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馬車の後ろを走っている人達は、まるで何かから逃げる様に後ろを確認しつつ必死に走っている。
だが、彼らの後ろに何かが迫って来ている様子は無い。
よく見ると、装備を金属部分以外にも馬車の屋根部分も燃えて穴が開いているし、炎を使うモンスターと出くわしたのだろうか?
そう思って森から少し離れた草むらに立っていると、地面に大きな影が移動するのが見えた。
何だ?
俺がそう思って空を見ると、上空にワイバーンが飛んでいた…。
なるほど、あの速さならさっき空を見た時に気がつかないのは当然か。
森の中で影の動きもあまり気にならなかったし、そこそこ風もあったから羽ばたいている音も木々の葉が擦れる音に掻き消されていたのだろう。
俺がそう思っていると、ワイバーンが空から猛スピードで地上に降下してくると、馬車の行く手を阻む。
…彼らは、いったいどこからあのワイバーンから逃げ続けて来たのだろうか?
俺がそう思っていると、
「く、来るなぁ~」
「あともう少しなんだ!帝都に入れば他の冒険者に助けて貰える!」
「早く特攻しろ!ノロノロするな!」
馬車に乗っていた3人の人達が、様々な事を言いながら周りの人達に命令する。
すると、馬車の後ろを走っていた人達が恐怖に歪んだ表情をしたまま体を動かして馬車の前に出る。
どうやら、馬車から下りて来た3人は冒険者の様だが、他の人達はその奴隷とかなのであろう。
俺はそう思いつつ、ここであの奴隷達を殺す事は見過ごす事が出来ない。
だが、今俺が表舞台に出る事は出来ないからな。
俺はそう思った瞬間、ある事を思い付いた。
「クラスチェンジ・召喚士」
俺は早速思い付いた事を行動しようして召喚士になると、本の中の世界を開いて、
「召喚、エルヴァン」
先程ルミルフルと良い戦いをしたエルヴァンを呼び出す。
「お呼びでしょうかヴァルダ様?」
俺に呼び出されたエルヴァンは、俺に頭を垂れながらそう聞いてくる。
俺はその問いに頷いて、
「あぁ、エルヴァンに少し頼みたい事があってな。あそこで襲われている者達を助けて欲しい。俺は今表立って動けないからな」
そうお願いをすると、エルヴァンは立ち上がって、
「すぐに行ってきます」
そう言って走り出そうとするが、
「待て待て。頭を首の上に乗せなさい。それだと魔族だと言われて助けたあの者達と敵対してしまう」
俺が慌ててそう注意すると、エルヴァンは少し難しそうに頭を首元に乗せると、
「改めて、行ってまいります」
彼は地面を蹴って馬車の止まっている場所へ走り出した。
俺はその光景を見ながら、本の中の世界を開いて、
「…装備変更ってゲームの時と同じなのか?」
そんな疑問を口にする。
俺は少し悩みながらも、本の中の世界の本契約欄のエルヴァンのページを開くと、ゲームの時の様に指先で操作しようとする。
だが、やはりそれでは変更する事は出来ない様だ。
そういえば、塔の戻る時とか「帰還」と表示されていた文字を読んだら成功したな、それと同じ原理で言葉にすれば大丈夫か?
俺は少し不安に思いつつ、
「エルヴァン、装備鋼の大剣からドラゴン殺しへ装備変更」
そう言うと、彼の背負っている鋼の大剣からドラゴン殺しの大剣へ変更が出来た。
エルヴァンは大剣が変わったのを感じたのか、頭の上の方に手を伸ばしてドラゴン殺しの柄を掴むと、抜刀して馬車とその前に立っていた人達に背を向け、ワイバーンと対峙する。
ワイバーンは新しい獲物を威嚇する様に翼を広げ、顎を開いて咆哮する。
流石ワイバーンの咆哮、少し離れた位置からでも聞こえてきたぞ。
俺がそう思っていると、ワイバーンの口の奥から炎が溢れる様に噴き出し始める。
あれはブレスの準備に入っているな。
俺はそう思いながら、エルヴァンの後ろにいた人達がワイバーンのブレスの準備に腰を抜かして後ずさりをするのを見る。
あれでも冒険者なのだろうか?
奴隷の人達は仕方がないと思うが、冒険者がワイバーンのブレスの準備にビビッて身を隠そうとするのは…。
俺がそう思っていると、エルヴァンが動いた。
ブレスの準備をしていたワイバーンに突っ込みドラゴン殺しをワイバーンの頭に叩き込もうと振りかぶると、
「あ…少し加減をする様に言うの忘れた」
エルヴァンが握っていたドラゴン殺しの刀身がワイバーンの頭に当たる前に、ワイバーンの頭が縦に真っ二つに斬り裂かれ、その斬撃の直線上にあったワイバーンの体と地面が切断されてしまった光景を見て、俺はそう呟いた。
…ま、まぁ弱く見られるよりはマシだが、流石にやり過ぎた様な気がする。
俺がそう思っていると、斬撃の振動が後から遅れてやって来て背後の森をざわつかせる。
エルヴァンの斬撃の衝撃を肌で感じながら、エルヴァンのいる方向に目を向ける。
すると、おそらくだがエルヴァンの斬撃に圧倒されて動けずにいる冒険者達とその奴隷達の姿が見える。
そんな中でもエルヴァンは特に気にする事なくドラゴン殺しを背負い直すと、自分の近くで座り込んでいる奴隷の人に話しかけている様だ。
距離があって何を言っているのかは分からないが、おそらく大丈夫かどうかの確認でもしているのだろう。
エルヴァンに話しかけられた奴隷の人は、何度も頷いてどんどん姿勢を土下座の様にしていくと、そのまま動かなくなってしまった。
大変感謝されているのが分かる。
そんな人にエルヴァンは肩に手を乗せて、少し自身の肩を動かして首を振っている様に見せる。
首が繋がっていないから、首を振る動作がおかしくなっている様だ。
いつもなら手で持って頭を振るうのだが、今は出来ないからそうしたのだろう。
俺がそんな光景を見ていると、エルヴァンは片手を上げて彼らに挨拶か何かをするとこちらに向かって歩いてくる。
この位距離が離れていれば、俺の姿もパッと見は分からないだろう。
俺はそう思いつつエルヴァンを待っていると、彼は俺の元に来て、
「ヴァルダ様、何故か謝礼をしたいからと言われてしまったのですが、どうすれば良いでしょうか?」
そう聞いてきた。
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