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翌日朝から起きた俺は、結局今日は塔の世界で色々と先送りにしていた事をして、それでも時間が余ったら外の世界で素材を取りに行こうと考えた。
朝食を済ませ、俺はいつもよりもゆっくりとした足取りで塔を下っていく。
とりあえず、バルドゥと生活しているエリーゼ達の簡易的な家を建てとかないと、いつ倒れるか分からない家に住まわせる訳にもいかないからな。
昨日心が傷が癒されたらと言っておきながら、アレを放置しておいたら何も言えないぞ。
俺がそう思って階段を下りると、
「…あっ」
何やら小さな声が聞こえた。
「ん?」
俺がその声に反応して辺りを見回すと、下の階の反対側から俺の事を見てきている魔王の娘、ルミルフルの姿が見える。
俺は手すりに近寄ると、
「おはよう魔王の娘ルミルフル。昨日はゆっくりと出来たか?」
彼女にそう声を掛ける。
俺に声を掛けられたルミルフルは、俺と同じ様に手すりに近寄って、
「その…ゆっくりと出来た。ありがとう」
そうお礼を言ってきた。
良かった、とりあえず落ち着いてちゃんと話を聞いてくれそうだ。
俺はそう思い、
「そうか、ゆっくりと出来たのなら良かった」
そう言って、ではまたな、と言おうとしたのだが、
「貴方はいったい何者なの?こんな異空間にここまで大きな建造物を建てて、更に設備は充実していて使われている物も一級品。帝都の貴族でもここまでの財力も力も無いはず。…貴方は何者なの?」
彼女は俺にそう質問をしてきた。
俺はその言葉を聞いて、進み出そうと一歩出していた足を止めて、
「それは、君が俺と本契約をしてくれると言ってくれた時にしよう。それまでは、話す事は出来ない。お互いに、秘密にしたい事もあるだろう。それと、別に金は持っていないぞ。どちらかと言うと金欠で、今凄くお金が欲しい…」
そう説明をすると、ルミルフルは何かを察した様に、
「当分の間、あまり人が多い所には行かない様にしてるって事ね。生憎、私もお金を稼ぐ方法は討伐とかしか知らないから、役に立てないわ」
そう言ってくれた。
俺はその言葉に首を振って、
「いや気にするな。そうだ、少し休んで体が本調子になったら、エルヴァンと戦ってみたらどうだ?互いに良い経験になると思うぞ」
そう言うと、ルミルフルは少し考える素振りをした後に、
「そうね。前向きに考えてみるわ」
そう言って貸した部屋へと行ってしまった。
…気持ちに余裕が出来たのか、少し友好的というか優しさが出てきているな。
俺はそう思いながら、良い傾向だと考えて階段を下りていく。
階段を下りて作業場へと辿り着くと、
「どうしたセシリア?何か疲れているようだが?」
いつもより少し疲れている様に見えるセシリアが、作業場の扉の前で待っていた。
俺が声を掛けると、セシリアは首を振って、
「いえ、子供のお世話は大変だと思っていまして。どうしても、塔の中でなら落下する事はないからと思っていても手すりから下を覗き込んだ時にドキドキしてしまいまして。不安で仕方がないです」
そう言ってきた。
何ていうか、セシリアの心遣いがよく分かる疲れ方だな。
俺はそう思って笑ってしまうと、
「わ、笑ってしまうほど情けないでしょうか?」
セシリアが俺に不安そうに聞いてきた。
俺はその言葉を聞いて、
「いや、すまない。セシリアがそこまであの子供達…と言っても、2人のメアリーを気遣っているのかと思うと、微笑ましくてな。情けないなんて思っていないぞ。むしろセシリアは良い母親になれると思うぞ。俺もこの塔の支配者として、もっとちゃんとしなければと考えさせられる」
セシリアにそう言うと、セシリアは何故か顔を少しだけ赤く染めると、
「で、ではヴァルダ様。私は他の仕事がありますのでこれで失礼します」
そう言って消えて行ってしまった。
な、何か気分を害する事を言ってしまっただろうか?
俺は1人で少しだけ不安になりながらも、作業場へ入って置かれている椅子に座ると、
「さてと、作業と言ってもスキルとかで勝手に合成されるからな。特に何か特別に俺が頑張る事はないな」
そう呟きながら、作業場の床に土や石材、木材を取り出すと俺はクラスチェンジで錬金術師になると、スキルを発動して基礎的な島を作り出す。
人族の生活の感じを見ると、最初に訪れた村の様な感じが一番良いのかもしれないな。
生活する上で必要な水場や、木材が確保できる森、そして豊かな土と草。
俺はそう思いながら、更に島の環境が良くなるように素材を混ぜていく。
そうして出来上がった、「人族島」。
これで、人族の人達が多くなっても住んでいられると思う。
亜人の島も作りたいところだが、亜人がどんな生活をしていたのか知らないから造る事が出来ないな。
ルミルフルは魔王の娘だから、魔王城で生活していたから参考に出来るか不安だな。
もっと魔族らしい生活環境を知るためには、魔族の奴隷を保護してどんな生活だったか聞くか、実際に魔族の住んでいる場所に行くしかない。
獣人も同じ事だ。
やはり、色々とやらないといけない事は多い。
俺はそう思いながら、着けていた装備を確認する。
戦う事も少なく、かつダメージをあまり受けてはいないから大丈夫だとは思っているが、それでもこの世界はリアルであり、損傷していたり耐久値が減っているかも知れない。
俺はそんなことを思いながら1人黙々と作業を続ける。
そうして午前中は1人で考え事をしながら作業を続け、お昼になってお腹が空いたのを自覚したタイミングで俺は作業場の片づけをし、作業場が綺麗になった事を確認して部屋を出て食堂へ移動する。
すると、
「ん?あれは」
昨日連れてきたダグスがあくびをしながら昼食を食べている姿が目に入る。
あれは、どう見ても寝起きの顔だな。
俺がそう思っていると、ダグスと目が合ってしまった。
するとダグスは、慌てた様子で身だしなみを整えると、少し小走りで俺の元へやってきて、
「お願いがあります」
頭を下げながらそう言ってきた。
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