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シュリカが船を修繕し、手が届かない場所や反対側にはカルラにも協力して貰って修繕を進めていく。
その内、俺に言う我儘の為なのか、それとも気分が乗ってしまったのかは分からないが、シュリカはより良い船にする為に船を改造していった…。
そうして完成した船が…。
「いや、やり過ぎな気がするんだが…。これ、どう見てもさっきの木造の船じゃ無くなってるぞ…」
「えへへ、頑張りました!褒めてっ!」
完全に鉄などの金属系で覆われた船、しかも武装すらしてあるご立派な船が目の前に佇んでいた…。
「こ、これは一体…」
「凄い硬い、何これ?」
「おそらく人が使う武具と同じ材料を使用してる…んだと思われるが、これ程の大きい物にするのに、どれ程の材料を使ったんだろうか?」
船を眺めている、レヴィさんの背中から立派になった船を見上げてそう言う女性。
彼女の仲間達も、乗っている内に改造させられた船に困惑の声を出している。
そんな様子を苦笑しながら見ていると、シュリカが褒めて欲しそうな目で俺の事を見てくる…。
「とても…とても良い物にしてくれてありがとう。これは、相当シュリカの我儘を聞くしか無さそうだな」
俺がシュリカにそう言うと、彼女は獣耳が目立つ頭を俺の方に向けてくる。
撫でろという事だろう。
俺はそう判断し、
「ありがとうな」
シュリカに感謝を伝え、シュリカの獣耳の間に手を押し付けて少しだけ左右に動かす。
手の両脇に触れる獣耳の感触にもう一度感謝を心の中で伝えると、
「んふふっ!」
俺の感謝の言葉を聞き、頭を撫でられているシュリカが満足そうに笑っている。
幼児退行とまでは言わないが、結構甘えん坊になっている気がするな。
それこそ、小さい頃の靜佳みたいに。
俺がそう思っていると、
「…耳も触って?」
シュリカがそんな誘惑をしてきた。
………。
ハッ、あまりの刺激に一瞬だけ意識がシュリカの獣耳にしか集中していなかった。
俺はそう思いながら、シュリカの頭に触れている手の左半分だけを動かして頭から手を離すと、親指と人差し指を伸ばしてシュリカの獣耳を摘む。
「んっ…」
俺が摘むと同時に、シュリカがくすぐったそうな声を出す。
シュリカの声に、俺は冷静さを取り戻し、
「ありがとう。使った材料とかは、塔の倉庫にあるから補充が必要ならそこから取って構わないからな」
俺は再度感謝の言葉を伝える。
そんな俺の様子に不満があったのか、先程までしていた満足そうな表情から一気にふくれっ面になってしまう。
しかし今の状況の空気を読んでくれたシュリカは、
「…後で覚えてなさいよ」
そんな不穏な言葉を言い残して、シュリカは黒い靄に入った。
…これは、塔に帰ったら何があるのだろうか…。
俺はそんな事を不安に思いながら、
「ま、まぁこれで船の事は心配しなくても大丈夫ですね。デ…ウンディーネさんも、レヴィさんもスピードを上げても構いませんよ。船の方は、俺と家族で進めますから」
気持ちを改めて、俺はそう提案をする。
俺の言葉を聞いたデレシアさんが、
「…分かりました、ではよろしくお願いします」
少し悩んだ様子を見せた後、俺の頼みを聞いてレヴィさんに目配せをする。
デレシアさんと俺の会話を聞いていたであろうレヴィさんも、徐々に泳ぐスピードを上げていく。
しかしその所為で、レヴィさんの体が揺れて彼女の背中に乗っている女性がバランスを崩し始める。
俺はその光景を見ると、必死にバランスを立て直そうとしている女性に近づき、
「大丈夫ですか?今船の皆さんの元に連れていきますからね」
そう声を掛けると、女性は必死な表情をしながら、
「あ、あぁ。…すまない、よろしく頼む」
俺にそう言ってくる。
…流石に俺よりも身長が高い人を抱くのは難しいか?
やった事も無いし、足場が揺れるレヴィさんの背中だから安定しない。
今は女性の安全を優先して船に運べるようにしよう。
俺はそう考えると、
「召喚、シル、ルネリーエ」
2人の精霊を呼び出す。
「はいは~い?何ですかヴァルダ様~?」
「…またすぐに呼び出して…そんなに暇でもないんですよ…」
黒い靄から出てきたシルとルネリーエの言葉を聞き、
「すまないな。シル、風の力で彼女を船に連れていってくれ。ルネリーエは船の速度を上げて欲しいんだ。シルも、彼女を船に乗せたらルネリーエと共に船の速度を上げる手伝いをして欲しい」
そう指示を出すと、シルとルネリーエが互いに顔を見合わせた後、
「分かりました~。じゃあ、行きましょうか~?」
「はぁ…。呼び出すならもっとゆっくりとした浜辺が良かったのに…」
シルはのんびりと、しかしやる気はある故に即座に行動を開始してくれる。
ルネリーエは少しだけ面倒そうな表情をした後、レヴィさんの背中から海へと飛び込む。
…ルネリーエの様子は俺に対して、塔の皆に比べるとあまり好感を持たれていない様に見えるが、この距離感も俺には好ましい。
…よし、シルもルネリーエも頑張ってくれるんだ。
俺も頑張らないとな。
シルが女性を風で持ち上げる光景を、ルネリーエが海水を操って船を押し進めている光景を見た俺は、レヴィさんの背中から俺も船に飛び乗る。
そこで初めて船に乗っている人達の姿を確認できた。
船に乗っていた人達が皆、今シルの風で船に降り立った女性と同じ蛇の下半身をした種族であった。
…女性しかいないが、男性はどうしたのだろうか?
俺がそう思っている内に、船に降り立った女性に船にいた女性達が彼女に集まる。
船に乗っている人達を見回して観察していると、皆にも所々に怪我や傷が見え、俺はアイテム袋から回復薬を取り出してから、
「皆さん、この回復薬を飲んで下さい。怪我や傷に効きます」
そう声を掛けてから回復薬をよく見える様に掲げる。
俺の言葉を聞いた女性達が掲げた回復薬を見た後、俺に近づくのが怖いのか周りの仲間を見回すだけだ。
流石に、すぐに距離を近づくのは出来ないよな。
俺はそう思い、
「シル、頼む」
船の上でふわふわと浮いているシルにそうお願いをすると、彼女は笑顔で俺に手を振ってくると、俺の周囲に風が発生し、俺の手から回復薬を抜き取ってそれを女性達に配布する。
すると、
「私も同じものを飲んだ。毒の類では無い」
レヴィさんの背中から船に乗った事と、仲間の顔を見れた事に安堵した女性がそう声を掛けてくれる。
その言葉を聞いた女性達は、回復薬の封を開けて中身を少しずつ飲み始めた。
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