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結局騎士団の女騎士とその仲間達が倒れている冒険者や野次馬達を叩き起こし、冒険者ギルドの前は私が来た前と同じように人々が通れるくらいまで空間が出来た。
「えっと、いったい何があったんですか?」
私がそんな様子を見ていると、今までワイバーンの件で一部しか状況を知らないであろう冒険者の男が、満足そうな顔でそう聞いてきた。
「色々とあってだな。そうだ、仲間の獣人の者が私の所為で斬られてしまってな。手を貸して欲しい」
私は説明をするのを面倒だと判断し、今やるべき重要な事だけを伝える。
だが、
「え?獣人を助けるのに手を貸してくれ?冗談ですよね?あんなのは同じ奴隷に任せれば良いんですよ」
私の期待とは反対の言葉が返って来た。
私は彼の言葉に、
「…互いに意思疎通が出来る時点で、互いに対等であると私は思っている。彼らは獣の姿をしていても同じ言葉を話す対等者だ」
そう言い返すと、今までへらへら笑っていた男が、
「…まさかあんた、獣人が好きな変態野郎か?」
今度はニヤニヤと笑ってそう聞いてくる。
今まで媚びを売っていた様な話し方から、一気に馬鹿にしている様な話し方に変わった。
「獣人が好きとか嫌いの問題では無い。仲間を助けるかどうかの話をしている」
私がそう言うと、
「あれは冒険者ギルドが管理している奴隷だから、依頼を終えたらギルドに返すんですよ~。だから、あれにはもう俺達との関係はないッスよ。ほっときましょう」
彼はそう言って何やら袋を私に突き出してくる。
「これ、ワイバーンの解体してもらった銀貨です」
目の前の男がそう言うのを見て、
「そうか。…ならそれは今私が頼んだ獣人の彼の治療費に使ってくれ。余ったのはお前達の懐に入れてかまわない。その代わり、彼にしっかりと回復薬を使ってやってくれ」
私がそう頼んでみると、冒険者の男はキョトンとした顔で私と手に持っている袋を交互に見た後、
「そ、それだけで良いっすか?正直、結構銀貨余りますよ?」
そう聞いてきた。
私はその問いに頷いて、
「しっかりと治療をしてくれるなら、問題ない。礼と言うのもしなくて良い。ただし治療をしていなかったと分かったら、お前達がどうなるか私は保証しないがな」
そう言って背中に背負っているドラゴン殺しの柄を指でなぞると、彼はビクッと震えた後に、
「す、すぐに行ってきます!」
そう言ってギルドの中へ入って行った。
これ以上ここにいても仕方がない、ヴァルダ様の元へ帰ろう。
私がそう思って冒険者ギルドに背を向けようとすると、
「待ちなあんた」
私に声を掛けてくる男、ギルドマスターが何やら手を振っている。
「何だ?」
私がそう聞くと、
「まぁあんたが、これからどう生きるのかは俺には何も言えねえが、冒険者登録をしておくのは何かと便利だからな。しておいて損は無いと思うぜ」
彼はそう言って冒険者ギルドの中を親指で指差す。
「分かった。それがあれば、今後他の国に行く事があっても面倒事が起きないというならな」
私はそう言って冒険者ギルドの中へ改めて入り、受付へと来る。
前とは違い、背後からの視線が無い。
感じるのは畏怖の感情。
塔での暮らしでは感じる事がなかった、向けられる感情。
この多少の満足感は、私がデュラハンだからだろうか?
私がそう思っていると、
「じゃあ簡単な質問をするぞ、名前は?」
ギルドマスターの隣に座っている受付の男が私にそう聞いてくる。
「エルヴァン」
名前を言うと、他にも様々な事を聞かれた。
どの質問も、何故聞いてくるのかも分からずにとりあえず淡々と答えていく。
そうしてようやく、
「ではエルヴァンさんは、ギルドマスターの推薦もあり第一級冒険者です。依頼の制限などはございませんが、有事の際に国やギルドに召集される程の問題が起きた時は、強制的に問題の解決に尽力してもらうので、それだけはお忘れないように」
受付の男から紙をカードを渡される。
私はそれを手に取り、
「これで終わりか?」
受付の隣に立っているギルドマスターにそう聞くと、彼はニカリと笑って手を差し出し、
「時間を取らせて悪かったな。これからよろしく頼むぜ、期待の新人エルヴァンさんよ」
そう言ってきた。
私はそんな彼の手を掴み、
「あぁ」
そう短く返事をして手を放すと、私は冒険者ギルドを後にした。
獣人の彼が心配ではあるが、今はヴァルダ様に報告をしたい。
私はそう思ってこの国を出ようとすると、この国に入る際に怪しんできた男が私の先程手に入れた冒険者カードを見せた途端、慌てた様子で敬語で見送ってくれた。
ふむ、確かに国の出入りは簡単になって楽にはなったな。
私はそう思いつつ、ヴァルダ様のいる森へ歩み続けた。
エルヴァンが冒険者ギルドを出て行った後。
「ギルドマスター、何で獣人を助ける様な奴を登録させたんですか?」
受付でエルヴァンの冒険者カードを作った男が、騒いでいる冒険者達を見ながらそう聞くと、
「確かに獣人を助ける様な奴はこの世界では扱いづらいかもしれねえが、それでもあの武力は今後の問題が起きた時に必要な戦力になる。基本的にあの男の前では捨て駒達を丁重に扱う様に言っておいてくれ」
ギルドマスターであるゼンは受付の男にそう指示を出すと、ギルドマスター室のある2階へ階段を上る。
ギルドマスターの指示を聞いた受付の男は、面倒くさそうに気の抜けた返事をして業務を再開する。
ゼンがギルドマスター室に入ると、彼は部屋に置かれている瓶を手に取り、中身の酒をコップに注いで呷ると、
「くはぁ~。…あの男があの気色悪い騎士団長よりも腕が良ければ、皇帝陛下の目に留まり団長の座を交代させる死闘が行われる。…あの男が勝てば、俺にも報酬金が入る。く…くく…くはははははははは!」
ゼンはこれから起きるかもしれない予想に嬉しさが込み上げ、1人自室で大笑いをする。
そんなゼンを、窓の外から見て盗み聞きをしているコウモリがいるとも思わずにゼンはただ1人で笑い続けた。
貴重な情報を手に入れたコウモリ、アンリの分裂体はエルヴァンの様子見をするために飛び立った。
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