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食事が終わり、セシリアが持って来てくれた食後のお茶をすぐに飲み終えたサール達は、さっさと食堂を後にした。
残った俺とセシリア、レナーテさんは極端にゆっくりとまでは言わないが、落ち着く様にお茶を飲んだ後、セシリアにお礼を言って塔の管理に戻って貰った。
そして俺とレナーテさんは、外の世界へと戻って来ていた。
「さて、では行きますか」
「今日は、どの様に行くんでしょうか?」
俺がレナーテさんに声を掛けると、彼女は少しだけ不安そうな表情で周囲をキョロキョロと見回しながらそう質問をしてくる。
彼女の問いを聞いた俺は、
「おそらくカルラが機嫌を直してくれていると思うので、彼女にお願いしましょう。召喚、カルラ」
俺はレナーテさんの質問に答えながら本の中の世界を開いて、カルラを呼び出す。
黒い靄が出現し、そこからカルラが出てくるのを確認した俺は、
「昨日はありがとうなカルラ、おかげでよく眠れたよ」
まずは昨夜の事を感謝する。
俺の言葉に、カルラは俺に頭を撫でろと言いたげに目を細めて頭を俺に押し付けてくる。
そんな甘えるカルラの頭を撫でると、彼女は喉を鳴らしているのが聞こえる。
すると、
「…どういう事ですか先生?」
訝しんだ目を向けて、俺にそんな事を聞いてくるレナーテさん…。
別に何も悪い事も、言葉には出来ない事をした訳では無い。
普通なら大丈夫だと言えるのだが、彼女は一応お嬢様だ。
そういった一緒に寝ると言った話は、不潔な話だと思ってしまうかもしれない。
そうなると気まずいというか、今日これからの行動に支障を出してしまう可能性もある。
ここは、誤魔化すしかないだろうな。
俺はレナーテさんの言葉を聞いてそう思考し、
「カルラが疲れている俺の事を気にして、俺が落ち着いて寝るまで側にいてくれたんです。子供っぽいかもしれませんが、寄り添ってカルラの前足と手を繋いで寝てしまいました」
多少、俺のイメージが下がるだろうと予想出来る説明をすると、彼女は訝しんだ目を俺から逸らしてカルラの事を見る。
そして、
「先生も、そういう時があるんですか?」
とりあえず俺の言葉を信じたレナーテさんが、俺に再度質問をしてくる。
そんな彼女の問いに俺は、
「一応これでも、人なんで…。心細い時とかあるんですよ?まぁ、俺には塔の皆がいるからなかなか寂しいという事は無いんですがね」
俺は苦笑をしながらそう答える。
我ながら、演技が上手いのではないだろうか?
俺がそんな自画自賛をしていると、
「分かりました。では先生が心細くなった際には、私もお手伝いが出来る時はしますね」
「??」
レナーテさんが突然そんな事を言ってくる。
あまりの突拍子も無い発言に疑問で声が出なかったが、俺に向けてくるレナーテさんの何やら怪しい笑みに、
「ま、まぁその時が来れば…お願いしますね」
俺はそう答えるしか無かった。
レナーテさんが何を考えているのかは知らないが、何やら気がついた時には彼女の図中に嵌められそうだなと感じつつ、改めて俺とレナーテさんはカルラにまたがって大空に飛び立った。
リーゼロッテ先生のいるシュタール公国を目指し、カルラは俺とレナーテさんに気を遣って速度を上げ過ぎない程度に加減をしてくれた。
大した時間は掛からずに、俺とレナーテさんがどんどん映り変わる景色を見ている内にシュタール公国の近くまで辿り着き、いつも通りカルラに近くで俺達を降ろして貰い、カルラにお礼を言ってから塔へと戻って貰った。
シュタール公国の入国をさっさと済ませた俺達は、少しだけ急いでリーゼロッテ先生のいる屋敷へと歩みを進めた。
街の様子は特に変わりなく、ただ商人達が慌ただしく荷物を自分達の馬車などに乗せている。
「これがこれから毎日だと考えると、結構な物資が帝都に集まりそうですね」
周りの喧騒で普通に声を出しても、周りにはあまり聞こえ無さそうだと感じた俺はレナーテさんに少しだけ身の近づけてそう言う。
「そうですね。ですが、これだけの武具、薬などを帝都に集めて反乱に備えているとしても、それでは各国の騎士や兵士、戦争に参戦する冒険者達の持ち物に偏りが出来てしまうと思うんですが…」
レナーテさんは俺の言葉に頷き、疑問点を口にして首を傾げる。
彼女の言葉を聞き、俺も同意して思考する。
おそらく、帝都に物資や亜人族を集める様に命令したのは皇帝である閃光の筈だ。
もしそうじゃ無かったとしても、奴に近い側近だとは思う。
亜人族が帝都に集められているのは、多少の戦力の増強とセンジンさん達反乱軍の戦意喪失を狙っているからだ。
しかし物資までとなると、レナーテさんの言う通り各国での戦力に差が出来ると思う。
一度帝都に集めてから、集まった戦力に再分配をするのつもりなら理屈は通っていると思うんだが…。
もし閃光がこの命令を下したのだとしたら、再分配なんて考えはおそらく持たないだろう。
側近などの作戦をしっかりと考えている連中なら、まぁそうするとは思うんだけど。
「…すみません先生。こんな話をしても憶測でしか話が出来ませんよね…。今はただ目の前の人達の保護を優先して、自分達の安全を確保しないといけませんよね…」
俺が色々と考えていると、レナーテさんが俺に謝罪をしてくる。
「いえいえ、疑問に思う事はとても大事ですよ。そこから更に相手の考えを想像し、それに対応出来る作戦を考える。その結果、相手の図中に嵌る事無く戦う事が出来る。欠点としては、時間を割かないといけない事ですけどね…。こうやって歩いている間くらいなら、疑問に思った事について考えるのは良いと思いますよ。俺も偶にですけどそうしています」
俺は彼女の謝罪の言葉を聞いてそうフォローをすると、彼女はなるほどと呟いて真剣な表情でまた思考の海に入ってしまった様だ。
そんな彼女の真剣な顔を横から見つつ、俺も少しだけ考え事をしながらリーゼロッテ先生の屋敷へと向かった。
そうしてレナーテさんと二人で考え事をしながら屋敷に辿り着くと、
「チッ…異端者が…。賢者様の力になろうともしないとはっ…」
屋敷から出てきた、俺が言うのもなんだがフードを被った怪しい男が俺とレナーテさんの横を通り過ぎた。
気になる言葉を聞いた俺とレナーテさんは一度顔を見合わせた後、リーゼロッテ先生に話を聞こうと思い、先程とは違い早足で屋敷へと入った。
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