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建物の屋根の上に行くと、抱き上げている女の子を屋根へと下ろし、
「君が良ければ、俺の元へ来ないか?衣食住は保障しよう。…とりあえず一休みしてその後俺の元から離れても良い。だから今は、ゆっくりと出来る俺の元へ来てくれないか?」
そう伝えると、女の子は少し怯えた表情で、
「…お、お願いします。貴方様なら、酷い事をしないと思います」
そう言ってくれる。
流石に全てを信用してくれるとは思ってはいない。
だけど少しでも信用出来ると言われて、嬉しい気持ちになる。
俺は不謹慎だと思いながらもそう感じ、急いで本の中の世界の拡張ページを切ると、女の子の手に押し付けて仮契約をする。
「帰還」
俺がそう呟くと、黒い靄が出てくる。
その光景に女の子はビクッとして俺の後ろに隠れてしまう。
俺はそんな女の子に、
「大丈夫、見た目は怖いかもしれないが、この先が君にとって1番安全に過ごせる空間だと、俺は自信を持って言える。怖いかもしれないが、勇気を出して進んでみてくれ」
そう言うと、少しだけ背中を押してみる。
俺に背中を押された女の子は、黒い靄の前まで進んで振り返る。
心細そうに俺の事を見てくる女の子に、俺は大きく頷いて見せる。
すると、女の子は意を決した様に俺と同じ様に大きく頷くと一歩を踏み出した。
女の子がしっかりと塔へ行ったのを確認すると、ここでは次に戻って来る時に踏み外してしまいそうだと考えて場所を移動する。
帝国から外には出ていないが、なるべく外側の暗い路地を見つけると、俺は本の中の世界を開いて自分も塔へと帰還する。
…帰ってきたのは良いのだが、
「「………」」
塔へと戻ってきて最初に見た光景が、大剣の柄に手を伸ばしていつでも抜ける様にしているエルヴァンと、そのエルヴァンに対抗する様に両手を何かの武術かの様に前に出して構えている魔王の娘。
そして、その2人の事を見物しているバルドゥとエ、エリーゼ?達とシェーファにセシリア。
それと魔王の娘と一緒に仮契約した女の子2人組と男性。
何でこんなに緊迫した空気なんだ?
俺がそう思っているとシェーファとセシリア、そして魔王の娘と対峙していたエルヴァンが俺が来た事に気がついて、すぐに俺の元へ駆け寄ってくる。
「おかえりなさいませヴァルダ様」
シェーファがそう言って跪くと、セシリアとエルヴァンも同じ様に頭を垂れて跪く。
…ここまで丁寧に出迎えられるのは、なんかムズムズするな。
俺はそう思いながらも、
「顔をあげてくれ3人共。それより先程の光景、状況を説明してもらおうか」
3人にそう聞いてみる。
すると、
「では、1番両者の状況を把握している私が」
セシリアがそう言って手を挙げる。
「頼む」
俺がセシリアにそう短くお願いの言葉を言うと、セシリアは少し自信に満ちた表情をし、
「では先に私とシェーファ、エルヴァンの行動を説明します。まず私が塔に知らない者の存在を感知し、それをシェーファに報告、合流した後にここへ来ました。その時にエルヴァンはすでにこちらに来ていたのですが、エルヴァンもこの者達が塔へ来た瞬間に感知し、すぐにここへと向かっていきました。流石にエルヴァンがどういった考えでここへ来たのかは分かりませんが…」
そう説明をして、隣にいるエルヴァンに視線を送る。
「なるほど、セシリアとシェーファがここへ来たのは管理を任されている仕事の範囲だと思うが、エルヴァンが塔から島まで移動するのは珍しいな。エルヴァン、説明をしてもらえないか?」
俺がそう言ってエルヴァンを見ると、彼は脇に抱えている首を持ち上げて視線を俺に合わせると、
「ハッ!いつもの様に剣を振るっていた所、何か強き者の気配を感じました。そ、それを確認するためにここへ来ました」
そう言ってくる。
俺はその言葉を聞いて、
「エルヴァンの行動を咎める事はしないが、それで何故ああいう状態になっていたんだ?」
チラリと魔王の娘の方を見る。
すると、俺の視線に気がついた魔王の娘がその場から一歩前へ出て、
「鎧は違うけど、そのデュラハンを見た事があったから本人か確認するために少し…」
魔王の娘がそう言って少し口ごもる。
「それで互いに構えていたという事か。…エルヴァン、後で話があるから、部屋へ来てくれ」
俺が魔王の娘の言葉を聞いてエルヴァンにそう言うと、彼は短く返事を返してくれる。
俺はその返事を聞いた後、未だに頭を下げている3人に立つ様に言ってから魔王の娘や先程連れて来た女の子の元へ行く。
俺が近づくと、皆何故か最初に会った時よりも緊張した表情になっており、俺は少し印象が悪かったか?
と、考えてしまう。
なるべく高圧的にならない様に、と心に誓いながら、
「待たせてすまなかったな。改めて、ようこそ私達の家へ。私は君達を歓迎しよう。勿論君達に危害を加えるつもりは無いし、外の世界に帰りたいのならその手に刻まれた契約印を消して自由にしよう」
そう言って少し緊張しながらも笑顔を向けてみる。
すると、先程よりかはいくらか安心してくれたのか、緊張で強張っていた皆の表情が和らいだのが確認できた。
良かった、これで多少は怖がられずに話をする事が出来そうだな。
俺はそう思いつつ、背中に突き刺さる視線を感じ取って、
「…シェーファ、セシリア、エルヴァン。3人は一度持ち場へ戻れ。意識していないかもしれないが、お前達にジッと見られていては緊張して話したい事も話せないだろう」
俺の背後から連れて来た人達を警戒する様に見つめ続けている3人に声を掛けると、
「で、ですがヴァルダ様」
シェーファが心配そうな声を出して食い下がろうとする。
だが全ての言葉が出る前に俺は、
「一応これでもお前達の主をしているのだ。もう少し俺の力と人を見る目を信用してくれ」
シェーファの言葉に被せてそう言うと、シェーファは何も言う事が出来ずに口を塞ぐ。
するとその隣にいたセシリアが、
「分かりました。私達は一度引きます」
そう言ってシェーファの服を少し摘んで引っ張ると、シェーファはセシリアの方を向いて一度頷いて2人で一礼をして去っていく。
その後にエルヴァンも首を一度両手で持ってお辞儀をすると、いつも剣の鍛練をしている塔の麓へ戻って行った。
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