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「レヴィッ!無事ッ!?」
「モンダイナイ」
「殿下ッ!」
「お前達も、大丈夫だったか?」
デレシアさん達と合流すると、デレシアさんがレヴィさんに無事だったのかと質問をし、レヴィさんは大丈夫だと返答をする。
そして船に乗っている人達が、レヴィさんの背中に乗っている女性に声を掛けて、彼女が船に乗っている人達に質問をしている。
その光景に、俺は少し居た堪れなさを感じ、どうしようかと考える。
色々と考え事をしていると、ふとボロボロな船の船体が目に入る。
小舟よりは普通に大きい船が、損傷で壊れそうになっている。
…俺のスキルでどうにか出来るのか?
俺はそう思いながら、
「クラスチェンジ・錬金術師」
スキルを使用して錬金術師にクラスを変更すると、
「鑑定」
まずは船の様子を見る為に鑑定スキルを使用する。
「見るからにボロボロだけど、鑑定スキルでも損傷が激しくて消失…つまり沈没の可能性があるか…」
船に乗っている人達が何人いるのか分からないが、全員がレヴィさんの背中に乗れば安全な気がする。
しかしそれは、人が乗る事でレヴィさんが泳ぎ辛くなってしまう可能性も十分にあり得る。
それは出来れば避けたい所だ。
ならば、このまま船の状態を維持、もしくは船を修繕するしかない。
しかしそれは俺には出来なさそうだ…。
装備の修繕する事は出来るが、こういった物を直すスキルは取得していない。
だが、俺には心強い仲間がいる。
「クラスチェンジ・召喚士。召喚、シュリエル」
俺はクラスチェンジを再度発動して召喚士に変化すると、シュリエルを塔から呼び出す。
黒い靄がレヴィさんの背中に出現し、少ししてから靄からシュリカが出てくる。
すると、
「うわっ!ちょちょっとっ!どこ、ここッ!?」
僅かに揺れたり、うねったりするレヴィさんの背中に立ったシュリカがバランスを崩して海に落ちそうになる。
そんな彼女に近づいて体を抱き寄せると、
「あ…」
「大丈夫か?ここは海の支配者、レヴィアタンであるレヴィさんの背中だ」
俺はシュリカが海に投げ出されない様に、彼女の体を俺の隣にピッタリとくっ付ける様に固定しながら、簡単に今の状況を説明する。
俺の説明を聞いているのかどうか、シュリカは少しオロオロしている様に周囲に視線を泳がせる。
しかし改めて自分がいる位置、そして周りの景色を見たシュリカは、
「う、海ッ!」
嬉しそうな声を出して、先程までのオロオロとした様子が消えて興奮した様子に見える。
「お…、ヴァルダッ!海っ!海だよっ!」
海の方を指差したシュリカが、俺にそんな報告をしてくる。
彼女のそんな様子に、
「あ、あぁ。海だな」
とりあえず頷いておく。
そういえば、シュリカ…靜佳はリアルの時から海が好きだった気がするな。
夏になると必ず海に行きたがっていた気がする。
何日も俺の事を誘ってきて、俺が根負けして一緒に行った事もある。
「UFO」の夏イベントを楽しみたかった俺が根負けする程、彼女の誘いは強かったのも今思い出す。
俺はそう思いつつ、
「シュリカ、悪いけど少し助けて欲しいんだ。手を貸してくれ」
海を見回しているシュリカに対して、俺は塔から呼び出した理由を話し出す。
俺の言葉に不思議そうな顔を向けてくると、
「今そこで危険な状態にある船を少しでも良い状態に修繕してくれないか?」
俺は彼女にそうお願いをする。
俺の言葉に、シュリカは今気がついた様子で船の事を見ると、
「鑑定……うわ…凄いボロボロだね…。ヴァルダ、近づくから支えてて」
「分かった」
鑑定スキルスキルを使用したシュリカが、船の状態を確認した一言だけ感想を呟くと、俺にそうお願いをしてくる。
彼女の言葉に頷き、シュリカを支えながら俺達は船に近づくと、
「どうしよ…一応木を素材にしている船だから、素材は私の在庫で十分なんだけど…。ヴァルダ、これからもこの船は使うつもりなの?」
少し悩んだ様子で独り言を呟くと、俺の事を見てそんな質問をしてくる。
シュリカの言葉に、俺は船を見ながら考える。
この船は俺の物では無い、おそらく船に乗っている人達が奪った物か、元々所有していた物なんだと思う。
俺が使うつもりは無くても、出来ればしっかりと修繕した状態にしてあげたい。
俺はそう思うと、
「俺の物では無いけど、しっかりと直してあげたい」
シュリカにそう伝える。
俺の言葉を聞いたシュリカは少しだけムッとした表情をすると、
「…分かった。じゃあ、私の出来る限りの力を使うね」
シュリカはそう言って支えにしていた俺の体から離れると、俺と同じアイテム袋から彼女と同じくらいの高さがある金槌を取り出すと、
「スキル、修繕」
金槌を思いっきり船に叩き付けた。
「な、何をしてるっ!?」
シュリカの行動を見た女性が、俺達にそう言ってくる。
彼女は驚いた様子でこちらに向かってきそうになっている。
「大丈夫です、見たままですと壊している様に見えますが修繕をしているんです」
俺は女性に危害を加えている訳では無い事を説明し、手を伸ばして女性にその場に留まる様に指示を出す。
そんな俺の言葉を聞き、しかし当たり前だが信じる事が出来ないのか心配そうに船の事を見る。
しかしそんな不安そうな表情も、船の様子を見ていく内に驚いたものへと変化していく。
損傷が目立っていた船体に金槌を叩きつけると、先程まであった損傷が無くなっている。
「ど、どういう事なのだ…」
女性の困惑した声を聞きながら、
「素材で必要な物があったら言ってくれ。元々は俺の我儘だから、シュリカの素材を使わなくても良いんだぞ」
俺がシュリカにそう伝えると、彼女は作業をしながら、
「それじゃあ、ヴァルダにお礼と言って言う事聞いて貰えなくなるじゃん。私も我儘言いたい」
そんな事を言ってきた。
彼女の言葉に俺は苦笑し、靜佳も意外にまだ甘えたい年頃なんだなと思いながら、
「了解した。じゃあ、シュリカが我慢する事無く我儘を言える様に、しっかりとやってくれ」
彼女にそう伝えると、とても嬉しそうな声で、
「任せてっ!」
頼もしい返事をしてくれた。
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