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俺はルミルフルの言葉を聞いて、元は魔王の幹部だったデュラハンだったからなエルヴァンは。
と考えてしまう。
でもそうなると、こちらの世界にいたデュラハンはどうなったんだ?
俺はそう思い、
「少し聞きたいのだが、君の知っているデュラハンはどうなったんだ?魔王アンシエルは戦争に敗れた。配下の者達も無事だったとは思えないんだが」
ルミルフルにそう質問をしてみる。
すると彼女は、苦しげな表情になって何かを噛み締めているんじゃないかと思うほど口に力を入れている。
そして、
「皆、私を逃がす為に死んだ。母も父の配下だった幹部達も、皆殺された」
静かにそう言った。
なるほど、魔王の後継者となるであろう彼女を生かす事が、その場において最優先だったのだろう。
魔族の復興。
そのために、彼女を逃がして壁となったのであろう。
俺がそう思い、
「つまり、見知っている彼がいたから生存を確認していたというわけか。…残念だが、俺はエルヴァン、あのデュラハンを支配や洗脳している訳ではない。もし彼が君の父の配下の者だったら、君を見てあそこまで冷静な反応はしていないだろう」
彼女には辛い事かも知れないが、俺は事実を述べる。
俺がやっていた「UFO」の魔王アンシエルと、こちらの世界の魔王アンシエルは別人だったのだろう。
そして、その配下の者達も同様に。
俺がそう思っていると、
「やっぱり、そうだよね。…逃げてる時に、両断されたデュラハンを見たんだから」
彼女は涙声でそう言うと、顔を伏せてしまった。
俺はアイテム欄から成形する前の素材である布を取り出して、彼女に渡して落ち着くまで本の中の世界を開いて時間を潰す。
そうしてルミルフルが落ち着いてくると、
「気休めとはいかないが、もし良かったらエルヴァンと仲良くしてくれると嬉しい。あいつは剣技を高める事が好きだから、戦う相手が欲しいと思っていたはずだ。ルミルフルさん、貴女が来たと時のエルヴァンの反応で俺は思った。おそらく、2人が戦う事でどちらとも強くなれると」
そう言う。
それを聞いたルミルフルは、
「もっと強くなれる?私はもうレベルが上がりにくいほど高レベルなんだよ?」
そう聞いてきた。
俺はその言葉を聞いて、
「あぁ。まぁ、これはもっとここで過ごしてから決めて欲しいんだが、今は仮契約の状態だが本契約をして欲しいと、俺は思っている。そうすると契約者のレベルまで限界値が変わるから、おそらく結構な強さになるはずなんだ。……まだ確証はないんだがな」
そう提案してみる。
すると、ルミルフルは何とも言えない微妙な表情で俺の事を見てくる。
おそらく今の言葉は信用できなさそうだと思っているのだろう。
「今の話はまた後日、ゆっくりと話そう。それよりも今は、体を休めた方が良い。それとこれを飲むなり頭に掛けておけ」
俺はそう言うと、アイテム欄から最上級のポーションを取り出して彼女に手渡す。
何故彼女にそれを渡したかというと、彼女の頭から生えている角にヒビがある事に闇オークションの会場で押し倒した時に気づいたのだ。
完全に砕けていなくて良かった。
……いや、砕けていたらいたらで歴戦の戦士感で強そうだ。
俺はそう思いつつ、
「風呂に行ってくるが良い。…ゆっくりとな」
彼女にそう言うと、彼女は俺に一度頭を下げてから部屋から出て行った。
さて、エルヴァンとの話の約束はしたが、すぐに呼ぶのは鍛練している彼に迷惑だな。
エルヴァンからここへ来るまで、少し待っていよう。
俺はそう思うと、椅子に座って深く溜息を吐く。
悩み事があっての溜息ではなく、精神的な疲労からくる溜息だ。
気を張ることに慣れていない所為か、どうしても長時間の緊張状態が解けると溜息を吐いて椅子に腰掛けたり、ベッドにダイブしたくなる。
「UFO」とは違い、自分の行動1つ1つで物事が変わっていくと考えると、どうしてもこれが最善の一手なのか考えてしまうな。
もっと頭が良かったり、思考能力が高い人なら俺よりも良い行動、立ち振る舞いが出来るんじゃないかと考えてしまう。
…暇な時間にこう考えてしまうのも、考え物だな。
そう思いながらフッと自嘲気味に笑い、俺は静かにエルヴァンが来るまで色々と考え事をする。
そうして時間を過ごし、遂にドアがノックされ、
「失礼します」
エルヴァンがそう言って部屋に入ってきた。
「ソファにでも座ってくれ」
「ハッ!失礼します」
俺がそう言って椅子から立ち上がり、エルヴァンが座ったソファの前のソファに座り直し、
「楽にしてくれエルヴァン。別に俺はお前を説教するつもりはない」
そう言うと、エルヴァンは自身の太ももの上に置いていた首をソファの上に置きなおすと、
「それでは、いったいどの様なお話でしょう?先程の件で、叱咤されると思ったのですが…」
そう聞いてきた。
なるほど、さっきのルミルフルとの構え合っていた事を怒られると思っていたのか。
「いや、その事は特に怒る事では無い。エルヴァンはこの塔の住人として、侵入者の可能性のある者達を調べに行ったのだろう?」
俺がそう聞くとエルヴァンは、はいと返事をする。
俺はエルヴァンのその返事を聞いて、
「なら、俺があの行動について咎める事はない。俺のいない間、塔の事を護ってくれて感謝している」
そう正直にお礼の言葉を言う。
すると、
「そ、そんな!私は当然の事をしているだけですから!感謝されるような事ではありません!」
エルヴァンが着ている鎧をガチャガチャ鳴らして慌てながらそう言ってくる。
俺はその様子を見て、エルヴァンってもっと武人ってイメージだったけど、実際はこういう感じなんだな。
もっと話していたい気持ちはあるが、今はそれよりも重要な事がある。
俺はそう考えると、
「さて、本題に入ろう」
今までの和やかな雰囲気を断ち切り、少し真面目なトーンで話を切り出す。
俺の言葉を聞いたエルヴァンも少し慌てていた様子から一変して、面接をしているかのようにきちんとした姿勢で俺の言葉を待つ。
俺はその様子を見ながら、
「エルヴァン、外の世界へ行きなさい」
そう言った。
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