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俺から少し離れた場所に座ってため息を吐いた女性は、少し落ち込んだ様に頭を下げていた。
少しして頭を上げると、今度は持っていた本を広げて読み始め熱心に頷いたりしている。
…歳は俺よりも上に見える、恰好はスーツの様な服にコートの様な物を着ている。
あまりジッと見ているのは失礼だな。
俺はそう思って彼女から視線を外すと、誰も座っていないベンチが見えた。
わざわざここに座る意味があったのだろうか?
俺がそう思っていると、
「ハァァ~~…」
また隣からため息が聞こえてきた。
少ししか見ていないが、仕事が出来る女上司みたいなイメージの美人な女性だったが、あまりのため息の多さに何か仕事などで失敗してしまったのだろうか?
そう考えてしまう。
すると女性は、
「私、何でこうも挑発に乗りやすいんだろう…」
そう言って頭を抱え始める。
…声を掛けた方が良いのだろうか?
それとも無意識に独り言を呟いているのだろうか?
俺がそう思っていると、
「どうやったらあの子達に、今のあんな環境で魔法を教えてあげたら良いの…」
女性が更にそう呟いた。
俺はその言葉を聞いて、女性が複数の人物に魔法を教えている教師的な立場の人間だと言う事を察する。
挑発と言う単語は聞こえたが、どういう状況かは分からない。
だが、教えている環境が悪いのかこの女性の思う通りに魔法を教える事が出来ない事に悩んでいる様だ。
俺がそう思って女性を見ていると、彼女はふと頭を上げて俺の方を見てきた。
「「……………」」
お互いが顔を向けている状態なのだ、目が合ってしまうのは仕方がない。
互いの目を見て数秒、俺と彼女は何も話さずにただ顔を見つめるだけ。
すると、
「ご、御機嫌よう」
女性は今までの呟きを無かった事にする様に、とても上品に微笑んで俺に挨拶をしてきた。
あまりの先程との違いに、
「ど、どうも」
俺は少し驚きながら返事をする。
まさかさっきのため息と独り言を聞かれていないと思っているのか?
確かに小声ではあったが、周りが静かで更に人2人分くらいしか離れていない距離だったんだぞ…。
俺はそう思いつつ、とりあえず彼女から視線を外して噴水を見る。
俺は噴水を見ながら、この人は見た目はキリッとした美人だが中身は違うかもしれないと考える。
まぁ、俺には関係ないか。
俺はそう思って少しこの街を探索しようと考えて立ち上がると、
「あ…あの少しお聞きしたいんですが…」
まさかの女性に声を掛けられた。
流石に無視する訳にはいかないので、
「何ですか?」
顔を女性に向けてそう返事をすると、女性は怒っている様な険しいというか、目力を強めた瞳で俺の事を見つめている。
俺が女性の様子を窺っていると、
「あの、初対面の方にこの様な事を聞くのは失礼なのですが、魔族の方でしょうか?」
彼女はそう聞いてきた。
そんなにこの外見、魔族に見えるだろうか?
俺はそう思いながらも、
「いえ、俺は人族ですが…」
女性の質問にそう答えると、彼女は少し呆けた様な顔をしてから、
「え?でもその魔力の量は、賢者様と同等の魔力がありますが…」
そう言ってきた。
彼女が言っている魔力がMPの事なら、俺はこの世界では上位に入る事が出来るだろう。
だが今問題視するのは、それを見破った彼女の眼だ。
どうして彼女は俺のMPを知っている?
俺は少し動揺するが態度には出さない様に、
「何故貴女は俺の魔力の量が分かるんですか?」
そう聞くと、彼女は慌てた様子で、
「あ、あのステータスの盗み見をした訳ではありません!その…私、魔眼なんです」
そう言ってきた。
魔眼?
魔眼とは何だ?
そういうスキルは無かった様な気がするが…。
俺はそう思いながら、
「魔眼とは何でしょう?」
そう質問をすると、彼女は驚いた表情をして、
「魔眼を知らないんですか?」
質問を返してきた…。
俺はその問いに頷くと、
「…ありがとうございます」
何故かお礼を言ってくる彼女。
どういう意味でお礼を言ってきたのだろうか?
俺がそう思っていると、
「魔眼は様々な種類があるのですが、私の魔眼は見た人の魔力量を体に纏うオーラの様なモノに見えるんです。先程見た時に貴方の魔力量が多いのが分かり、もしかしたら魔族の方なんではと思って声を掛けさせていただきました」
そう説明をしてきた。
魔眼、少し面倒なモノが出てきたな。
俺はそう思いながら、
「魔族に何の用があったんですか?」
そう質問をすると、彼女は少し顔を曇らせて俯き、
「実は私、レベルデン魔法学院の教師をしているのですよ」
そう言った。
あぁ、あの独り言は完全に口から漏れていたんだな。
しっかりとした人かと思ったが、やはり中身は抜けているのかな?
「さっきその様な事を独り言を呟いていましたよ」
俺が確認する様にそう言うと、女性は少し固まった後、
「…言ってました?」
そう聞いてくる。
俺はその問いに、
「言ってました」
正直に返答すると、
「またやっちゃった…」
女性はそう呟いた。
その言葉を聞いた瞬間、俺はある疑惑が頭を過った。
もしかしてこの女性は、外見はしっかりとしているが中身は残念というかドジッ子なのではないかと。
俺はそんな可能性を考えつつ、
「それで、貴女が魔法学院で働いている事と魔族にどんな関係があるんですか?」
そう問うと、彼女はハッとした様子で、
「教え子達に良い環境を与える為に、今度行われる魔法学院のクラス対抗の大会があるのですが、その優勝の商品を設備改善にして欲しいとお願いしたんです。ですが、私の力不足の所為で他の教員達には優勝なんか出来ないと言われてしまいました。実際、他のクラスの人達に比べて実力不足なのは理解しています。ですが、どうしても設備や教材をしっかりとしてあげなければ基礎が勉強出来ません。それで、魔法に長けている魔族の方に少しだけでも良いので、生徒達に魔法を教えて貰えればなと思いまして…」
俺の問いにしっかりと答えてくれた。
ふむ、あの独り言を聞いた感じ嘘は言っていない様だな。
それにしても、学校の中でも不平等が行われているのか。
生徒同士なら俺のいた世界でもあった事だが、学校側がそんな事をしたら大問題になっているだろう。
俺はそう思いつつ、
「その場合、臨時教師的な立場になるんですか?」
女性に一番気になる事を質問した。
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