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横からの奇襲に、男は抵抗する事も出来ずに俺のスピードによる突撃を躱す事は出来ずに吹き飛ばされる。
と、とりあえず意識を奪う事には成功したけど、少し加減が出来ていなかったか…。
俺はそう反省していると、俺が木の影から飛び出した事にいち早く気づいた学院長が懐から短めの杖を取り出して俺の方に向けてくると、
「雷撃よ!ライトニングッ!」
一節の詠唱をし、雷魔法のライトニングを発動して来た!
俺は即座に学院長が放った雷撃を躱すと、一度距離を取る為に地面を蹴る。
今のライトニング、大した威力は無かった。
おそらく反射的に、一番相手を退ける速い魔法を放っただけだろう。
しかし、ライトニングを一節で詠唱するのはどうなのだろうか?
レナーテさんは、無詠唱でライトニングを発動する事が出来る。
そうなると、学院長よりもレナーテさんの方が優秀な魔法使いという事になるのだろうか?
それとも単純に、得意かどうかなのだろうか?
俺がそう思っていると、
「何者だッ!?…いやその髪…どこかで見た事があるぞ…?」
学院長が俺の事を目を凝らしてジッと見つめてくる。
出来れば気づいて欲しくは無かったのだが、まぁこの髪の色は目立つから仕方が無い…。
しかし俺はあえて自分から名乗る事はせず、学院長が俺の事を思い出すかどうか様子を見る。
すると、
「……チッ!どうでも良いな。貴様、ここにいるという事はあの獣共の事を知っている筈だ、アレ等はどうした?」
俺の事を思い出す事を諦めて、苛立ちを含ませて声色でそう質問をしてくる。
その言葉に俺は、
「…彼女達は既に貴方の手の及ばない安全な場所に移動して貰っています。食事も大して与えず、薄い布の様な服装で…旧校舎の風通しが少しだけ良い環境に放置するのは、どうかと思いますが?」
既に彼女達を安全な場所に移動させた事を素直に話し、むしろ挑発的な言動で学院長にそう言葉を放つ。
すると、
「人の所有物に手を出すなど、随分とふざけた事をしてくれる」
学院長は先程の怒りを感じさせない淡々とした声色で俺にそう言うと、杖をゆっくりと俺に向けてくる。
まるで、先程の魔法よりも自信がある様に。
そして、俺に選択権を与えるのは自分だと分からせる様に。
俺がそう思っていると、
「選べ、今すぐに獣共をここへ連れて戻すか、それともアレ等を買った金額を払うか」
学院長が2つの選択肢を俺に突き付けてくる。
しかし、それは俺にとって意味の無い選択肢だ。
こちらに杖を向けてくる学院長に俺は、
「金額を払ったら、貴方は新しい奴隷を買うつもりですか?」
冷静に質問をする。
俺のその質問に、
「ハッ!当たり前だ、あんな使い捨ての醜い獣など、いくらでも手に入れられる」
学院長は俺を馬鹿にした様子で鼻で笑ってそう答える。
その答えを聞いて、
「それともう1つ、彼女達に言葉を発する事を封じた理由を聞いても?」
俺は一度理由を聞きたかった事を質問する。
その問いに学院長は、
「獣が人の言葉を発する事自体、可笑しな話ではないか。それに、獣共の声は耳障りだ。それを塞いで何か問題があるか?」
まるで自分が当然の事を言っているかの様な態度で、俺の問いにそう答えた。
彼の言葉を聞いた俺は、目の前にいる男にこれ以上話をするのすら時間の無駄だという事を理解する。
「…彼女達の事を全く考えないその態度、そしてその態度を変えるつもりも無い様子。今貴方の元から逃げ出したら、次の被害者が出てしまう。それは、俺があんたの亜人族への差別を、そして亜人族を奴隷にする手助けをした事になる。絶対に、そんな事は許す事は出来ない」
俺が淡々と自分の考えをそう言うと、学院長は少し呆けた表情をした後、
「まるで自分が私よりも能力が高いと言いたい様だが、先程のライトニングを躱せたのは私が威力を弱めたからだ。思い上がるなよ獣共に加担するゴミが」
俺を馬鹿にした笑みを浮かべながら俺にそう言ってくる。
その言葉に俺は、
「…あんたには彼女達が味わった苦痛を与えないと、俺の気が済まないな。悪いが、あんたの土俵で戦うつもりは無い。物理的に、破壊してやる」
宣戦布告をした後、一歩だけ足を前に出す。
その瞬間、
「地に這う愚者に、天からの裁きをッ!ドンナ―シュラーク・レイッ!」
二節詠唱を始め、即座に発動した。
ドンナ―シュラーク・レイ。
上位の雷魔法であり、標的の相手に高威力の雷魔法が落ちてくる。
しかも面倒なのが、標的にされたら逃げてもその位置に確実に魔法が放たれてくる事だ。
回避不可能の魔法。
しかし、所詮ただの一般人の魔法。
俺がそう思った瞬間、俺の立っている位置が明るくなる。
そして一気に、俺の体に雷の光線が落ちてきた。
体を傷つけようと襲ってくる雷に、俺は大した反応もする事も無く魔法が終わる時を待つ。
少しして体に当たっていた雷が治まり、辺りを照らしていた明るさも収まってきた。
「それでお終いなら、次は俺から動くのだが構わないよな?」
俺がそう言うと、
「な、何故だッ!?魔法はしっかりと発動したッ!穿たれているのもこの目で見たッ!何故貴様は生きているッ!?」
学院長が怒りと驚きの混ざった表情でそんな質問をしてくる。
そんな学院長の言葉に何も言う事は無く、俺は地面を蹴って学院長の懐に入ろうとすると、
「クッ!来るなぁッ!」
学院長は先程の威勢はどこへ行ったのか、畏怖の対象を見ているかの様な怯えている様な表情で数歩分の距離を地面を蹴って俺から距離を取ろうとする。
それと同時に俺の方に杖を向けてくるが、学院長が魔法を発動する前に俺は学院長が握っている杖を手で振り払って杖の先を俺から逸らせる。
そして、俺は表情を歪ませている学院長の顎を目掛けて、拳を叩き込んだ!
手に伝わる骨を殴った硬さと、その硬さを砕いた様な鈍い音と感触。
学院長は歪めていた表情を物理的に更に歪め、俺はとりあえず一撃を入れただけで追撃をするのは止めてその場で足を止める。
学院長は自身で距離を取る為に地面を蹴った勢いと、俺に顎を砕かれた際の勢いで少しだけ吹き飛んだ後、言葉というよりもただの絶叫が辺りに響いた。
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