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ヴァルダがエルヴァンを送り出した後、エルヴァンが馬車一行の元に来ると、
「あの人は、良いんですか?ご一緒のパーティーでは?」
首輪を身に着けた男性がおそるおそるそう聞いてきた。
彼が言っているのは、ヴァルダ様の事だろう。
さてどうしたものか?
ヴァルダ様に言われた事をそのまま言う訳にもいかない、だが私は嘘などを言うのは得意ではない。
私はそう思って少し考えていると、ヴァルダ様が素材を採取しに行くと言っていたのを思い出す。
私はヴァルダ様のいた場所を思い出しながら、
「あの御方はあそこで素材の採取をしているのだ。私はあの御方に貴殿達の招待を受け入れろと言われてこちらへ来た」
そう言って目の前にいる男性の事を指差す。
すると、
「それにしても、凄い装備だな。重厚な鎧に俺達と同じ位長い大剣。そして、あのワイバーンを一刀両断出来る力。明らかに俺達とは次元が違うぜ」
馬車に乗っている男性がそう言って仲間達と笑い合う。
私はそんな者達を見ていると、
「なぁあんた、あのワイバーンの死体を帝都まで運ぶからよ?手間賃をくれないか?」
馬車に乗っている、さっきとは違う若い男性がそう聞いてきた。
すると、
「待て待て、命を救ってくれた恩人に金を請求するのか?それはいくらなんでも図々しいぞ」
これまた馬車に乗っている初老くらいの男性が、ニヤニヤと私を見ながらそう言ってくる。
その男の言葉を聞いて、首輪を着けて馬車の傍らに立っている者達が気まずそうに顔を背けるのが見えた。
私はそれを見て、
「別に構わない。ただしあんな物でも金銭になるなら、倒した私に金銭の分配が多いのは明白だな?」
そう言うと馬車に乗っている者達を見る。
すると、
「…しっかりと」
馬車に乗っている最初に話しかけてきた男性がそう言って指示を出すと、馬車がゆっくりと動き出す。
私もそれに付いて歩き出し、途中で私が両断したワイバーンの死体を縄で馬車に繋げると、馬車は死体を引き摺りながら何やら賑わっている建物が多い場所に進み続けた。
国に近づくと、私はある気配を感じ取って空を見上げると、そこにはアンリの分裂体であるコウモリが飛んでいるのが見えた。
ヴァルダ様が心配して下さって、アンリに見守るようにして下さったのであろう。
我らの主、ヴァルダ様に感謝を…。
私がそう思っていると、
「ん?見た事がない奴だな」
何やら馬車に乗っている男達と話していた騎士が、私の事を見てそう言いながら近づいてくる。
私の事を怪しい者を見ている様な視線を向けてくる騎士に、
「当たり前だ、私はこの国に来るのは初めてだ」
堂々とそう言う。
すると、声を掛けてきた騎士が怖気づいているのが分かる。
私がそんな情けない騎士を見ていると、
「あ、あんた帝都の傍にいたのに入った事ないのかよ!」
馬車から降りてきていた初老の男性がそう言ってくる。
「あぁ。何か問題があるか?」
男性にそう言うと、彼はため息を吐いて、
「…いや、この人の身分は俺達が保証する。これからギルドに行って、ワイバーンの解体と売却をしに行くんで、その時にこの人の身分証明を作りますよ」
男性は騎士の男にそう説明する。
何やら面倒そうな話をしているな、礼をしたいと言ってヴァルダ様に許可を貰ってここまで来たが、すでに帰りあの面白い剣技を見せたルミルフルと話をしたい。
その方が有意義な時間を過ごせるだろう。
私がそう思ってため息を吐くと、
「…分かった、ただしすぐにギルドで身分証明書を発行しろ」
騎士の男が私にそう言ってくる。
周りの者達が安堵の息を吐くと、馬車に乗っていた者や周りの者達がホッとしているのが見える。
そうして馬車がまた進み始めてこの国に入国すると、私は周りの大勢の人達に驚愕する。
驚愕すると同時に、落胆する。
どの者達も、平和を楽しんでいる。
剣を持っている者達ですら、ニヤニヤと女の事を目で追っている。
…ヴァルダ様の言った事を疑う訳では無いが、これで私が剣の腕を更に磨ける事が出来るのだろうか?
私がそう思いながら歩いていると、
「おいあの鎧男、凄くねえか?」
「あんな高そうな鎧、どうせどっかの貴族のボンボンだろ。ああいうのは、自分が一番強いと思ってるから、少し叩きのめしただけで泣いて家に帰っちまうんだぜ」
周りの者達がそう言ってクスクス笑い合いながらそう言う言葉を聞く。
すると、
「な、何だこのコウモぐぁッ!……………ぁあ、あの人は最強の剣の使い手だ。どんな敵もあの背負っている大剣で断ち切る、男の中の男だ」
私を馬鹿にしていた男が真逆の言葉を話す。
…アンリの仕業か、あまり目立つ行動はヴァルダ様に怒られるぞ。
私がそう思っていると、馬車はどんどん人を掻き分けて進んでいく。
それを追いかけると、やがて周りの建物よりもやや大きい建物が見えてくる。
その周りには何やら団体で集まって武装している者達が見え、話し合いでもしているのだろうか紙などを広げながらそれを全員で見ている姿が目に入る。
こういう光景は、塔での生活では見た事が無い。
私がそう思って辺りを見てみると、馬車の周りを歩いていた人達と同じ様に首輪や足枷、腕輪みたいな物を付けている者達が目に入る。
その者達の目には何か諦めた様な覇気の無い色をしており、彼らがヴァルダ様が言っていた奴隷にされた亜人達という事か。
私がそう思っていると、
「ここが冒険者ギルドだ。ここでワイバーンの解体をしてもらって査定をしてもらう。それとあんたは冒険者登録しておいた方が良いぞ。これからも帝都に入国するんなら身分を証明する物が必要だからな」
馬車に乗っていた若者の男性がそう言ってくる。
私はそれに少しだけ頷くと、
「おい、この人をギルドに案内してあげろ」
若者の男性がワイバーンの死体を馬車から外そうと縄を解いていた獣人に命令すると、彼は勢い良く返事をして私に声を掛けて先を歩いて建物へ案内してくれる。
建物に入ると、私と同じ様に大剣を背負っている者や片手剣を腰に下げている者、様々な武装をしている者がいる。
それを見た私は、見た事も無い装備を着けている者と戦ってみたいと、初めてこの世界の者に興味を持った。
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