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練習場を使用する許可を貰ってきたリーゼロッテさんと生徒3人に付いて校舎を出て、俺達は練習場へと歩を進める。
学院と言うだけあって、結構立派な校舎とか設備や装飾があるな。
あそこの銅像とか、いるのだろうか?
俺がそう思いながら見て歩いていると、反対に俺達に視線を向けて笑ってくる者がいる。
正確には、興味を示さないですぐに視線を逸らすか、嘲笑っている様な笑みを向けてくる。
リーゼロッテさんも、彼女が魔法を教えている生徒達も常にこの視線を受けているのか。
俺はそう思うと、校舎から少し離れた所にまた大きな建物が見える。
高さはあまり無い様に見えるが、あそこが練習場なのだろうか?
俺はそう思って付いて行くと、建物に入ると同時に階段を下る。
階段を下った後は普通の道が続き、先に見えるのは整備された土が見える。
そうして廊下を抜けた先は、まるで陸上競技場の様な空間が広がっていた。
地面は少し固い土を綺麗に整備され、その周りに壁があってその少し高い位置から階段状に簡易的な椅子が設けられている。
楕円形の闘技場って感じに見えるな。
俺がそう思いながら周りの光景を見渡していると、少し離れた所に大人数の集団が見える。
すると、
「F組がいるね」
ブノア・ドノンと言ったっけ?
彼が離れた所にいる集団を見てそう言った。
「…大丈夫よ。実力は同じ位だもの…。何も問題は無いわ」
そんな彼の言葉に、レナーテ・ミュルディルさんがそう返す。
何か問題があるのだろうか?
俺がそう思っていると、
「それでは、ヴァルダさんの講師適正の簡易的な試験を行いますよ」
リーゼロッテさんが手を叩いてそう言ってきた。
俺はそんな言葉に、
「あの、そういう試験って学院長とかが見に来たりするモノじゃないのですか?」
そう質問をする。
すると、俺の質問を聞いたリーゼロッテさんは少し苦笑いを俺に向けて、
「いえ、まず私には職員としての願いなど聞いては貰えないですから。私の給金からヴァルダさんのお給金を払う、そういう感じでお願いしようと思っていたのですが、駄目でしょうか?勿論、しっかりと給金はお渡しします」
そう言ってきた。
つまり、学院側はリーゼロッテさんの推薦で俺を講師にする事をしないから、彼女の個人契約で俺を講師にしようという考えか。
それって良いのだろうか?
ただでさえ立場が悪い状態なのに、更に悪い方向に進んでいないだろうか?
俺がそう思っていると、
「大丈夫ですよ。学院側は私達を事でそこまで細かく気にしていないですから」
リーゼロッテさんが苦笑しながらそう言う。
それは悪い意味でしか受け取れないのだが…。
俺がそう思っていると、
「それより、早く貴方の魔法を見せて下さい」
レナーテ・ミュルディルさんが俺にそう言ってきた。
意外にせっかちなのだろうか?
俺がそう思っていると、リーゼロッテさんもソフィ・ベイロンさんもブノア・ドノン君も何故か期待している様な眼で俺の事を見てくる…。
何か、ハードルが上がった気がするな。
俺はそう思いながら誰もいない方向に手を伸ばして、
「じゃあ簡単な魔法から。…ライトニング」
雷魔法の初級派生魔法を使用する。
ちなみにこのライトニングという魔法は、雷魔法のショックという魔法を500回繰り出せば獲得できる魔法だ。
攻撃力はあまり無いが、MPの消費が少なくて速い攻撃という事で当時は人気だったのをよく覚えている。
俺がそんな思い出にふけっていると、何故か微妙な眼で見られている…。
「…それだけですか?」
俺が少し何とも言えない気持ちでいると、レナーテ・ミュルディルさんが厳しめな視線で俺を見ながらそう言ってきた…。
「いや、他にも出来る事はあるがこれが1番MP…魔力の消費を抑える事が出来ますからね」
俺がそう説明をすると、
「詠唱無しで魔法を使うのは凄いと思いましたが、正直がっかりですね。ライトニング程度の魔法なら一節詠唱で発動出来ます」
レナーテ・ミュルディルさんが俺と同じ様に誰もいない空間に手を向け、
「風裂きの雷撃よ、ライトニング」
ライトニングを発動させた。
詠唱無しの方が戦う時には有利になるのにな、と思いながらも少し満足気に胸を張っているレナーテ・ミュルディルさんに、
「すみません。このくらいは出来ますよね。少し舐めていました。リーゼロッテさんの口ぶりから、全然魔法が使えないのかと思っていましたよ」
そう言いながら拍手をする。
すると、
「余裕そうに言ってるけど、このままじゃ貴方の事を講師だと認めるつもりはありませんよ?」
レナーテ・ミュルディルさんがそう言ってくる。
そんな言葉を聞いた俺は、一発上級魔法でも見せてあげたくなる気持ちが出てくるが、俺は上級魔法は取得していないのでどうする事も出来ない。
特定のアイテムで上級魔法を使用できる物もあるが、それを今ここで使うのは流石に勿体無いし、どうしたものか…。
俺はそう思いながら、
「じゃあこれはどうかな?…フレイムストーム」
小さな炎の渦を作り出す。
MP消費量が激しい代わりに、攻撃力も上級魔法に引かない威力がある。
流石に今回は本気では発動させられないが…。
俺がそう思っていると、
「…2つの属性を使えるんですね」
少し悔しそうな顔でレナーテ・ミュルディルさんがそう言ってきた。
俺はその言葉に、
「いえ?一応基本の属性魔法は全部使えますよ」
そう言い返した。
すると、
「嘘を言わないで下さいッ!基本となる属性の魔法でも8種類もあるんですよ!」
怒った様に言い返してくるレナーテ・ミュルディルさん。
そんな言葉に俺は、
「はい。俺はそういう魔法の取得をしましたが、結構珍しいタイプですからね。自分の知っている人達だと、2,3種類の属性を上級魔法まで取得している人が多かったですから。俺は上級魔法は使えませんが、中級魔法までなら全ての魔法が使えます」
事実を告げる。
…基本的にソロプレイヤーの俺が上級魔法を取得しても、スキが出来て一方的に殺されるのがオチだったからな。
俺がそう思いながら周りを見ると、皆目を見開いて驚いている様な表情をしている。
もしかして、また俺の知っている知識とこの世界の常識に違いがあったのか…。
やらかしてしまったかもしれない…。
俺がそう思ったその瞬間!
レナーテ・ミュルディルさんに向かって飛んでくる土属性の初級魔法、アースバレットが見えた!
俺は一気に脚全体に力を込めて地面を蹴ると、レナーテ・ミュルディルさんとアースバレットの間に動く事が出来た。
そして………。
ドパァンッ!!
俺の体にぶつかって弾けてしまった土魔法の威力を確認しつつ、俺は魔法が飛んできた方に視線を向けた。
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