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教室内に入ると、最初こそ少しだけ警戒した様子の亜人族の女性達が、俺の事を見て警戒を解いてくれたのが表情から見て取れる。

とりあえず、俺の事を覚えてくれていた様で安心した。


「遅れてすみませんでした。皆さんの安全は、俺に任せてもらっても大丈夫でしょうか?」


俺は教室に入ってすぐに、膝を床に付ける様に座り込んで視線を低くし、彼女達との視線を合わせてそう声を出す。

俺の言葉に、亜人族の女性達は少しだけ不安そうな表情でお互いの顔を見始める。

どうやら、完全に俺に任せても大丈夫か安心出来ずにどうしようかと悩んでいる状態の様だ。

それに関しては、俺も彼女達に信用出来るかを確信させる様な事が出来ていないから、仕方が無いと思う。

時間は無いが、それでも彼女達が少しくらい話し合うくらいの時間は取れるだろう。

俺がここにいると、あまり話し合う事が出来ないかもしれないな。

互いに顔を見合わせる亜人族の女性達を見ながら俺はそう思い、一度教室の外に出ようと思った瞬間、


「皆、私達を助けようとしてくれている恩人にその態度は失礼です」


俺との面識があるアーデさんが、周りの女性達にそんな注意の言葉を口にする。

それと同時に、アーデさんの言葉に同調する様にラーラさんが何度も頷いている姿が見える。

アーデさんとラーラさんの言葉と態度で、女性達は俺の事をひとまず危害を加える訳では無い人物と決めたのだろう。

意を決したというか、一度妥協した様な諦めと覚悟を決めた複雑な表情が読み取れた。

俺はそんな彼女達の様子を確認した後、アイテム袋からあるアイテムを取り出す。

こういう時の便利アイテム、課金アイテムの静寂の石を取り出す。

ルミルフルの時と同じで、こういう他者からの干渉が難しい魔法の無効化には最適なアイテムだな。

「UFO」の時は、プレイヤー同士の戦闘で罠系統の魔法を打ち破るか、それこそクエストなどで必要になる時があるくらいだ。

しかも、その場合使用しなくても何とかなるくらいの重要度だ。

ある意味、これ程有効的な静寂の石の使い方を俺は知らない。

俺はそう思いつつ、


「…出来るだけ皆さん集まって下さい。これの有効範囲が狭いので、申し訳無いですけど出来るだけ集まって頂けると幸いなのですが…」


既に身を寄せ合っている女性達にそう声を掛けると、ラーラさんが近くにいた女性達を出来るだけ集める様に両腕を広げて身を寄せる。

その様子を見たアーデさんが、


「ラーラの様に、近くにいる者とくっ付いて」


ラーラさん達をお手本とする様に声を掛ける。

その言葉に、近くにいた人達が次々と身を寄せ合う。

よし、これくらいなら静寂の石の範囲に収まっているだろう。

俺はそう思いながら、静寂の石を持ちながら女性達へと近づき、なるべく中心にいたアーデさんに腕を伸ばしてから、静寂の石を軽く親指で小突く。

その瞬間、静寂の石が僅かに発光しその光が俺や周りにいた女性達を包み込む。

石の有効範囲に全員が収まっている事を確認出来ると同時に、俺達を包み込んでいた光が消えていく。

完全に光が消えると、周りにいた女性達が困惑した様な表情と様子で周りにいる人達と顔を見合わせる。

その様子を俺は確認し、


「…ラーラさん」

「っ!」


俺は一番理解しやすいラーラさんに声を掛ける。

しかし返って来た返事は無く、俺の言葉に反応して控えめな意思表示をするだけだった。

こればっかりは、長年勝手に話す事を許可されていなかった所為だなと考え、


「話せますか?声を出す事は出来ますか?」


俺は今度はしっかりと、彼女に言葉を発する事が出来るのか質問をする。

俺のその言葉に、ラーラさんは少しだけ不思議そうな表情をした後、僅かに口を開き、


「ぁ…は…はい………ッッ!?」


返事をした。

その瞬間、自分が声を発した事に驚いた彼女が目を見開き両手を口元まで持って行き、本当に自身の発した声だったのかを確認する様にキョロキョロと周りの女性達に視線を送る。

ラーラさんに視線を向けられた女性達は自分では無いという風に何度も首を振るう。

そんな皆さんの様子に俺は苦笑しながら、


「ラーラさんもそうですけど、ラーラさんの周りの皆さんも声を出せますよ」


他の人達にも声を掛ける。

俺の言葉を聞き、ラーラさんの周りにいた人達も恐る恐る声を出す。

声が発せられた瞬間、ラーラさんと同じ様に自分以外の誰かが声を発したのかと周りの人に視線を送る人や、自由に声を出す事が出来た事への感動と久しぶりに感じる自由に、瞳を潤ませている人すらいる。

おそらく一番実感が無いのはアーデさんだと思って視線を向けると、


「………皆…っ!」


そこには自分以外の皆が、たどたどしくも声を発している状況に喜び、涙を流しているアーデさんが見える。

こういう人だからこそ、おそらくこの様な自由に話せる事が出来ない劣悪な環境でも、周りの女性達は精神を病む事無く、そして連帯感を持って生きていく事が出来たのだろう。

良かった、周りの女性達も自由を手に入れる事が出来、アーデさんの心配をしている事も消す事が出来たはずだ。

俺はそう思って、まだ感動している皆さんの邪魔をするのはいけないと思い、少しの間だけでも自分達の声で意思疎通をし感動を、自由を噛み締めて心の底から喜びあって欲しいと考えて、教室の扉の側まで少しだけだが移動をする。

すると、移動をした俺に近寄り彼女達の事を微笑ましく視線を送りながらも、


「先生、今のは一体何でしょうか?」


そんな質問をしてくるレナーテさん。

彼女の問いに俺は、彼女にだけ聞こえる様に小さな声で、


「魔法の効果を打ち消すアイテムです。有効範囲が狭い事が欠点ですけど、先程見て頂けた様にどんな魔法でも打ち消す事が出来ます。それで、彼女達に掛けられている奴隷契約の魔法を全て打ち消しました。これで、彼女達を縛るモノは無くなりました。今からこの人数を連れて学院の外に出るのは厳しいので、俺との契約を済ませて一時的に匿った後、学院から脱出します」


静寂の石の解説をした後、これから行う事の簡易的な説明をした。


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