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カルラの背中から見える光景は、何故か荒れた荒野だった。
い、一体どこまで来てしまったんだ?
俺はそう思いつつ辺りを見回してみると、何やら荒れ果てた大地に緑色の何かが見える。
草木ではなさそうだが、ここからでは見えないな。
俺はそう思いつつ、あの緑色の何かに近づくかを考える。
…寝ているのか、動く気配が無い。
下手に喧嘩を売るのも面倒だ、何か起きた時に相手をすれば良いだろう。
俺はそう考えると、
「カルラ、ゆっくりと向こうに飛んでくれ」
カルラにそう指示を出すと、彼女はゆっくりと旋回して俺の指示を出した方角に進み始める。
そうしてカルラの背中に乗って空の旅を楽しんでいると、少し遠くに帝都とは違う街並みが見えてくる。
城の様な建物が中心に建っており、そこから少し離れた所に城に負けないくらい大きい建物があり、それ以外はあまり大きい建物は無い様に見える。
あそこがレベルデン王国か?
俺はそう思いながら、
「カルラ、少し離れた所で下ろしてくれ」
カルラにそう頼むと、彼女は返事をして徐々に降下していく。
そうして地に降り立つと、カルラはまた少し俺から離れる。
「ありがとうカルラ」
俺がそう言うと、カルラは少し俺の事をチラッと見た後にまた顔を逸らしてしまう。
また機嫌を損ねてしまったのだろうか?
俺がそう思っていると、少しの間があった後にカルラは俺の方を向いて俺の正面に立つと、
「キュルルゥ…」
カルラがそう喉を鳴らしたような音をさせて、俺の腹に頭を押しつけてグリグリとこすり付けてきた。
まるで甘えている様だな。
俺がそう思いながらカルラの頭に触れると、彼女は大人しくなる。
そういえば、こっちの世界に来てから自我を持った他の皆と会っていないな。
「UFO」の時には感情とかはなかったと思うが、今は皆それぞれの考えを持って生きている。
…寂しい思いをさせてしまっていたんだな、だからカルラは拗ねてしている様な態度を見せていたのか。
言葉を話す事が出来なくても、しっかりとした意思疎通は出来る。
今度改めて、塔の皆に会いに行こう。
しっかりと皆と会話をして、意思疎通をしないとな。
俺がそう思いながらカルラの頭を少しだけ撫でていると、彼女は満足したのか俺から少し離れる。
俺はそれを見て、
「…今度、もっとゆっくりと出来る時に会いに行く」
カルラにそう言うと、彼女は一鳴きして返事をしてくれる。
俺はカルラの返事を聞いて、本の中の世界を開いてカルラを塔に送り返す。
さて、では行きますか。
俺はそう思いながら歩き始める。
あそこがレベルデン王国なら良いのだが、違っていたら検問をしている者にでも聞いて教えて貰おう。
俺はそう思いながら草原を歩き、帝都よりかは高さや頑丈さが劣っている街の壁まで来ると、開いている門がありそこに談笑している門番達がいた。
俺が門へ近づくと、談笑していた男達は俺に気づいて気を引き締める様に腰に差している剣の柄に手を添える。
俺はその様子を見ても動じずに淡々と彼らに近づいて、
「どうも」
そう挨拶をする。
「…身分を証明する物の提示を」
俺がとりあえず友好的だと判断した門番の1人が、手は剣の柄から動かさないで俺にそう言ってくる。
門番の人の言葉を聞いた俺は、前に発行した冒険者カードを門番の人に見せる。
彼は剣の柄に触れている手とは反対の手で俺の冒険者カードを受け取ると、それに目を通して俺の素性を確認する。
俺はそれを黙って見守っていると、門番の人は俺に冒険者カードを返してきて剣の柄に触れている手を降ろし、
「確認しました。どうぞお通り下さい。ようこそ、レベルデン王国へ」
俺の前から移動して道を開けて歓迎してくれる。
「ありがとう」
俺はそう言って歩きちゃんとレベルデン王国に入国すると、帝都よりかは賑やかでは無いんだなと思う。
確かに賑やかさはあるが、帝都の様な大騒ぎでは無い。
それと、意外に人が少ない様に見える。
俺はそう思いながら街を歩いていくと、更に気づいた事がある。
大人の数が少ないような気がするのだ、お店の人は大人だが客は俺と同年代くらいの人が多い。
大人も数人くらいはいるが、やはり今まで見てきた街の光景とは異なる。
俺がそう思っていると、もう1つある事に気がついた。
それは、亜人が俺の見える範囲にはいない事だ。
どういう事だ?
俺がそう思って立ち止まって考えていると、ふと視線を感じる。
…全方向から見られている。
俺自体が珍しい訳では無い…と思うのだが、何で見られているんだ?
俺がそう思って辺りをキョロキョロと見回すと、俺に視線を感じた者達が慌てて視線を逸らすのが分かる。
…変に注目されている。
俺はそう思うと、とりあえず人が少ない所を目指して歩き始めた。
そうして噴水がある広場まで来てしまった。
さっきの商店があった通りとは違い、人はいるのだが大半の人が俺の事など気にしていない。
定番のデートスポットなのか、恋人同士の人達が多いな。
恋人に夢中になっている者達は、俺になど目も暮れず会話を楽しんでいる。
1人でいる人は、噴水の近くで読書をしている故に俺の事を見ていない。
静かな所だな、恋人達も会話を顔を近づけて会話しているから声は小さいし、少し聞こえる音は噴水を流れる水の流れる音と先程通った商店の者達の客引きが少し聞こえてくる位だ。
俺はそんな落ち着いた空間の隅に置かれているベンチに座ると、少し肩の力を抜く。
今までが今までだった所為か、どうしても新しい場所に行くと問題などが発生して休めなかったからな。
今の所何も起きていないし、このまま観光もありかもしれない。
俺がそう思っていると、
「あの、隣良いですか?」
突然声を掛けられて少しビックリする。
気を抜いていた所為で気配に気づけなかったのか?
俺がそう思いながら声を掛けられた方向に顔を向けると、そこには何やら意気消沈している女性が俺の様子を見ながらそう聞いてきていた。
「あ、あぁ、どうぞ」
俺がそう言うと、女性は失礼しますと言って俺から少し離れたベンチの隅に座り、
「ハァァ…」
とっても大きなため息を吐いた…。
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