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俺の提案を聞いたルミルフルは、最初は何を言われたのか把握できていなかった所為かキョトンとした表情をしていたのだが、俺の言った言葉を理解し始めると、ルミルフルは3人の少女達の事を順番に見ていく。
それに続いて3人の少女達もルミルフルの事を見上げている。
「私が、この子達に名前を付けるの?」
ルミルフルが少女達と目を合わせてそう聞いてくる。
俺はその言葉を聞いて、
「そうだ。俺に名前を付けて貰うより、君に付けて貰った方がこの子達も嬉しいだろう。…さて、俺はそろそろ外の世界に出てくる。エルヴァン、後は頼んだ」
ルミルフルにそう言った後、エルヴァンに声を掛けて本の中の世界を開く。
「お気をつけて」
エルヴァンの言葉を聞いて、俺は帰還と呟き塔の外へ歩き出した。
塔の世界から外に出ると、昼間という事もあり帝都の喧騒が距離があるこの空間まで聞こえてくる。
とりあえず、少し帝都から出て素材を集めないといけないな。
俺がそう思っていると、
「あ、レオノーラ姉ちゃん」
少し離れた所からそんな声が聞こえて、俺は慌てて木に近づいて身を隠す。
声が聞こえた方を見ると、そこには少しぼろい服を着た男の子と先日戦った装備とは少し違う装備を身に着けているレオノーラさんがいた。
彼女の後ろには部下の者であろう女性が2人、サンタクロースの様に大きな袋を肩から担いでいる。
よく見ると、レオノーラさんの脇にも大きな袋が置かれている所を見ると、彼女もあれを担いでいたのだろう。
俺がそう思って観察をしていると、
「どうしたのレオノーラ姉ちゃん?いつもと恰好が少し違うよ?」
「すまない。本当なら休みで普段通りの格好で来る予定だったのだが、危険な人物が逃げ出したと聞いて装備を着けてここまで来た。…昨日ここに怪しい者は来たか?」
男の子とレオノーラさんがそう言い合うのが聞こえてくる。
レオノーラさんの後ろに立っている女性達も、荷物を持ってはいるがいつでも剣を抜ける様に身構えているのが分かる。
それにしても危険な人物が逃げ出したって、まさかルミルフルの事じゃないか?
エルヴァンに本気を出させる剣技と力、魔族の長の娘。
…そう考えるとその通りだと思ってしまうな。
俺がそう思って頬を引き攣らせていると、
「ううん、そんな人はここら辺には来なかったと思うよ」
男の子がそう言う。
すると、
「そうか、それなら良かった。…そうだ、これは今月の服と食料、少しばかりだが金銭も少し入っている。皆を呼んで来てくれないか?」
レオノーラさんは安心した様な表情をした後、男の子にそう言って脇に置いてあった袋を少しだけ開けて中を男の子に見せると、男の子は元気に頷いて走ってどこかへ行ってしまった。
ここはスラムに近い場所だが、そこであんな幼い子が住んでいるという事は、あの男の子もスラムの人間なのだろう。
だが、スラム街とか聞くと荒くれ者とか、犯罪者が多い様なイメージを持っていたが、どうやら違うらしい。
前にブルクハルトさんがあの様な子供達を見て、助けてあげられないと言っていたが、まさかレオノーラさんがこのスラム街を護っているのか?
何故そんな事をしているんだ?
騎士団長という立場なら、スラム街は取り締まる側の方だ。
……うぅむ、どんなに考えても決定打となる理由が無い。
俺がそう思っていると、
「レオノーラさん、いつもいつもありがとう」
「本当に。最低限ではあるけど、暮らせて行けるのはレオノーラさんのお陰だ」
ぞろぞろと大人も子供も性別も関係なく集まってくるのが見える。
俺がその様子を見ていると、レオノーラさんとその部下の2人が袋から物資を集まって来た者達に渡しているのが見える。
俺はその光景を見て、レオノーラさんがスラムの人達を助けているのを理解する。
見ると、中には首輪を付けていたり足枷を付けている人、怪我をしている者が見えた。
亜人の人もたくさん居て獣耳が見えるが、耳の先を不自然な形で切られている姿を見て元奴隷だという事を予想する。
それを見て、俺は確信する。
レオノーラさんは、この帝都と奴隷商人達からスラムに住んでいる者達を護っているのだ。
おそらく、ブルクハルトさんは亜人達に親切に接しているが、レオノーラさんは奴隷商人=信用できない者達と思っているのだ。
よく見ると、レオノーラさんの部下の2人も獣人だな。
2人の部下の耳を見ると、うさ耳と牛の耳に見える。
だがその2人の耳も、少し切込みの様な傷があるのが見える。
闇が深いとは、こういう事を言うのだろうな。
俺はそう思いながら、見つからない様に移動して帝都から外に出た。
外に出て少し離れた森へ来ると、俺は召喚士から錬金術師に変更して素材を採取し始める。
あまり取り過ぎない様に注意しつつ、必要な分より少し多めに木材や石材を取っていく。
素材を集めるスキルを使いながら、手を動かしながら頭は考え事に集中する。
レオノーラさんを家族に迎えたいと前に言ってしまったが、彼女には彼女の護りたいモノがあるんだ。
…あの時の発言はすごく失礼だったな、自分勝手な発言をしてしまった。
俺はそう反省しながらも、少し疑問を感じる。
騎士団長という立場上、給金はそこそこあるはずだと俺は思っていたが…。
それを最低限自分の生活に使ったとしても、たったあれだけしかスラムの人達に分ける事しか出来ないのだろうか?
他にも使っている事があるのか、それともまず給金が少ないかのどちらか?
俺はそう思いながら、黙々と作業を続ける。
そうして1人で採取をしていると、なにやら馬車が帝都に向かって来ているのが見える。
大きさから、そこそこ荷物が積んでいるようだ。
俺には関係ないだろう。
そう思いながら手元に生えている薬草を抜き取ろうとした瞬間、何やら金属が焼けた様な臭いが鼻につく。
ここは広くはないが森なのだ。
そんな匂いがするのはあり得ないと言ってもいいだろう。
金属が焼ける臭いよりも、木々が焼けて煙が空に立ち上るのが見えているだろう。
俺はそう思いつつ辺りを見回すが、何かが燃えている様子はない。
何が燃えているんだ?
まさか、あの馬車か?
俺はそう考えて馬車を見ると、そこには着けている装備の金属の部分が溶けて変形している人達の集団が最後の力を振り絞って走っている姿が見えた。
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