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482頁

流石にドンナ―シュラーク・レイと、学院長の絶叫は学院の警備をしている兵達に聞こえる筈だ。

逃げた女性達を学院の外に出さない様に命令は出されていたが、この事態に援軍がこちらに来てもおかしくは無い。

さっさと済ませてしまおう。

俺はそう思うと、吹き飛んで少しだけ離れた場所に転がって痛みにバタバタと手足を動かしている学院長の元に歩き、


「喋れますか?」


そう質問をする。

痛みで瞳の端に涙を溜めながら、砕けてしまった顎を手でそっと触れている。

口の両端からは血が溢れ、僅かに見える口の中には顎と一緒に砕けてしまった歯が微かに見える。

脚は横たわっているにも拘らず、膝を曲げて足で地面を踏み締めるかの様に力を入れているのがよく見えた。


「きぇ…きぇしゃあぁ…(き…貴様…)」


俺の問いに、こちらを射殺す勢いで睨みつけてくる学院長。


「…まだ話す事が出来るなら、彼女達の様にはなっていないな…」


そんな学院長を見下しながら、俺はそう言うと横たわっている学院長の口元を狙って脚を持ち上げる。

そして、


「今は殺しはしない、安心して砕かれろ」


俺は学院長にそう言った瞬間、持ち上げていた足を学院長の口元を踏み抜く勢いで踏み下ろした。

足から僅かな感覚が、学院長の顎、歯、上顎、それらを護る様に覆っていた手を砕いたのが分かる。

踏み付けられた痛みに、学院長は上半身を僅かにくねらせ、反対に勢いよく逃げ出そうとする下半身が地面を擦り蹴っている。

しかし、俺が足で押さえている故に、学院長の体は移動する事が出来ない。

ただひたすらに、痛みで脚をバタバタさせている。


「…まるでもがき苦しむ虫の様だ。…どうだ?話せるか?」


俺は客観的に見た感想を述べながら、学院長に再度同じ質問をする。

そんな俺の問いに、学院長は先程まで溜めていた瞳の涙を溢れさせて何かを俺に伝えようとしてくる。

学院長のその様子に、


「あぁ、すみません。足が邪魔だったな」


彼の口周りと覆っていた足を退かしながら謝罪をする。

見ると、顎の形が見事に変形しており今まで亜人族を馬鹿にする様な笑みを浮かべていた口元は拉げて見るも無残な姿になっている。

この暗い夜でもハッキリと彼の口の中は白い物が詰められた姿に、歯が全て砕かれて抜け落ち、彼の口を塞いでいるのが分かる。

微かに聞こえる痛みによる苦悶の声と、隙間風。

どうやら、話す事は難しそうに見える。

そんな学院長を見て俺は、


「亜人族を虐げないと、約束をするのなら命は助けてやる。…どうする?」


出来るものならな、と含みがある言い方で学院長にそう言うと、


「…ぁ゛…ぁ゛~あ゛ッ!ッ!?ぁ゛ぁ゛ッ!」


学院長は必死に何かを伝えようと、口に入っていた自身の歯を数本吐き出しつつ言葉にすら聞こえない音を発する。

そんな彼に俺は、


「そうか、謝罪をする気はない…と」


腰に下げていた剣の柄を握り、ゆっくりと鞘から剣を抜きながらそう言う。

俺のその言葉に、


「~゛~゛ッ~゛ッッぁ゛~゛ッ~゛~ッッ!!」


学院長は足をバタつかせ、少しでも俺から離れようと動かない頭と上半身を地面に擦り付けながら、ズル…ズル…と微かな移動をする。

これだけ痛めつけても動く気力は、素直に称賛に値するなと心の中で思いながら、


「亜人族を虐げた罪、しっかりと贖って下さいね」


学院長の最後の抵抗であった、地面を必死に踏み、蹴っていた脚を剣でサクッと斬り落とした。

激しい呼吸音だけが辺りを支配し、もう動けなくなった学院長の最後を確認する為、俺は剣を鞘に戻して死にかけの学院長を見つめる。

斬り落とした腿から血が溢れ、臭い刺激臭と血の匂いが鼻を刺激する。

すると、少しだけ遠くからこちらに向かって来る足音に気がつく。

…学院長をこうしたのが、亜人族では無いという証拠の為にも、微かに俺の姿は見せないといけないかもしれないな。

俺はそう思うと、こちらに来る気配をスキルで確認し、対象に背を向ける形で位置取りをする。

少しして、


「ッ何者だッ!?」


複数の足音が近くまで来て急停止をすると、俺に対してそんな質問をしてくる。

どうやら、俺に意識が集中して足元の学院長には気が付いていない様だ。

…まだギリギリ息があるな、本当ならこのまま無様な姿を眺めていたかったが、それをしていては時間をかけ過ぎて、俺の姿をしっかりと見られてしまう。

…仕方が無い、本当なら苦しむ様を見ていたかったが…。

俺はそう思うと、鞘に戻した剣をもう一度抜く。

その瞬間、後ろにいる兵達も俺が剣を抜いた事で抜刀するのが音で分かる。


「…お前達程度で俺を止められると思うな。静かに事の成り行きを眺め、この男の様に亜人族を虐げた結果、当然の報いを受け、悲惨な最後を辿らない様に努力するんだな。いつでもお前達は監視されていると思え」


俺はそう嘘を混ぜた警告を言った後、威圧スキルを少しだけ強めて発動する。

瞬間、何かが地面に落ちた様な音が聞こえ、1人2人が地面に尻餅でも付いたのだろう、重めのモノが倒れる様な音が聞こえた。

そして、俺は握っていた剣で学院長の首を斬り、剣を鞘に戻して走り始める。

威圧スキルを使っているから、追って来る事は無いだろう。

姿も後ろ姿しか見られていないし、俺が学院長を殺したと分かる者もいない筈だ。

これで、ひとまず学院で亜人族を奴隷として引き取る事はしない筈だ。

アーデさんやラーラさんの様に虐げられる者達が現れないとは言えないが、数を少しでも減らせる事が出来る。

俺はそう思いながら学院の敷地内を走り抜け、レベルデン魔法学院を後にした。

学院を抜けた後、ひとまず夜が遅い故にリーゼロッテ先生達の屋敷に帰るのは失礼だ。

明日の昼頃に行けば大丈夫だろう。

俺はそう考え、今日はすぐに塔に帰る為に見晴らしが良い丘で立ち止まり、クラスを召喚士(サモナー)に変更してから、本の中の世界(ワールドブック)を開いて塔へと繋がる黒い靄を出現させ、靄の中を通って塔へと帰還した。

塔へと帰還し、明け方近くという事もあり俺はさっさと自室へと急ぎ、部屋の扉を開ける。

そこには、


「ピィ…ピィ…ピィ…グワァ…」


何故か硬い床の上で、静かに寝息を立てているカルラがいた。

………可愛い。


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