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レナーテさんのお願いを聞き、旧校舎内の構造と人の気配のある場所を当て嵌め、


「教室の廊下、1人は廊下の奥で窓から少し離れた場所。距離はおよそ…2歩半くらいですかね…。2人目は、教室の出入り口から1人分のずれている位置にいます」


俺がなるべく正確に位置をレナーテさんに伝える。

すると、


「なら、大丈夫ですね先生。おそらくクラスメイトの誰かでしょう。数少ない旧校舎内で立って待っていられる安全な場所を把握しているのは、リーゼロッテ先生と私達生徒ですから」


レナーテさんは俺にそんな自慢出来るのか怪しい、悲しい真実を話してくれた…。

一応警戒しておくとしても、レナーテさんがここまでハッキリと俺にそう言ってくるという事は、悲しいが自信はあるという事だろう。

俺はそれを信じて歩みを進めるしかない。

そうして俺とレナーテさんが旧校舎内に入ると、深夜という事もあり不気味な雰囲気に支配されている校舎内で僅かな緊張が伝わってきた。

どうやら、廊下にいる2人が侵入してきた俺とレナーテさんに警戒をした様だ。

俺がそう思っていると、


「私です」


レナーテさんが短く声を出す。

すると、


「はぁぁ…レナーテか」

「先生も一緒でしたか…。安心しましたよ~もう…」


レナーテさんの声に反応して、安心した様子の声が聞こえた。

月明かりで少しだけ先が見える視界に、安堵の笑みを浮かべてホッとしている男子生徒、アシル君とオーレリアン君が暗闇から姿を現す。

彼らの姿を確認したレナーテさんも、自信はあった様子だったが絶対の自信とまではいかなかった様で、少しだけ安心した様な息を吐いているのが分かった。


「…それで、アシルとオーレリアン?2人はここで何をしているの?」


レナーテさんが2人にそう質問をすると、


「俺達はもう家の権限をある程度与えているからな。俺とオーレリアンは時間があるから、亜人族の人達の様子見と周囲の警戒だ。ま、見回りどころか人自体が来てないんだがな…」

「…彼女達の食事すら、持ってくる気配が無いですよね…」


アシル君とオーレリアン君がレナーテさんの質問に、苛立ちを含ませた声で返答をする。

それを聞いたレナーテさんの纏っている空気が、張り詰めたモノに一変したのを感じる。

しかし、今ここで怒りで声を荒げるのは旧校舎の教室にいる亜人族の人達を怯えさせる事になってしまうのだと察したのだろう。

大きく深呼吸をして気を落ち着かせている。

そんな彼女を横目で見つつ、


「食事でしたら、俺の方で手配しましょう。レナーテさん、お願い出来ますか?」


俺はこの場にいる3人にそう提案をし、アイテム袋を漁りながらレナーテさんに声を掛ける。

俺の言葉を聞いたレナーテさんさんは、短く返事をした後俺の元へやって来る。

レナーテさんにアイテム袋から取り出した食料を手渡すと、


「では、行ってきます」


彼女は意を決した様にそう言ってくる。


「お願いします」


俺も、今はレナーテさんの方が亜人族の人達が安心すると思って彼女にお願いをする。

俺の言葉を聞き、レナーテさんは静かにゆっくりと教室の扉を開けて、


「失礼します。食料を持って来ましたよ」


中にいる人達を怯えさせない様に、優しい声で語り掛けながら入って行った。

それを確認した俺は、


「夜遅くまでありがとう2人共。後の事は俺とレナーテさんに任せて、ゆっくりと休んで下さい」


アシル君とオーレリアン君にそう感謝の言葉を送る。

俺の言葉を聞いた2人は、


「じゃあ、後はお願いします先生」

「失礼します。何かあった際には、ご相談下さい」


そう言ってから、静かに旧校舎を後にした。

彼らが旧校舎を去った後、俺は教室内に入ろうかと悩んだが、今はレナーテさんに任せて亜人族の人達にも今だけはゆっくりと食事をして貰いたいと思い、廊下で静かに待機する事にした。

しかしその瞬間、俺は足元の廊下の床が沈み込んだのを感じ取る。

そう言えば、明るい日中だったら見ればある程度痛んでいた床とかを見て避ける事が出来たけど…。

今はあまり気にしていなかった…。

俺は瞬間的にそう反省をしていたのだが、時すでに遅し…。

大きな音を立てて廊下の床には穴が開き、そこに俺の足が落ちる…。

幸いな事に膝下までで落下は止まったのだが、それでも音を立ててしまった事に変わりは無い。

教室内の人達が怯えていないと良いのだが…。

俺はそう思いつつ更に客観的に今の自分を見ると、


「…情けない格好…。こんな格好、塔の皆にも学院の生徒達にも見せられないな…」


そう呟く。


「先生っ…、今の音は何事で………すか…?」


俺の呟きと同時に、教室の扉が開いて大きな声を出さずに警戒をした声色で質問をしてくるレナーテさんと目が合ってしまう…。

レナーテさんは俺と目が合うと、そのまま視線を俺の足元へと移動をしもう一度俺と視線を合わせる…。

そして、静かに教室内へと戻って行った。

それはそうだろう。

こんな今緊急という事態にも関わらず、廊下の穴に足を突っ込んでいる先生を見たら、誰だってこんな反応にもなる。

ここで何かしら言葉を発する事が出来たら、まだ笑い話程度に済ませられたかもしれないのだが…。

突然のレナーテさんの登場と、彼女に恥ずかしい光景を見られた事で思考が停止してしまった。

その結果、互いに黙ったままがより気まずい雰囲気にしてしまったのだ…。

俺はそう思いつつ、しかしこの後言い訳をするともっと情けなくなりそうだと考え、大人な対応をしてくれるレナーテさんに甘えて、一言だけ謝罪だけでもしようと考えて、後は時間が経過するのをひたすらに待ち続けた。

やがて、再度教室の扉が開くと、


「先生、皆さんも食事が終わって落ち着いてきました」


レナーテさんが扉から半分だけ顔を覗かせてそう言ってきた。

気を遣ってくれているのだと感じた俺は、


「先程は、大きな音を出してしまってすみませんでした。皆さんは大丈夫でしたか?」


まずは謝罪をする。

そして続けて、中にいた人達の事を心配すると、


「びっくりしていた様子でしたが、怯えている様子ではありませんでした」


レナーテさんが教室に視線を送り、教室内を見ながらそう答えてくれる。

彼女の言葉にひとまず安堵し、俺は足元に注意しながら、


「では、始めますか」


そう言いつつ、教室へと歩みを進めた。


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