65頁
アンリの報告のお陰で、エルヴァンが意外にも早く帰って来るのを聞いて森から出てエルヴァンが帰って来るのを待っている。
アンリにはまだ森で待って貰って、俺はとりあえず欲しいと思っていた素材が手に入って満足だ。
そう思ってエルヴァンを待っていると、遠くからエルヴァンが歩いてくる姿が見えてくる。
エルヴァンの位置からも俺の姿は確認できるはずだから、合図を送ったりする必要はなさそうだな。
俺がそう思っていると、少し遅れてアンリの分裂体であるコウモリが帝都から出てきてこちらへ向かって飛んでくる姿が見えてくる。
ちなみにマンドレイクは採取する訳にもいかず、埋め直して放置しておいた。
2人を待っていると、
「ヴァルダ様、少しお耳に入れておいた方が良い事が…」
後ろから本物のアンリが少しふらふらと歩きながらそう言ってくる。
何か報告があるのか?
俺はそう思いながら、
「分かった。エルヴァンと分裂体が戻ってきたら話を聞こう」
そう答えると、アンリは安心した様な表情をしてエルヴァンとコウモリに手を振る。
そうしてエルヴァンとアンリの分裂体が俺達の元に戻って来ると、
「お待たせしましたヴァルダ様、ただいま帰還しました」
エルヴァンが頭を首から下ろし、膝を地に付け挨拶をする。
「アンリから少しだけ話を聞いた。面倒な事を押し付けてすまなかったな」
俺がエルヴァンにそう謝罪をすると、エルヴァンは立ち上がって、
「いえ、あの様な場所は塔の生活では体験できなかった事。良い経験になったと思います」
そう言ってくれる。
すると、
「ヴァルダ様、エルヴァン様。お伝えしたい事が…」
分裂体を吸収したアンリが、俺とエルヴァンにそう言ってくる。
「そうだな。とりあえず塔に戻るとするか」
俺はそう言うと、本の中の世界を開いて3人で塔へと帰還する。
塔へ帰ってきた俺達は俺の自室に集まり、俺は椅子に、エルヴァンとアンリはソファーに座らせて、
「ではアンリ、話しておきたい事とは何だ?」
俺はアンリにそう質問をする。
すると、アンリは勢い良く立ち上がり、
「は、はい!エルヴァン様が建物に入った所を見まして、僕は窓から中の様子を窺っていたんです。その時に気になる事を言って大笑いをしていた男がいたんですよ」
そう言ってくる。
俺はそれを聞いて、
「エルヴァンが建物に入ったという事は、冒険者ギルドか?」
エルヴァンにそう聞くと、彼は膝の上に置いてある頭からはいと返事が来る。
俺はエルヴァンの返事を聞いて、
「冒険者ギルドで気になる事を言って大笑いをしていた男、どんな姿か覚えているか?」
アンリにそう聞くと、
「はい。エルヴァン様よりも弱いのは確定ですが、周りにいた者達よりも強そうではあった男です。無精髭で短髪、装備の様な物は着けていませんでした」
アンリはそう教えてくれる。
俺もあまり冒険者ギルドに行ってはいないが、その様な人は見た事が無いな。
俺はアンリの言葉にエルヴァンの方を見て、
「エルヴァン、その様な人物に心当たりはあるか?」
そう質問をする。
すると、
「短髪…無精髭…。もしかしたら、ギルドマスターかもしれません」
エルヴァンからそんな予想もしていなかった人物の名前が出てきた。
俺は心の中で驚きながら、
「アンリの話も聞きたいが、それよりも先にエルヴァンが帝都のギルドで何があったのかを聞く方が、アンリの話を理解するのに必要だな。すまないがアンリ、少しだけ待ってくれ」
アンリにそう言うと、彼は返事をしてもう一度ソファーに腰を下ろした。
俺はその様子を見て、
「ではエルヴァン、俺と別れた後の話を頼む」
エルヴァンにそうお願いする。
その後は、エルヴァンの話を聞いて状況が凄い勢いで変化しているのを知った。
驚いたのが、エルヴァンが俺よりも格上の第一級冒険者になったらしい。
経緯を聞くと、バルドゥに続いてエルヴァンまでライトノベルの主人公の様な物事を起こしていたらしい。
そうして第一級冒険者になった証の、冒険者カードを見せて貰った。
俺はエルヴァンが全く知らない土地で頑張った事を聞き、
「良くやったと、俺は思うぞエルヴァン」
そう言うと、エルヴァンはお礼の言葉を俺に言ってくる。
それにしても聞いた感じ、エルヴァンはあまり冒険者達には興味を示していない様だな。
だが第一級冒険者になると、国からの要請とかにも応じないといけないのは面倒だな。
エルヴァンが簡単に俺以外の者の指示を聞くとは思えないし、これはまた対策を考えないといけないかもしれないな。
俺はそう思いながら、
「さて、待たせてすまなかったなアンリ。お前の見た事を、俺に教えてくれ」
アンリに改めてそう言うと、彼は今度は焦らないでしっかりと返事をすると、
「で、では改めて話させて頂きます。エルヴァン様の教えて下さったギルドマスター?という方が、エルヴァン様が今後依頼などで功績を上げれば、皇帝陛下という人物の目に留まり、騎士団長を交代させる死闘が行われるって言ってました。その闘いにエルヴァン様が勝てば、自分にも報酬金が入ると言って大きな声で笑っていましたよ」
アンリがそう報告してくれる。
騎士団長、レオノーラさんとの死闘か。
国を護る騎士団長は強い者がなるのは当然だが、それは騎士団の中で選ばれると思っていた。
だが実際は、強者であれば誰でも良いのかもしれないな。
つまり、エルヴァンに功績を上げて貰えばレオノーラさんとエルヴァンが戦える。
レオノーラさんなら、エルヴァンの強者との闘いをする事が出来る。
俺はそう思うと、
「報告ありがとうアンリ。…それでエルヴァン、初めて塔の外を出てどう思った?」
エルヴァンにそう質問をする。
するとエルヴァンは、
「ハッキリと言えば、冒険者ギルドの連中は大した事はありませんでした。…ですが、私の知らない武具、剣術がある事が分かり、少しだけ興味を持つ事は出来ました」
そう言って膝の上に乗せている頭を持ち上げて頷く様に動かす。
積極的ではないにしろ、外の世界に興味を持ってくれるのは良い事だな。
俺はそう思いながら、
「アンリ、お前はどうだった?凄く楽しそうにしていたが」
そわそわしているアンリにそう質問をする。
俺に質問されたアンリは、少しキョロキョロと周りを見たり慌てている様な様子を見せていたが、何かを決心した様な顔つきになると、
「ヴァルダ様、僕は外の世界に出てみたいです!」
俺にそう言ってきた。
読んでくださった皆様、ありがとうございます!
ブックマークしてくださった方、ありがとうございます!
評価や感想、ブックマークをしてくださると嬉しいです。
誤字脱字がありましたら、感想などで報告してくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。




