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ベッドに移動した俺は、しかし寝るつもりでは無くシェーファが許してくれたら風呂に入ってから外の世界に行くつもりである。
故に、ベッドの上に横になった俺は布団を掛ける事はせずにシェーファの次の行動を気にする。
すると、
「失礼します、ヴァルダ様」
シェーファは俺が横になっているベッドに乗ると、横になっている俺の隣に座ると、しなやかな腕を伸ばして俺の頭に手を乗せる。
そして、
「ふふっ♪」
シェーファは満足そうに俺の頭を撫で始めた。
…気恥ずかしいのだが、シェーファが満足そうにしているし、嬉しそうなので止める事は出来ないな。
俺はそう思い、シェーファが満足するまで頭を撫でられ続ける事に決めた。
…決して、この時間を少しでも堪能したいと思った訳では無い。
心の中で伝える相手も分からないまま俺は欲望に抗っているんだと言い訳を述べていると、
「…?」
ふと、瞼が重くなってきている事に気がついた。
そしてそれを自覚してしまった瞬間、俺は一気に睡魔に襲われる…。
…マズイ、このまま寝てしまってはリーゼロッテ先生の所へ行って報告とか、レナーテさん達の様子を見に行く事すら遅くなってしまう…。
俺はそう思いつつも、既に体が動かなくなってきている事に気づき、視界もぼやけて狭くなってきているのを自覚する。
そして、
「お休みください、ヴァルダ様」
シェーファのその一言で俺の理性は陥落し、彼女の睡眠の誘惑に抗うのを止めて俺は再び目を閉じた。
「ハッ!?」
「あら、起きたのヴァルダ?」
突然の意識の覚醒に、俺は息を短く吐いて飛び起きる。
すると、俺が起きた事を確認する声が聞こえた。
耳から入ったその声がただの確認の言葉だと言うのに、まるで脳を溶かす甘い誘惑の囁きに聞こえる。
声がする方向を見る前に俺はベッドの周りを確認するが、俺が寝る前に傍にいたシェーファの姿が見えない。
どうやら、俺が寝たから部屋から出てくれたみたいだ。
カルラとの睡眠に文句は無かったが、やはり体の凝りや疲れが残っていたのは確かだった。
それをシェーファが癒してくれた事に、感謝しないといけないな。
…まぁ、時間がだいぶ遅くなってしまったのは仕方が無い。
沢山謝ろう。
俺がそう思っていると、
「ヴァルダ、随分と心が荒れているわね」
声の主がそう言ってくる。
そこで俺は、改めて声の主である女性の方へと視線を向ける。
そこには髪の毛も身を包んでいる服も漆黒、反対に服から見える素肌は血の気が無い様に見える程真っ白だ。
俺に向けてくる笑みは、寝る前まで俺に向けてくれていたシェーファの笑みと同じ様に見えて、どこか目の前の彼女の笑みは異質なモノに見えてくる。
俺はそんな事を考えつつ、
「…それはそうですよ。昨夜なんて、人を殺していますからね」
女性の言葉に、懺悔をする様に言葉を吐く。
しかし後悔をしている訳では無く、ただ報告をしただけに過ぎない。
「…フフッ…。ヒトなんて殺した事、特に気にもしていない癖に。そうね、ヴァルダが荒れている理由は、自分の力の足りなさって所かしら?」
俺の言葉をあっさりと看破し、内心で感じている歯痒さを見事に言い当てられる…。
「…意地悪ですね…」
俺が自嘲的な笑みを浮かべながらそう返答すると、
「私だって偶には貴方と話したいし、構って欲しいしあげたくなるのよ。さっきも帰って来たのが分かったから部屋に入ったら、シェーファちゃんに撫でられて気持ち良さそうに寝ていたの知ってるのよ?凄く愛おしそうにヴァルダの頭を撫でているシェーファちゃんを見て、私妬いちゃったんだから」
女性は漆黒の瞳を俺に向けて、頬をやや膨らませる。
そんな様子に、
「…そんなヒトみたいな事言って…」
俺が苦笑しながら彼女にそう言うと、
「あら、今は私だってヒトよ?見れば分かるでしょう?」
彼女は自身の体を気にする様に腕を動かして見たり、細い腰を捻って曲線美を意識した格好をする。
…おぅふ。
俺は自分の視線が彼女に釘づけになっている事に気がつき、視線を彼女から逸らしてから、
「ま、まぁそうですね…。えぇ完全にヒトに見えます…」
彼女にそう言うしか出来なかった。
女性にそう言って俺がベッドから下りて立ち上がると、
「行くの?」
少しだけ俺から離れていた女性が、歩いた動作も見せずに一瞬で俺の元まで来てそう質問をしてくる。
そんな彼女の問いに、
「はい、時間ももう昼近い。まだやらないといけない事が多いですし、急いでいる状態ですから。それこそ、貴女が言い当てた様に俺にもっと力があれば良いんですけどね…」
俺はそう答える。
俺の言葉を聞いた彼女は、
「大丈夫よ。貴方は1人では無いのだか。シェーファちゃんにセシリアちゃん、エルヴァンくんにバルドゥくん、最近だとルミルフルちゃんやレオノーラちゃんだって力を付けてきているわ。他の皆だっている。貴方には支えてくれる家族がいるのだから、辛くなった時は皆に甘えても良いのよ。勿論、私だって貴方に協力する。だから、あまり1人で背負い込まない事」
優しく俺を包み込んでくれる様な、母神かと思わせる様な包容力が溢れている声色で俺にそう言い、
「無理だけはしない様にね」
最後にそう俺に伝える。
彼女の言葉に、
「ありがとうございます」
感謝のお礼の言葉を伝えると、彼女は次はもっと時間を作ってねと念を押してから、俺の部屋を後にした。
俺は彼女が部屋から出て行った扉を少しの間眺め続けた後、俺はとりあえず風呂に入ろうと思って部屋を出て浴場へと向かった。
浴場へ着き、汗や汚れ、微かな血の匂いを洗い落とした後、俺は十数秒だけ湯に浸かって浴場から出た。
そうして装備を着け直し、俺は浴場を後にして塔の廊下に出ると、
「セシリア、起きているか?」
俺はそう独り言を口にする。
「おはようございます、ヴァルダ様」
そんな俺の独り言に返答してくれるセシリアが、俺の近くに姿を現す。
「昨日夜遅くだというのに働かせてしまってすまなかったな。ゆっくり…出来たか?」
俺がそう質問をセシリアにすると、
「お気遣いいただきありがとうございます。問題はありません、ヴァルダ様のお役に立てるのであれば、いつでも御呼び出しください」
彼女は俺の問いにそう答え、優しい笑みを向けてきた。
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