加えられそうになって怒ってはいるが、理性は保っていて大人な対応をしている。
俺がそう思っていると、
「いやいや、F組担当である私が何故G組の生徒を的と言ってはいけないのですか?」
なんか先生として最悪な事を言い出すF組の担当先生。
すると、
「…私達とF組の差なんてあまり無いのに」
ソフィ・ベイロンさんがそう呟いた。
一番実力があるA組から順番にいくと、確かに差なんて微々たるモノの様に感じるな。
俺がそう思っていると、
「先生~、そんな裏切り者達なんか気にしないで、さっさと次の練習方法を教えて下さいよ~」
F組の生徒の1人が、ニヤニヤと笑いながらそう言った。
裏切り者?
俺がその生徒の言葉を聞いて首を傾げていると、
「まぁ、待って下さいオイゲン君。聞きましたよリーゼロッテ先生?次のクラス対抗戦で負けたら、旧校舎は取り壊して図書館の増築の敷地になるそうですね。そうしたら貴女の教え子たちは、馬小屋での授業になるそうじゃないですか?」
まるでここにいる者達全員に聞こえる様にそう大きな声を出すF組の担当先生。
…なるほど、だから噴水の場所で挑発に乗ってしまった事を後悔している様な独り言を呟いたのか。
俺がそう思っていると、
「私の生徒達は絶対に出来ます!私はそう信じていますから!」
リーゼロッテさんがF組担当先生にそう言うが、彼はその言葉を聞いてもニヤニヤと笑い、
「確か学院長はこう言っていましたよ。G組が勝ち進む事が出来ると断言したという事は、1度でも負けたならこの話はリーゼロッテ先生の言葉は嘘だったという事になると…。つまりG組はクラス対抗戦で1度も負けたなら、皆さん仲良く馬小屋で授業という事でしょう?」
そう言った。
それに対してリーゼロッテ先生は、
「…勿論です」
そう言い切った。
その言葉を聞いたF組の担当先生は、言質は頂きましたよと言って後ろに控えている生徒達にも確認させる。
…一応今の所部外者だから口を挟む事はしないが、こいつらは何でここまで好き放題言えるのだろう?
俺がそう思っていると、
「理解できませんよ。実力も一応ですがあり由緒正しい貴族でもあるのに、あんな獣風情を正当に雇うなんて」
F組担当先生がそう言って首を左右に振る。
…おいおい、まさかこの学院でもなのか?
俺がそう思っていると、
「聞き捨てなりませんね。彼らは私達と同じ様に思考し言葉を発します。それだけで十分にヒトである事だと私は思います!」
レナーテ・ミュルディルさんがそう言って、F組担当先生を睨みつける。
やはり、この学院でも亜人を迫害する者がいるのか。
俺がそう思ってレナーテ・ミュルディルさん達を見ると、先程まで少し怯えた様子でリーゼロッテさんとF組の担当先生との会話を聞いていたが、亜人の話になった途端にまるでこれから戦う戦士の様に眼に意思を宿らせ、真っ直ぐな眼差しをF組の者達に向けている。
これはつまり、亜人を迫害しない者達がG組に割り当てられて、それ以外の者達の実力順にクラス分けされているという事だろうか?
レナーテ・ミュルディルさんの魔法を見ると、先程飛んできたアースバレットよりかは優秀そうに感じたからそう思ったが、確信がある訳では無い。
俺がそう思考していると、レナーテ・ミュルディルさんの言葉を聞いたF組の生徒達がクスクスと静かに、だが明らかにレナーテ・ミュルディルさんを馬鹿にしている笑みを浮かべる。
俺はその様子を見て、
「馬小屋で勉強という事にはなりませんよ」
リーゼロッテさんに笑顔で話しかける。
そんな今にでも喧嘩が起きそうなこの場にそぐわない声を出した俺に、周りにいた人達が俺の事を見つめてくる。
「…知らない顔ですが、それはいったいどういう事でしょうかねぇ?」
F組担当先生が、イラつきの所為か少し頬を動かしながらそう聞いてきた。
そんな問いに俺は、
「申し遅れました、俺はヴァルダと言います。明日からリーゼロッテ先生の補佐として、G組の生徒達に魔法を教える事になりました。ちなみにリーゼロッテ先生に雇われたので、学院側に言ってもあまり意味はないと思います。むしろ、そんな事でわざわざ動揺するなんてF組の担当として力量不足だと言われるのがオチですよ。…と言う事で、この俺が自らの意思で彼らに魔法を教えると言ったんです。この学院で最も優秀なクラスになる事は決まっています。故に、彼らが馬小屋で勉強する事は彼らの今後には絶対にありえません」
少し説明を混ぜつつそう言うと、
「……フッ!クラス対抗戦まで2週間しかないのですよ。それまでにどこまで優秀になっているか見物ですね!行きますよ皆」
F組の担当先生が生徒達を引き連れて練習場から出て行った。
さて、あそこまで言ったんだ。
リーゼロッテ先生の生徒達をこの学院で最も強くしてみせるぞ。
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