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俺の質問を聞いた女性は、少し思案するような表情をした後、
「そうですね。おそらく臨時の講師になるとは思います」
そう言ってきた。
俺はその言葉を聞いて、定期的な収入に心惹かれる。
冒険者の収入は当分多くは入らないだろう、基本的に日銭くらいだ。
それなら、しっかりと働いて相応の金額を貰える所に就職したいものだ。
俺はそう考え、
「では少し見学をしたいのですが」
女性にそう切り出す。
俺の言葉を聞いた女性は、俺が何を言っているのか理解出来なかったのか首を傾げて表情も少し考えている様な顔つきだ。
俺はそんな女性を見て、
「出来れば俺は貴女に協力したいですが、まずどういう環境なのか一度魔法学院に連れて行ってもらう事は出来ないんですか?」
もう少し詳しくそう聞いてみると、彼女は少し悩んだ後に、
「分かりました。私もそういう事例は聞いた事が無いのでどうなるかは分かりませんが、頑張ります!」
そう言って一気に立ち上がると、膝の上に置いてあった本が地面に落ちて中から紙がばら撒かれる。
「あぁぁッ!大切な資料と教本が!」
女性はそう言って地面に落ちた本と資料をかき集める。
やっぱりこの人、ドジッ子だ。
俺はそう思いながら足元まで滑ってきた資料を拾い、慌てている彼女に手渡すと、
「あ、ありがとうございます。…そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はリーゼロッテ・クロスと言います」
彼女はまた、先程の行動が嘘かの様に姿勢を整えてそう自己紹介をしてきた。
なんか、二重人格を疑うレベルで体を纏う空気が変わる人だな。
俺はそう思いながら、
「俺はヴァルダと言います」
自己紹介をすると、女性…リーゼロッテさんは表情を曇らせる。
なにか俺の名前に問題があったか?
俺がそう思っていると、
「えっと、ヴァルダさんは貴族の方では無いのですか?」
リーゼロッテさんが少し聞き辛そうに質問をしてきた。
そう言えば、この世界の魔法は貴族しか使えないとか言ってたっけ…。
俺はそんな会話を思い出しながら、
「そうですね。でも俺がそこそこ魔法を使える事は、貴女の魔眼が証明していますよね?」
そう言うと、彼女は静かに頷いた。
「では、案内よろしくお願いします」
俺が改めてそう頼むと、彼女は返事をして歩き始めた。
俺もリーゼロッテさんに付いて歩いて行くと、俺は先程1人で歩いていた時よりも視線を感じる事に気がつく。
俺はそう思って視線を辿って視線の主達を見ると、そこには俺と言うよりもリーゼロッテさんを侮蔑の色で染まった笑みを向けている。
何故亜人でも無い彼女があの様な目で見られているのか疑問に思っていると、
「あの、視線にはあまり気にしないで下さいね。おそらく私が見られているだけですので」
リーゼロッテさんがそう言ってくる。
俺はその言葉を聞いて、
「何故貴女があの様な視線を送られているのか分からないんですが、どういう事ですか?」
歩きながらそう質問をすると、
「私は魔法学院で生徒の成績を上げる事が出来ない駄目教師ですから、生徒にも馬鹿にされているんです」
リーゼロッテさんは前を向いたまま、俺の質問に答えてくれる。
学院でもそういう虐げる者と虐げられる者で分かれているのか、なんか俺がそこに行ったらストレスで常にイライラしていそうだな。
俺がそう思っていると、
「あ、でも私の生徒達はそういう事は無いんですよ。皆少し気難しい所はありますけど、とても良い生徒達なんです」
リーゼロッテさんが慌ててそう弁明する様に話してくる。
俺はその言葉を聞きながら、魔法学院がどういう場所なのかを考えながら、
「それなら良かったです」
リーゼロッテさんの言葉にそう返す。
そうしている内に、少し離れた所に他の建物とは装飾が違う建物が見えてきた。
やはり貴族の子供達が通っているくらいだ、寄付金などの援助も凄い金額になるのだろう。
もしかしたら、不正などもあるかもしれないな。
俺がそう思っていると、リーゼロッテさんが魔法学院の校門を潜る。
俺もその後に付いて校門を潜ると、制服を着ている学生が何人もいる。
改めて思い出してみると、街にいた若者は皆ここにいる人達も同じ制服を着ていたな。
俺がそう思い返していると、
「こっちです」
リーゼロッテさんが何故か校舎には向かわずに中庭の様な場所を指差している。
俺はそれに黙って頷いて付いて行くと、どんどん校舎から離れていく。
何で校舎に入らないんだ?
俺がそう思っていると、中庭を抜けて更に学院の奥へ足を進める。
そうして見えてきたのは、
「まさか…」
先程の校舎とは真逆の、少しボロボロの校舎が見えた。
あまりのボロボロ具合に、物置かと思いたいのだが大きさはそこそこあるし、おそらく旧校舎とかなのだろう。
俺がそう思っていると、
「ここが、私が受け持っている生徒達のクラスです。お恥ずかしい限りですが、ここが教室です」
リーゼロッテさんが少し苦笑しながらそう言ってきた。
俺は今の様子を見て、彼女が噴水で呟いていた独り言が少し理解できた。
校舎の中が綺麗なら問題は無いかもしれないが、リーゼロッテさんの言った言葉を思い出すとそれも駄目そうだな。
俺がそう思って校舎を眺めていると、リーゼロッテさんが先に校舎に入っていく。
俺は慌ててそれに付いて校舎に入って行くと、
「…なるほど」
俺は旧校舎であろうこの空間を見てそう声を出す。
廊下自体は綺麗に掃除されているが、雨漏りか何かで腐ってしまったのか穴が開いている廊下の床に雑に板が打ちつけられている。
「…お恥ずかしい限りです」
俺の校舎の内部を見て出た感想に、リーゼロッテさんは少し暗い声でそう言ってきた。
ふむ、壁にも少し隙間があるな、隙間風が吹いてるのが肌に当たって分かる。
これ、冬とか大丈夫なのだろうか?
俺がそう思っていると、
「そ、それでは教室に案内させていただきます」
リーゼロッテさんがそう言って少し早歩きで廊下を進んでいく。
俺はその様子を見ながら付いて行くと、あまり歩かない内に1つの教室の前でリーゼロッテさんが立ち止まり、教室内を覗き込んだ。
何をしているのだろうか?
俺がそう思っていると、
「今日は3人、いるようですね」
そう言って、まるで安心した様な顔をした…。
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