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ダグスに頭を下げられた俺は、とりあえず落ち着いて貰って話をするために食堂の隅に座っていたダグスの前の席に腰を下ろすと、


「それで、お願いとは何だ?叶えられるものなら良いが、俺にだって無理な事はあるからな」


先にそう注意をしてダグスの返事を待つ。

すると、


「どんな環境でも良いから、俺に畑を貸してくれ…ください!」


ダグスが俺にテーブルに頭を打ち付ける勢いで頭を下げた。

俺はそんなダグスの言葉を聞いて、戸惑いつつも丁度良いと思った。


「そうか。ならば畑はダグス、今は君に任せよう。これからも住人は増やす予定だが、その際にダグスが知らない作物の管理はその者に任せるから、貴方は自分の得意としている作物を作ってくれると嬉しい。もし高品質なら、外の世界で売るのも考えておくべきだな」


俺がそう言って色々と考えていると、


「そ、そんな簡単に許してくれるのか?」


ダグスがキョトンとした顔で俺にそう言ってくる。

俺はその言葉を聞き、


「畑程度なら、特に問題は無い。問題があるのは、装備を貸してくれとか言われた時だな。塔の倉庫に眠っている装備は、基本的にはどれも一級品の物だからな。簡単に貸す事は出来ない。だが、畑くらいなら、俺は問題視はしない」


苦笑しながらそう答えると、ダグスは安心した様に息を吐いて、


「良かった。実は奴隷になっても、いつも仕事をしていた時間に起きてしまう程で落ち着かなかったんだ。その所為で何度も起きては眠っての生活だったから、これでまた仕事が出来る」


まるで独り言の様にそう言った。

完全に職業病になってるじゃないか…。

俺はそう思いながらも、


「農具とか必要か?」


そう聞くとダグスはハッとして、何度も頷いた。

だが、俺は農具を作る事は出来ない。

単純にスキル取得をしていないのだ。

シュリエルがいれば、問題無かったのに…。

俺はそう思いながら、


「分かった。それはこちらで用意しよう。ただし、少しだけ時間が必要だがな」


ダグスにそう伝えると、彼は安心した様な表情をする。

とりあえず、彼の農具を買うのがこれから少しの間身を隠した後に出来る事だろう。

俺はそう思いながらダグスに別れを告げて、昼食を取りに行ってすぐに食べ終えて食堂を後にする。

さて、外の世界へ行って素材採取でもしてくるかな。

俺がそう思って本の中の世界(ワールドブック)を開こうとすると、階段を手すりにしがみ付く様に掴まって移動している名無しの少女が見える。

俺はその姿を見て、無視をする訳にはいかないと思って本の中の世界(ワールドブック)を小さくして首に掛け、少女の元へ移動する。


「大丈夫か?ほら、手に掴まれ」


俺がそう言って手を伸ばすと、少女は少し戸惑った様子で俺の顔と伸ばした手を交互に見てくる。

本当に伸ばして良いか、迷っている表情だな。

これで選択を間違えたら、痛い思いをするとでも思っているのだろう。

俺はそう思うと、


「どこへ行こうとしていたんだ?」


そう少女に質問しながら、彼女に近づいて手すりをギュウッと掴んでいる手を俺の手に移動させる。


「あ…」


俺に触れられて驚いている表情と、安心したような顔をして俺の事を見ると、


「あ、あの…、メアリー…ちゃん達を探しに。…1人じゃ、まだ怖くて」


少しおどおどしながらもそう答えてくれる。

あの2人のメアリーを探しているのか。

セシリアが疲れるほどだから、結構塔の中を移動しているのかもしれないな。

俺はそんな事を考え、


「まだ時間はあるからな、一緒に探すか」


少女にそう提案して、手を繋ぎ直す。

すると、


「あ、ありがと…う…ございま…す」


少女が俺にお礼を言ってきた。

緊張が解けてきているのか、少しだけ安心した様にホッと息を吐いた。

そうして、俺と少女は手を繋いで塔の中を歩いて2人のメアリー達を探したのだが、


「塔の中、広いな」

「は…はい」


2人はどこにも目当たらなく、俺は頬を引き攣らせてそう呟く。

その言葉に素直に返事をしてくれる少女。

人探しをするには、塔はあまりにも広すぎるな。

出来れば迷惑をかけたくなかったのだが、今度何かしらの礼はしないといけないな。

俺はそう思いながら、


「セシリア、あの2人のメアリー達は今どこにいる?」


誰も何もない空間に向かってそう声を出すと、


「はい。あの2人でしたら、今外に出ています。エルヴァンの鍛練を遠くからこっそりと見ています」


セシリアがその場所に現れてそう教えてくれる。

俺はセシリアの言葉に頷いて、


「そうか。すまなかったなセシリア。今度何かお礼をしないとな」


そう言うと、セシリアは表情を変えずに頬を赤く染めてコクッと頷いて消えてしまった。

ふむ、それにしても外に出ていたのか。

なら塔の中を探しても見つからないはずだ。

俺は納得しながら、


「さて、セシリアのお陰であの2人の場所が分かったのだ。行くぞ」


少女にそう声を掛けると、彼女は返事はしないで小さく頷いた。

それを確認して、俺は彼女を連れて階段を下りエルヴァンがいつも鍛練している場所を目指す。

そうして塔の外に出て辺りを見回すと、茂みに隠れてどこかと見ている2人のメアリーの後ろ姿が目に入る。

…エルヴァンを見ているのか?

俺がそう思っていると、俺と手を繋いでいた名無しの少女が手を離して2人の元に歩み寄る。

すると、


「………」

「………………」


2人の近くに行って何を見ていたのか、俺は理解した。

それは、エルヴァンと魔王の娘ルミルフルが互いに剣を構えて睨み合っている状態だ。

ただし、ルミルフルは午前中に会った時より服が乱れて汚れている。

まさか、手合わせしてあげてくれと言ったらすぐにここへ来たのだろうか?

俺がそう思っていると、


「ハァッ!!」


ルミルフルが一気に駆け出してエルヴァンに斬りかかる。

だが、その速さは意外にも遅く、


「遅いッ!」


エルヴァンは簡単にルミルフルの剣を受け止めて、その体ごと吹き飛ばす。

ルミルフルはエルヴァンに吹き飛ばされて地面に着地をするのだが、あまりの勢いに体勢を整える事が出来ずに転んでしまう。

…おかしいな、あの帝国の騎士団長レオノーラさんと戦ったんだ。

体にダメージが残っていても、あんなに体を上手く動かせなくなってしまうものだろうか?

剣も大振りだし、一回一回の攻撃に力を込め過ぎている。

俺はそう思い、ある答えに辿り着いた。


「そうか。ルミルフルの武器は軽い剣じゃないんだ。もっと重い、大剣とかかもしれない」


俺がそう呟くと、ルミルフルはもう一度エルヴァンに斬りかかった。


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