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俺が歩み出すと、一緒に歩き出したリーゼロッテ先生が少しだけ早歩きになって俺とレナーテさんの前に出ると、自身の家の敷地内へと一緒に入る。
そして庭園を通り抜け、玄関の扉がある場所に近づくと立ち止まり、
「…お父様、お母様、ただいま戻りました」
言葉とは反対に、少しだけ他人行儀の様な動きで挨拶をしながら両親に戻った事を伝える。
そんなリーゼロッテ先生の様子に、
「そちらの2人は?」
厳しい表情をした男性の頬が少しだけぴくっと一瞬動き、その後に俺とレナーテさんの事を見て彼女にそう問う。
「こちらはヴァルダさんとレナーテさんです。ヴァルダさんは、魔法学院での一件で大変助けて貰い、信頼している御方です。彼女はレナーテ・ミュルディルさん、私の生徒でとても優秀な子なんですよ」
男性の問いに、リーゼロッテ先生がそう答えると、俺とレナーテは同時に頭を軽く下げて一礼をし、
「初めまして、私はヴァルダ・ビステルと言います。リーゼロッテさんにはいつもお世話になっております」
「私はレナーテ・ミュルディルと申します。クロス家の当主様に御会い出来た事を光栄に思います」
自己紹介をする。
その際に、レナーテさんの挨拶の方が貴族として、そして大人の様なしっかりとした挨拶をした事に俺は彼女も年齢が近い女の子では無い事を再認識させられる。
この世界では、レナーテさんの歳にはもう大人として見られているのだろうな。
貴族間でのパーティー的な催しなどにも出ているだろうし、そういう貴族同士の挨拶も慣れているのだろう。
そう考えると、戦闘以外で彼女に勝てる要素が無いな俺…。
先生と言われてはいるが、実際は彼女の方が大人としては凄いのだろう。
俺がレナーテさんの挨拶に感心していると、
「それでリーゼロッテ、屋敷を破壊してまで逃亡をしたにも関わらずこのお2人を連れて屋敷へ帰って来た理由は何だ?」
リーゼロッテ先生のお父様が、何故かレナーテさんと俺の事を流す様に見た後にそう質問をする。
その際に何故か俺の事を見てくる視線が鋭くなったのを俺は見逃さない。
あまり変に勘繰らないで欲しいのだが…。
大切な愛娘が家から脱走、そしてその数時間後には男を連れて帰宅。
普通の親ならば、勘繰るなという方が難しいか。
俺も塔の誰かがそうなったら、絶対に男を警戒して見てしまうだろう。
俺がそんな事を考えて1人で軽くショックを受けていると、
「お父様、お母様、2人が私の事を第一に考え、例え自分達が私から非難を受ける事になってでも貫き通そうと考えた事に、私は我儘な子供の様に暴れて逃げ出してしまいました。ごめんなさい、2人の気持ちを考えずに行動してしまいました」
リーゼロッテ先生が両親にまずは謝罪をする。
そんな彼女の謝罪にご両親が聞き入れて頷くと、
「その事について、私はとてもありがたく思いますし愛されていると実感する事が出来ました。しかしそれは、私が望んでいる事では無いのです」
続けて発言したリーゼロッテ先生の言葉に、頷きを止めてやや表情が険しくなっている。
「私の話を、考えを聞いて下さい」
そんな両親に向かって、リーゼロッテ先生は頭をゆっくりと下げてそうお願いをする。
彼女の真剣な表情と、覚悟を決めた様子を窺わせる声色にご両親も止める事など出来ないのだろう。
お2人は、リーゼロッテ先生の言葉にただ頷く。
そして俺達は屋敷の中へと案内され、客間だとしても広すぎると感じる部屋へと通された。
リーゼロッテ先生がご両親の対面に、その隣に俺とレナーテさんが座る。
客間には、俺達しかおらず使用人の方達には一度下がって貰った。
そうして場の準備が出来ると、
「私のクラスの子達、レナーテさんも含めて皆さんは亜人族も私達と同じ言葉を話し、意思疎通をする事が出来る対等な存在と認め、差別をするつもりは無いと決めているのです。そんな生徒達を、私は誇りに思っています。そんな生徒達に、担任の教師である私が今回の件で亜人族への態度を変える様な事をすれば、生徒達は私に失望するでしょう。そして私も、我が身可愛さにそんな事をするのならば、もう彼女達の担任の先生を名乗る事は出来ないと思います。私は、今の私自身を尊敬してくれている生徒達を裏切りたくないのです。お父様やお母様の気持ちは、私もしっかりと分かっているつもりです。我が子を何よりも大切にしてくれたお父様やお母様だからこそ、今回の件は帝都の命令に従わなかった場合に、私が大変な目に合う事を恐れて今回は帝都の命令に従う事にしたのを…。でもお父様、お母様、私はもうお父様やお母様に護られているだけの子供ではありません。今回の我儘で、お父様やお母様に迷惑をお掛けしてしまう事は私も分かり切っています。ですので、勘当されても文句は言えません。例え親子の縁を切られ様とも、私は今の考えを変えるつもりはありません。今の私は、レベルデン魔法学院Gクラス担任教師、リーゼロッテ・クロスなのです」
彼女はご両親が頷いた事を確認した後、しっかりと自らの考えと意思を伝えた。
リーゼロッテ先生の言葉を聞いたご両親は、そんな真っ直ぐに自分達を見つめて意思を伝えてくる彼女の事を見て、彼女が話しに一区切りをつけると互いの顔を見合わせる。
今はリーゼロッテ先生の意思表明の時間だ、俺が横から話をする訳にはいかない。
俺がそう思っていると、
「リーゼロッテの話は分かった。その気持ちと覚悟を、私達は無下にするつもりは無い。しかし、リーゼロッテの覚悟を聞いても私達にはもう、この事態を命令に従う以外の解決策を見つける事が出来ない。リーゼロッテ、それについては何か考えがあるのか?それを聞いてから、私も母さんもリーゼロッテに託すかどうかを考えさせてくれないか?」
リーゼロッテ先生のお父さんが、リーゼロッテ先生に対して任せるかどうかを判断する話をして欲しいと伝える。
その言葉を聞いたリーゼロッテ先生は、俺の事を見てくると、
「その事については、こちらのヴァルダさんも交えてもよろしいですか?彼が今回の件の重要な事に関わっている人物であり、私もレナーテさんも信頼している方です」
改めてそんな紹介をしてくれる。
俺は彼女の言葉に合わせて深く頭を下げると、
「今自分が知っている情報を、お話をしても構いませんか?そしてその対策や考え、今後の対応について意見も出来れば頂きたいと思っています」
まずはそう前置きを話し始めた。
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