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え?え?え?
俺はあまりの信じられない光景に呆然としてしまう。
ま、待て待て!
これは夢に違いない!
だって「UFO」のサービスは終了したんだ。
しかもNPCの彼女がシステム以外の事を話す訳がないし、あんなに声に感情が籠っているのもおかしい!
「どうかされましたかヴァルダ様?」
NPCである彼女が、俺の元に近づいて来て首を傾げながら俺の様子を窺ってくる。
これがもし現実であるなら、今シェーファに触れると髪の感触、肌のぬくもりを感じる事が出来る。
「UFO」には無かった、繊細な感触を確かめてみるしかない…。
決して理由を付けて、美人な女性に触れたい訳では無い!
「シ、シェーファ」
俺は震える声を出しつつ、シェーファの名前を呼ぶ。
すると、
「はいヴァルダ様」
彼女が笑って答えてくれる。
「あ、頭を触らせて欲しい」
な、なんとか言えた…。
あれ?
でもこれってある程度の親密度が無いと変態扱いされるんじゃ…。
俺が一人でそんな事を考えていると、
「どうぞ、好きなだけお触り下さい」
彼女はサラサラな白色に近い金髪を俺が手を乗せやすい様に下げてくれる。
彼女はエルフの中でも希少なハイエルフだ。
そんな彼女の頭に触れるのだって、ゲームをしていた時は全然気にしなかった。
でも今俺の目の前で動き、声を出してくるその姿に俺は緊張してしまう。
そして、俺はやや震える手を伸ばしてシェーファの頭に触れた。
その瞬間、彼女の繊細な髪の感触が伝わり、その少し後から少しだけ体温も感じ取れる。
ゲームの時には、こんな細かくなかった…。
「あ、ありがとう」
俺はそう言ってシェーファの頭から手を離すと、
「私の方こそ、頭を撫でて下さりありがとうございます」
彼女は更に頭を下げて、俺にお礼を言ってくる。
これで、現状は「UFO」とは違う空間にいる事は確定した。
可能性があるとしたら、新しい「UFO」に接続されている可能性と、それよりもありえないが…「UFO」と似ている世界に迷い込んでしまったかだろう。
とりあえず色々と現状を把握しないといけない。
俺はそう思って立ち上がると、少し違和感を覚える。
「…HPバーとMPバーが無い」
ゲームには必須であるHPとMPが分かる表記が無い。
それに加えて、今まで「UFO」をプレイしてきた時の見え方では無い。
まるで、本当に生身で見えているかのように視界にゲーム特有のアイコンなどが無い。
そうだ、メニュー画面を!
俺はそう思って、人差し指と中指と親指を使っていつもの様にメニュー画面を出そうとするが何も反応が無い。
何か違う反応でメニュー画面が出る可能性があるな。
俺はそう思って行動しようとするが、
「……」
「♪♪」
目の前にいるシェーファが何やら期待をした眼差しを、シェーファの隣まで移動していた饅頭はプルプル弾んでいる。
ここでやるのには、目が多いな。
俺は少しずつ冷静になってきた頭を総動員して考える。
メニュー画面が出ないという事は、ゲームのバグの可能性がある。
サービス開始日とかにはよくあるから、これは時間が解決してくれる事を考えて、今しなければいけない事は…。
「外に出てくる」
俺がそう言って歩き出そうとすると、
「お、お待ち下さいヴァルダ様!」
シェーファが俺の前を遮る様に立ち、頭を下げてくる。
「どうしたシェーファ?あと、頭を上げてくれ」
俺がそう言うと、シェーファは顔を上げて、
「服を着ないと、ヴァルダ様のお体を他の女が見てしまいます」
俺にそう言ってきた。
って服を着ないとって…。
俺はそう思いつつ、おそるおそる自分の視線を下に移す。
そして確信する。
俺は今まで下着姿だったようだ。
その後、俺は装備を着け直して部屋を出ると、そこにはいつも見慣れている塔の光景が見える。
窓から外の光景を見ると、いつもならありえない光景が目に入ってくる。
そこには、俺が丹精込めて育てたモンスター達が空を飛び、地を駆けていた。
あそこまで自由に動いている彼らを、俺は見た事がない。
正直、俺はもう満足した。
今までシステムの範囲でしか活動出来なかった皆が見れただけで、俺はもう十分満足してしまった。
俺がそう思っていると、
「主、起床しましたか?」
後ろから声を掛けられる。
振り返るとそこには、エルヴァンが大剣を担いで立っている。
そして、サッカーボールを持つ様に脇腹に頭を持っている。
「あ、あぁ。おはようエルヴァン」
俺がエルヴァンに挨拶をすると、エルヴァンも挨拶をして外を見る。
…あの首の位置じゃ見えにくいか、もはや見えないんじゃ。
俺がそう思っていると、
「今日は外で素振りをしますが、それでよろしいですか?」
エルヴァンが俺にそう聞いてくる。
エルヴァンは物理攻撃と物理防御の2つを高めたステータスをしている。
「あ…あぁ。存分に力を高めな」
俺がエルヴァンに許可を出すと、
「ハッ!!」
エルヴァンは力強く返事をして下に向かって行った。
とりあえず見た感じは、育てたモンスター達は俺に従ってくれている。
だが、今見る感じだとモンスター達にはしっかりと自我がある。
そこを考えると、俺は彼らや彼女達の主としての責任や威厳が足りて無い。
まぁ、俺はどちらかと言うと威張りたい訳じゃないからな。
出来れば主と言うよりも、頼り頼られみたいな関係が良い。
俺はもう、皆の事をゲームの中とはいえ家族だと思っていたしな。
俺がそう思っていると、
「ヴァルダ様、いた」
塔の様々な管理を任せているという設定のシルキー、セシリアが突然現れる。
彼女はこの塔の全階層を移動する事が出来る故に、たまにしか遭遇する事が無い。
そんな彼女がわざわざ俺の元に来たという事は、何かしらの問題でも発生したのかもしれない。
もう忙し過ぎて、頭が回らなくなってきているぞ…。
「どうしたセシリア?何か問題が発生したか?」
俺がそう問いかけると、彼女はこくんと頷く。
ここで問題発生か。
俺が対処できる問題なら良いんだが…。
俺がそう思っていると、
「ここ、いつもと違う」
セシリアが警戒しているのか、少し顔をしかめて俺にそう報告してきた。
違うって言われたら、確かにそうだと俺も心の中で同意する。
だが、彼女が言いたいのはおそらくそっちでは無いんだろう。
彼女はシルキーなのだ。
つまり、
「塔のどこが違うんだ?」
そう質問する。
家である塔に問題が発生したから、俺に報告しに来たのだろう。
すると、セシリアは首を振った。
塔の中じゃない?
俺がそう思った瞬間、
「塔の外、この空間の外が変わった」
セシリアが俺にそう言った。
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