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落とした剣を全て回収し荷台へと運び終えると、
「…申し訳ねぇ、気が立っちまって親切なあんたに失礼な事を言った」
商人の男性が最初に話しかけた時の謝罪をしてくる。
気が立っていただけで、普段の彼はそこそこ良い人なのかもしれないな。
俺はそう思いながら、
「いえ、大丈夫です。それより、これからあれらの荷物を運ぶんですか?」
商人の男性に世間話を振ると、彼は馬車を眺めながら、
「今が稼ぎ時ってやつよ、帝都が今なら武具などを割り増し価格で買ってくれるからな。出来るだけ往復して商品を捌かねぇと」
俺の問いにそう答えてくれる。
思ったよりもこちらの事を信用してくれたみたいだ、聞きたかった荷卸し先を自ら言ってくれた。
「なるほど、という事は、今は様々な物品が帝都に集まってるんですかね?」
俺は更にもう少しだけ深掘りをしようと質問をすると、
「だろうな、俺の知り合いの商人達も俺と同じ様に各地に行って物を集めてるって聞いてるぞ」
更に情報を教えてくれる男性。
雑談程度の世間話なら、ここまで位だろう。
俺はあまり怪しまれない程度の会話だと判断すると、
「ではこれで失礼しますね。道中お気をつけて」
軽く頭を下げてそう別れの挨拶をすると、
「あぁ、わざわざ手伝ってくれてすまなかったな」
商人の男性は俺の事を大して怪しんだ様子も見せずにそう返事をしてくれる。
俺とレナーテさんは彼らに背を向けて歩き出した。
少しして、
「先生、先生は最初からあの商人の方の事を怪しんでいたのですか?」
レナーテさんが真横に来てそう質問をしてくる。
彼女の言葉を聞き、
「いえ、ただ商人の話を聞きたいと思っていたので、都合が良かったですね。数打てば当たるの精神で、ひたすら声を掛けていく事しか考えてなかったです」
俺は素直に考えていた事を述べると、レナーテさんは苦笑しながら、
「それはまた、随分と途方もないやり方ですね」
そう言ってくれる。
「有意義な時間の潰し方では無いとは思いますが、あまり根を詰めすぎて危険な橋を渡る必要も無いと思いますしね」
俺も彼女と同じ様に苦笑しながらそう言うと、
「…ありがとうございます」
レナーテさんが俺にお礼を伝えてくる。
どうやら、彼女の事を心配して慎重に動いている事を察せられてしまったらしい。
あまり気にしなくても、彼女はもう他人という訳では無いし、同じ亜人族を差別しない同士としても俺は気に掛けている。
俺はそこで、ふと最近会っていない男、ブルクハルトさんの事を思い出す。
彼は表向きは奴隷商人だ、今回の帝都の件で通達が来ていると思う。
ブルクハルトさんが亜人族を裏切る様な事はしないと思うが、そうすると彼はどの様にこの状況を対処するつもりなのだろうか?
…心配ではあるが、しかし彼の事だ。
色々と行動はしているだろう。
もしかしたら、たまたまどこかで出会う事もあるかもしれないな。
俺はそう思いつつ、
「さて、さっきの商人の話みたいに、どの様なモノが帝都に集まっているか探って行きましょうか」
レナーテさんにそう伝えて、なるべく自然に客を装いつつ会話に溶け込む。
しかし最初の商人の男性と違い、あまり話しをしてくれる人はいなかった。
何を扱っているのかまでは、店の傾向を見ればある程度察する事が出来たが、帝都に何を運んでいるのかまでは教えてはくれなかった。
大した情報を得られない中、俺とレナーテさんは一度人通りが少ない場所で休憩をする。
「やはり商いをしている方達ですね…。より良い情報を流す事はしてきませんね」
「そうですね、まぁこちらも出来れば聞ければ良いな程度で話をしているのもあるんでしょうが…。もっと鬼気迫る感じなら、話が違うと思うんですけど」
レナーテさんと俺は、そんな会話をしながら目の前を横切る人達を眺める。
すると、
「先生は、婚約者はいらっしゃるんでしょうか?」
「………凄く突然な質問ですね」
あまりにも突飛な質問に、俺は少しだけ思考が停止してしまった。
何とか彼女の質問にそう返すと、
「すみません、少し気になったので…」
「いえ、別に謝る事では無いですよ。ただ本当に突然だったから驚いただけなので。それにしても、レナーテさんもそういった事に興味などあるんですか?」
レナーテさんが自覚はあるのか、申し訳無さそうな声で謝罪をしてくる。
俺はそんな彼女に謝る必要は無いと告げ、むしろ彼女にもそういった年頃の興味がある事に驚いた事を伝える。
すると、俺の言葉を聞いたレナーテさんは、
「ざ、雑談をするには堅苦しい話は良くないかと思いまして…。それに先生に聞きたい事はありますが、あまり詳しく教えてくださる事はしてくれないでしょうし…」
緊張しているというか、少し拗ねている様な声色で俺の言葉にそう返してくる。
確かに、あまり質問をされても答えられない事の方が多いだろう。
それを見越して、答える事が簡単な質問にしてくれたのかもしれない。
気を遣わせてしまった様だ。
俺は少しだけ反省し、
「お気遣いに感謝します。じゃあ質問に素直に答えるとしましょうか。婚約者はいませんよ、レナーテさんはいらっしゃるんですか?」
レナーテさんに感謝の言葉を言い、彼女の問いに素直に答えつつ同じ事を質問する。
俺の問いを聞いたレナーテさんは、
「私にも婚約者はいないのですが、それは今だけの事だと思います。父も母も私を政治や貴族間の道具として見ている訳ではありませんが、それでも私に苦労する事無く幸せになって欲しいと常々言ってきます。やはりそれは、両親が認めた相手との婚姻をする事が、一番の方法だと一般的に考えられます。となると、今は婚約者などはいませんが、両親が認める相手が遠くない未来に紹介されると私は考えています。クラス内でも、既に婚約者がいる者がいますよ、アーレスも将来を誓い合った方がいると言っていました」
そんな事情を説明してくれる。
平民とは違って、やはり貴族は色々と大変な事が多いのだろう。
初めて紹介される異性が、婚約者だと説明されたらどの様な気持ちになるのだろうか…。
あまり、嬉しくは感じないだろう。
戸惑いや、勝手に決められた将来に怒りなども覚えるのかもしれない。
そんな雑談をしながら少しだけ休憩をした後、俺とレナーテさんは再度情報収集の為に動き始めた。
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