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ヴァルダがスライムのスゥを揉んで癒されている時、大浴場では。
「…私の住んでいた魔王城でもここまで広いお風呂なんてなかったのに…」
魔王の娘ルミルフルが、石鹸を泡立てながら体を洗おうとしていた。
帝都騎士団長のレオノーラとの戦いから牢屋に入れられ、その後は闇オークションの会場。
どこへ行っても体を洗う機会などなかった。
正確に言うと、闇オークション会場でメイドに軽く体を拭かれたのだが、その時も拘束は解かれていなかったので綺麗になったとは言えなかった。
汚れていた肌を綺麗に出来るという行為、久しぶりに味わうゆっくりとした時間にルミルフルは安堵の息を吐く。
すると、
「「??」」
ルミルフルの左隣で、2人のメアリーが石鹸を持って首を傾げていた。
ルミルフルはそれを見て、ヴァルダと自己紹介をしていた2人のメアリーの言葉を思い出して、お風呂とか石鹸、分からないわよね。
そう思うと、
「ほら2人共、石鹸をこうやって泡立てて、互いに洗ってあげなさい」
ルミルフルは2人のメアリーに石鹸の泡立て方を教えてあげる。
ルミルフルに教えて貰った2人は、初めての事に戸惑いつつも頑張って石鹸を使って泡を生成する。
それを見て安心していると、今度は右隣に座ってただ水で体を流している名無しの女の子を見て、
「そっか、片手じゃ不便だよね。代わりに洗っても良い?」
ルミルフルはそう聞いてみる。
すると、
「い、いえ…。私には水で流すだけで良いんです」
声を掛けられた名無しの女の子は、ビクビクしながら答える。
それを聞いたルミルフルは、
「…貴女の言っている事を聞いたら、今まで最低な環境にいたのは理解してるわ。でもね、今はそんな劣悪な環境じゃないの。まだ完全に信じる事は出来ないけど、それでもあのヴァルダって男は貴女にも私達にも酷い事はしないわ。だから、今は私達と同じ様にお湯を浴びて、石鹸で体を洗いましょ?」
そう言って手に付いた泡で女の子の体に触れると、女の子は触れられた瞬間にビクッと体を強張らせる。
ルミルフルは手に伝わる緊張を緩和させるように、ゆっくりと優しく女の子の肌を洗っていく。
女の子の肌に触れ、泡の隙間から見える無数の傷痕と火傷の痕を見て、ルミルフルは静かに怒る。
だが、それを肌を伝って女の子にばれない様に、今は彼女の体を綺麗にする事に集中する。
そうして女の子を洗い終え、2人のメアリーの洗えていない細かな所まで洗った後、ルミルフルはやっと自分の体を洗う事が出来た。
そうして体を洗い終えて浴場を出ようとすると、
「お待ちください。まだお湯に浸かっていませんよ?」
「ッ!?!?」
突然目の前に現れたセシリアに、ルミルフルは驚いて拳を構えてしまう。
だが、
「ヴァルダ様は言いました、ゆっくりとお風呂に入れ…と。ですので、どうぞご入浴を」
セシリアはそう言うと、どうぞどうぞと言わんばかりに手で合図をする。
ルミルフルはその様子を見て、入るまで出させてはくれなさそうだと判断し、おそるおそる湯船に身を沈める。
そんなルミルフルの姿を見た3人の少女達も、気を付けながらルミルフルと同じように湯船に入り、
「「「「はぁぁ」」」」
4人は、安堵の息を吐いた。
それを見たセシリアは、うんうんと頷いてからまた姿を消す。
その様子に驚きながらも、ルミルフルは湯船のお湯を手で掬い、
「お湯に入るのは、何回かあったけど、ここまで気持ち良いものだとは思わなかったわ」
そう呟く。
かつての魔王城にも湯船はあったのだが、それはほとんど熱湯を言っても過言では無い程だった。
自分以外の魔族は熱いのが好きだったのか、何回か手を入れても火傷するんじゃないかと驚いてしまうくらい熱かった。
その記憶が残っていたから、湯船には少し入ろうとしなかったのだが、
「これなら、入っていられるなぁ」
ルミルフルはそう呟いて、自分の後に入った3人の少女達を見る。
魔王の娘ルミルフル、敵には容赦がないが自分の味方には優しいのだ。
しかもそれが、自分よりも大変な人生を歩んできた子供だというのなら尚更。
ルミルフルは3人の少女達が、湯船に入ってほっこりしている姿を見て安心し、自分もゆっくりとした時間を過ごす。
そうしてたっぷりと20分間湯船に浸かってゆっくりとしたルミルフル達は、湯船から上がって浴場を後にした。
浴場を出た後、ルミルフルは3人の少女達が体をしっかりと拭けるか気にしながら見ていると、名無しの女の子は以外にもしっかりと自身の体を拭っているのだが、2人のメアリーは少し髪の毛の拭きが甘い所為で、ポタポタと滴を落としていた。
「体はきちんと拭けてるけど、髪の毛が甘いわ」
ルミルフルは2人のメアリーにそう言うと、彼女達が持っているタオルを受け取って髪をしっかりと拭いてあげる。
そうして入浴を済ませた4人が脱衣所から出ると、
「では皆様、こちらで軽い食事を」
またもや突然現れるセシリアが、今度は食堂に案内するべくルミルフル達の前に立つ。
慣れないけど、もう少ししたらこの突然現れる現象にも慣れるのかな?
ルミルフルはそう思いつつ、先頭で歩き始めるセシリアに付いて歩き始めると、3人の少女達も歩き始める。
そしてセシリアに付いて辿り着いた食堂に入ると、あまりの広さの食堂にルミルフルは驚愕する。
こんなに広いって、魔王城の大広間よりもあるじゃない…。
ルミルフルがそう思っていると、
「ねぇ、最近私達だらけ過ぎてない?」
「…そう?」
「でも、ゆっくりと美味しいご飯は食べれれる内に食べておかないと」
何やら食堂の隅で食事をしているバルドゥと一緒に生活しているカミラ、フリーデ、イルゼの3人が食事をしながら話している姿が目に入る。
ルミルフルは自分と同年代の女性、しかも訳ありそうな会話に自分達と同じ様にここに移ってきた者達だと判断する。
だが、相手が人族だと思うと警戒してしまう。
自分はまだ良いが、自分の後ろにいる子供に酷い言葉を言わないか警戒して近づく事が出来ない。
そう思って立ち止まっていると、
「彼女達もあまり他人には言えない事をされてきたらしい人達です。それに、子供に暴言を吐く様な人達では無いと私は認識しています。安心してください」
セシリアが、ルミルフルにそう話しかけた。
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