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私が周りの冒険者という者達に興味を示していると、
「あ、こっちが受付です」
案内をしてくれた獣人がそう言って手を前に向けて教えてくれる。
「そうか」
私が短く返事をして案内に従うと、彼は安心した表情で私の前を歩く。
そうして受付に来ると、
「…何だ?」
受付にいる男性が、私の前にいる獣人に不機嫌そうに声を掛ける。
だが、私の斜め前にいる獣人の彼は特に気にした様子もなくやや引き攣った笑顔を受付にいる男性に向ける。
私の場所からでは少ししか表情を見る事は出来ないが、不自然な笑顔をしているの分かる。
私がそう思っていると、
「は、はい。この人の冒険者登録を案内しろと命令されてここへ来ました」
獣人の彼がそう発言をする。
彼の言葉を聞いた受付の男は、眉間に皺を寄せて私の方を見てくると、
「…立派な鎧に宝飾が施された大剣。あんた、どっかの貴族か?悪いが、あんたみたいな装備が揃っていれば強くなれると甘い考えをしているなら、大間違いだ。周りを見てみろ、あんたみたいなピカピカな鎧なんて誰一人着けちゃいねえ。それはな、それだけあいつ等がモンスター達と命を懸けた戦いをしてきたからだ」
何故か私に説教の様な言葉を吐いてくる。
…ヴァルダ様に怒られるなら全てのお言葉を受け入れよう、だがそれ以外の者の言葉など心にも響かない。
ギリギリ、塔で共に過ごしている者達の話を聞くくらいだ。
「そうか。ならこんな所にいる必要は無…」
「ま、待ってください!あ、あのこの人は私達がワイバーンに襲われていたところを助けて下さったんです。その時に、ワイバーンの体をこの背に背負っている大剣で一刀両断しました!御1人の力だけで!」
私が踵を返そうと動こうとすると、獣人の彼がそう言ってくれる。
だが、
「「「「………あっははははははははははッッ!!!」」」」
彼のそんな言葉に、目の前にいる受付の男だけでなく周りにいた者達も大笑いをしだした。
「ワイバーンと一刀両断??馬鹿も休み休み言いやがれ!」
「確かに見た目は強そうだけど、それでもワイバーンを1人で倒せるなんてもっと有名になってるわよ!」
「おい獣!あまり話を盛るとその鎧の男が恥をかいちまうぞ!」
周りの笑い声に交じって、そんな言葉が投げかけられる。
この者達は、相手の動きや気配でその者の強さを測る事は出来ないのだろうか?
私がそう思っていると、
「ほ、本当にワイバーンを倒したんです!私だけじゃありません、一緒にいた他の者達やアヒム様達も見ていました!」
獣人の彼が必死にそう言ってくれる。
私はそんな周りの大笑いをしている者達に信じて貰おうとしている彼に、私は肩に手を置いて、
「それ以上は別に何も言わなくても良い。こんな所にいても、私の求めていた強者との戦いは出来なさそうだ。面白い形の装備をしている者がいるが、あれも大した強さでは無い」
そう言って立ち去ろうとすると、
「ア゛ァ゛ンッ!!テメェ今、俺達を馬鹿にしやがったなッ!」
スキンヘッドの男が私の前に立ち塞がり、そう声を荒げて言ってくる。
その言葉に、今まで大笑いをしていた周りの者達も殺気立つ。
「事実を述べただけだ。相手の強さを見て理解できない弱者が蔓延っているここに、私は用など無い」
目の前に立つ男にそう言って彼の横を通り抜けようとすると、
「よく言いやがったなテメェ!なら弱者の俺達全員と戦っても、勝てるって言うんだな?」
男は腰に下げている片手剣を抜いて私の前に、道を遮る様に構える。
そんな様子にニヤニヤと笑っている者が見える。
おそらくここで私が戦いを断ったら、また大笑いをするつもりなのだろう。
だが、別にこんな者達に笑われても恥ずかしくなど感じない。
私がそう思って足を踏み出そうとした瞬間、
「おぉっと手が滑ったぁッ!」
片手剣を構えていた男がわざとらしくそう声を出して斬りかかってくる。
剣筋から見て私の脇腹の辺りか、威力は無い。
なら無視をしても良いだろう。
そう思って男を気にせずに歩み出そうとした瞬間、
「待って下さい!」
なんと私を庇う様にここまで案内してくれた獣人が向かってくる剣の前に立つ。
その瞬間、私は見た。
ニヤニヤしながら剣を振っていた男が、獣人が前に出た瞬間に剣に力を込めて振るったのを。
「ぐ…あ゛ぁ゛ッッ!」
元々防具としては機能が落ちている装備を斬られ、その内にあった体を斬られて苦痛の悲鳴を出す。
「獣の分際で庇う事なんかするなよ~。剣が汚ねえ血で汚れちまったじゃねえか~」
男がそう言って、血塗られた剣を見る。
獣人が酷い目にあっていたら、剣を抜く事を許す。
今がその時だろう。
幸い獣人の彼は致命傷では無い、少し放置しても死ぬ事は無いだろう。
私はそう思い、
「良いだろう、ここにいる全ての者と対峙して勝てばいいのだろ?」
剣を握っている男にそう言うと、男がニヤリと笑い、
「だとよオメェ等!この鎧剥ぎ取って欲しいらしいぜ!」
そう大声を出すと、周りで今までの光景を見ていた者達が一斉に立ち上がる。
「さぁ外に出ましょうねぇ~?ここじゃ戦えないし、ギルドマスターに建物を壊したら弁償させられちゃうからな~」
獣人を斬った男がそう言うと、私はその言葉に従って建物の外に出る。
後ろから斬りかかって来ないという事は、本当にギルドマスターとやらに怒られるのだろう。
私がそう思っていると、ワイバーンの解体を頼んでいた馬車一行の冒険者と獣人達が何事かと私達の事を見てくる。
だが、声を掛けられる前に私の周りに武装した男女、様々な冒険者達が囲ってくる。
…流石にこれだけの人数を殺す事はいけない事だろうか?
ヴァルダ様に聞いておけば良かった、とりあえず殺さない程度に剣を振るうしかない。
私がそう思って背に背負っているドラゴン殺しを鞘ごと抜くと、片手で構える。
周りの事情を全く知らない者達も、何事かと面白半分に興味を引かれて集まってくるのが見える。
瞬間、
「よそ見してるんじゃねえぞッ」
目の前にいた荒くれ者の様な姿をしている男が、私が握っている大剣より一回り小さい大剣を振るってきた。
大振りの縦斬り、胴がガラ空きだ。
男の胴にドラゴン殺しを横薙ぎに当てると、男の体をそのまま他の群がっている者達の元へ投げ飛ばした。
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