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最近というか、この数時間で3人の女性に優しい笑みを向けられたな。
もしかして、相当俺は子供っぽいのか?
いや、単純に3人が優しいだけだ、他意はないはずだ…。
そんな事を思いながら、
「ありがとう、それで昨夜連れて来た人達はどの様な様子だ?」
俺はセシリアに感謝を伝えつつ質問をする。
俺の問いを聞いたセシリアは、
「はい。ヴァルダ様がもう一度外の世界に戻られた後、塔へと案内をしまして食事と入浴、着替えをして頂き部屋へと案内させていただきました。1人を除いて、亜人族の方達は遠慮をして最初は食事もあまり取らなかったのですが、除いた1人の人が食べても怒られはしないと言い、自身も食事をして遠慮を取って下さいました。入浴は私の方からしっかりと汚れを洗い、ゆっくりと湯に浸かる事を進言致しました。でなければ、彼女達はあまり湯を使う事自体躊躇っていた様子でしたので。その後は好きに部屋を選んで欲しいと伝え、寂しかったり不安で心細いのであれば数人で同じ部屋を使う事を許可し、なんとか就寝して下さいました。………まだ起きていない様子から、相当緊張感がある状態だったのでしょう。皆緊張が解けてぐっすりと寝ていらっしゃいます。…1人は、既に起きて塔の散策でしょうか?歩き回っている感じです」
俺が外の世界に戻った後の事を簡単に説明してくれる。
説明の途中で目を閉じて少し沈黙していたのは、塔の部屋で休んでいる亜人族の人達の様子を窺っていたからだろう。
そしてセシリアが言う1人の人というのは、おそらくレナーテさんの事だろう…。
とりあえず、今も寝ているというのなら亜人族の人達は起こす必要は無い。
あれだけ酷い扱いを受けていたし、精神的にも体力的にも大変だった筈だ。
今はゆっくりと休んで欲しい。
俺はそう思い、
「亜人族の人達には、セシリアから塔での自由な暮らしをして良い事を伝えておいてくれ。彼女達も今まで人族に無理矢理従わせられていた人達だ。ゆっくりと生活して欲しいと思っている」
セシリアにそうお願いをすると、
「かしこまりました」
セシリアが一礼をして返事をしてくれる。
そして、
「…それで、今1人で塔を散歩している彼女…、レナーテさんはどこにいる?そろそろ外の世界に出掛けないといけないから、迎えに行かないと」
俺はレナーテさんの居場所をセシリアに問う。
俺の問いを聞いたセシリアは、
「…今は、丁度食堂に入ったところです。おそらく早めの昼食を食べようとしているのだと…」
レナーテさんの居場所を教えてくれる。
それを聞いた俺は、今現在俺も空腹である事を理解する。
色々と考える事ややる事が多くて意識が向いていなかったが、改めて食堂という言葉にお腹の意識を向けると、空腹を感じている。
朝食としては遅いし、昼食としては少し早い時間ではある。
しかし、こう空腹を意識してしまうと食事をしたくなってしまうものだ。
俺はそう思い、
「…少し早いが昼食にしようと思っているんだが、セシリアも一緒にどうだ?」
セシリアにそう声を掛ける。
俺の言葉を聞いたセシリアは、表情はそこまで変化させてはいないが、雰囲気が一気に明るく華やかになった様に感じさせると、
「はい、ご一緒させて頂きます」
俺の誘いを受けてくれて、一緒に食堂へと歩き始める。
セシリアとの軽い雑談をしながら食堂へと辿り着くと、
「…ヴァルダさま!」
「こんにちは、ヴァルダさま」
「こ、こんにちは!ヴァルダ様、セシリア様!」
俺に声を掛けて来たのは、サール、ソル、ヴィアンシエルの3人組だ。
「…こんにちは。3人も今から昼食か?」
俺はとりあえず子供達に挨拶を返してからそう質問をする。
俺の言葉の後に、セシリアは子供達に一礼をして挨拶を返す。
「そうだよッ!」
「そうです」
「サ、サールちゃんがお腹空いたから、ご飯食べようってなって」
俺の質問に、3人が返答してくる。
「なら、一緒に食べようか」
3人に俺がそう進言すると、3人はそれぞれ返事をしてくれる。
それを聞いた後、改めて俺とセシリア、そしてサール達を連れて俺達は食堂へと入った。
そこには少し早いという事だが、それでも数組の人達が昼食を食べている光景が見える。
しかしそんなゆっくりとした光景が、俺が食堂に入ってきた事で一気に皆が俺に注目し席を立とうとする者が見えた。
「挨拶の必要は無い。皆、食事や談笑を続けてくれ。俺達も食事に来ただけだ」
俺は席を立とうとしている人達に聞こえる様に少しだけ声を出してそれを制すると、食堂のカウンターで何を食べようかと迷っている様子なのか、レナーテさんが視線を彷徨わせている光景が目に入る。
俺はセシリアとサール達を連れて彼女の元まで歩くと、
「何か迷ってるんですか?」
レナーテさんに質問をする。
「っ!…先生、おはようございます。そうですね、どれもあまり知らない料理ですので、どの様な物なのか好奇心を刺激されてしまい…。全部食べてみたい気持ちが……って!そうではありませんッ!」
俺に突然声を掛けられたレナーテさんは、驚いた様子を見せて料理に向けていた視線を俺に向けると、セシリアの様に綺麗に一礼をして挨拶をしてきた。
お嬢様って感じの所作に感動しつつ、その後に述べられた発言で一気に食いしん坊みたいになってしまったが…。
俺がそう思いつつ、
「どうかしましたか?」
何やら怒っている様な慌てている様な様々な感情が入り混じった表情をしているレナーテさんにそう聞く。
「どうかしましたか?ではありませんッ!何なのですかこの場所はッ!?」
俺の言葉を繰り返し、綺麗なツッコミ?をしてくれるレナーテさん。
そんな彼女の問いに俺は、
「ここは、俺の創り上げた世界ですよ。一から話をするととても長くなる上に、レナーテさんには少しややこしい話になってしまうと思うので説明は省かせていただきますが、ここは俺と家族、仲間が一緒に生活をしている家です。最近は人族に虐げられていたり、奴隷にされた亜人族を保護して生活して貰っています」
塔の簡単な説明をする。
しかし、
「それだけで納得すると思っているんですかッ!?」
流石、好奇心旺盛なレナーテさん。
今の説明では、やはり納得はして貰えない様だ。
俺はそう思いながら、
「では食事をしながら話をしましょうか?」
威嚇をする様に息を吐いているレナーテさんに俺はそう提案をした。
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