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セシリアの言葉を聞いたルミルフルは、意を決して女性達に近づくと、


「初めまして。今さっきここへ来た魔王…魔族のルミルフルと言います」


女性達にそう挨拶をした。

魔王の娘だと最初は名乗ろうとしたが、それはあまり得策では無いかと判断してただの魔族だと自己紹介をする。

すると、女性達は口に入っている食べ物をゴクリと飲み込んでから、


「は、初めまして。私達もまだここへ来てから日は経っていませんが、よろしくお願いします。な、名前はカミラと言います」


そう挨拶をすると、ルミルフルは彼女達がとりあえずは魔族に悪意を持っていない事を確認する。

この目は、戸惑っているだけで悪意はない。

悪意を持っているのなら、表情を見たらだいたい分かる。

今まで悪意を持った者達の目と表情を見てきたルミルフルは、嫌な経験で得た技能を使ってそう判断し、


「よろしく。…あの子達は、また今度紹介するよ。今はあまり知らない人と話させると、混乱とか緊張で疲れちゃうと思うから」


ルミルフルはそう言って少し離れた所でこちらを窺っている女の子達を見ると、


「…分かりました」

「…酷い目に合ってきたんだろうね」


女性達もメアリー達を見て、そう呟いた。

その声はとても暗く、心配と自分達よりも辛い思いをしてきたと思っての何とも言えない気持ちがあるからだろう。


「ありがとう。それじゃあ」


そう言ってルミルフルは女性達から離れると、メアリー達の元に戻って、


「また今度、落ち着いたらあの人達に挨拶しに行くからね」


そう言うと、3人は頷いた。

そうして4人で軽い食事をした後、セシリアに案内されてルミルフル達は各空き部屋に入る。

ルミルフルは1人部屋で、メアリー達は体がまだ小さいから3人部屋になった。

ルミルフルは久しぶりのベッドに歓喜し、ゆっくりとベッドに座る。

最近は硬い床に布を敷いただけの寝る場所で寝ていたせいか、ベッドの柔らかさに少しビックリしてしまう。

魔王城に住んでいた時ですら、こんなに柔らかいベッドなんか無かったのに。

ルミルフルはそう思いながら、ベッドに身を預ける。


「はぁ…。父上、母上、私は未熟でした。もっとレベルに捕らわれず、帝都周辺の地理や生態系、アイテムを使っていれば、もう少し帝都に…痛手を…負わ…せる…こと…が…」


そうしてベッドで横になってすぐに眠気がやってきて、ルミルフルは深い眠りの世界へと旅立っていった。

ルミルフルが寝始めた頃、3人部屋でそれぞれ体に合わない程大きなベッドでメアリーの2人はくっ付いて横になり、名無しの女の子はベッドの隅でシーツに包まって体を縮めて横になっていた。

それぞれの寝方に、今までどんな生活をしてきたのか表れている。

名無しの女の子は、体を震わせて怯えている。

彼女は前に同じ様に優しくされた後、いつもより厳しい拷問を受けたのを覚えている。

今回の湯浴みも柔らかいベッドも、この後に行われる拷問で自分がより絶望させる為なんじゃないかと考えると、体の震えを抑える事は出来ないし、ここから逃げても更に痛い思いをすると考えると、逃げ出そうとする気持ちすら湧かない。

ただただ震えて待っているだけ。

そう思って横になっていると、不意に肩に触れられる感覚がして身を強張らせる。

すると、


「大丈夫?」

「寒いの?」


隣のベッドで寝ていたと思われていたメアリー達が、名無しの少女の傍まで来てそう問う。

名無しの少女は片方のメアリーの寒いの?という質問に対して首を振るうと、


「…1人は…怖い」


メアリー達にそう言う。

そんな名無しの少女の言葉を聞いた2人のメアリーは、無邪気な笑顔で名無しの少女の残っている手を2人で掴むと、


「じゃあ、3人で寝よう?」

「3人で寝れば、怖くないよ」


そう言って名無しの少女を引っ張り起こすと、彼女達は有無を言わさずに自分達が寝ていたベッドに連れて行き、3人でベッドに入ってヒシッとくっ付いて眠ろうとする。

3人でベッドに入ってから十数分後、名無しの少女は少しだけ安心しつつもやはり眠る事は出来なかった。

心は落ち着き体の震えも無いが、今までの恐怖での眠りの浅さが仇になっているのだ。

2人のメアリーの体温を感じて目を瞑ると、今まで冴えていた意識が一瞬で混濁し始める。

すると、


「もう…安心して良いわよ。ここでは貴女を虐める者はいないわ。安心して、ゆっくりと眠りなさい。次起きた時、貴女は今までの苦痛から解放されて幸せになるわ。…良い夢を」


頭をゆっくりと、愛しむ様に撫でている手の感触を感じるが、それを気にするのも出来ない程眠気が襲ってきていた名無しの少女。


「お…かぁ…さん」


その手に、かつて亡くなる最後まで自分の事を大切にし愛してくれて、心配をしていた母を重ねる。

名無しの少女が眠る前に呟いた一言に、漆黒を着た女性はクスリと笑い、


「…ママ、おかあさん、母。そうね、私はあなた達の母よ。だから、安心しなさい。たとえ誰であっても、母と()はあなた達を護ってみせるわ」


そう言うと、女性は静かにその場から消失する。

一方、帝国に作物を出荷して農家の方では裕福な方ではあったダグスは、


「……所詮俺もただの農家だった訳だな」


苦笑をしてベッドに横になる。

周りの農家と違い自分は農家でも裕福であると、いずれはもっと上に行けると思っていた自信と自尊心は塔の浴場で洗い流され、ベッドに触れた瞬間に霧散してしまった。

ダグスは自慢だった自分の作物が毒物で汚され怒り狂ったが、奴隷に堕ちて自分と同じかもしくは更に酷い扱いを受けている人達を見て、自分が今までどれだけまともな生活を出来ていたのか改めて理解した。

しかし、自分の作物を植えていた畑は帝都に没収さて、種は好き勝手にどこにでも蒔かれていると考えると、やはり自分が切磋琢磨して作り上げた作物をもう一度作り上げたいと考える。


「どこまで行っても、奴隷になっても俺は農家なんだな」


ダグスは苦笑すると、助けてくれたヴァルダに畑一面でも貸してくれないか交渉しようと考えながら眠りについた。


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