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突然現れたやや大きなトカゲの姿をしたイーフルに、護衛の人が気づいて歩みを止める。
「シィーッ!」
イーフルがやや警戒の声を出すと、
「な、何だコイツ!」
護衛の人が少しビックリした様子で腰に下げられている剣の柄に手を伸ばす。
俺はその間に、顔を隠すための装備を本の中の世界の一覧から探す。
お、これは丁度良いな。
俺はそう思うと、そのアイテムを取り出して顔に付けると、首に提げている指輪を外して姿を現す。
そうすると、これまた突然現れた俺に驚いた護衛の人が、
「だ、誰だ!?」
遂に剣を抜いて片手で構える。
もう片方の手には、連れられている女の子の首に繋がっている鎖を握っている。
俺は正体がばれない様に、
「私はピエロですよ~。そしてこちらのトカゲ君が、お友達のイーフル君です。よろしくお願いしま~す!」
慣れない感じではあるが、少しハイテンションな感じで話す。
このピエロの仮面、顔を隠す以外にも声も変える事も出来る。
この装備、ピエロの衣装という名前で体の装備があるのだが、本当にお遊びの装備で防御力が全くない。
ただ派手な装備なだけなのだ。
まぁ、今は顔だけ隠しておけば良いよな。
俺がそう思っていると、
「…ぴ、ピエロ様のもう1人のお友達~、クラリスちゃんで~す!」
俺の肩に乗っているクラリスが、空気を読んで俺に合わせてくれる。
…本当に俺の家族は気配りが出来過ぎる。
俺が感動していると、
「そ、そのピエロがここに何の用だ!」
護衛の人がそう質問をしてくる。
俺はその問いに、
「そのあなたが粗雑に扱っている女の子を助けたいと思ったので、つい出てきてしまいましたね~。という訳で彼女を解放して下さるんでしたら、こちらも穏便に火傷程度で済ませてあげますよ~?」
内心とは反対に陽気な声と話し方で説明する。
この人はあの公爵に仕方なく従っているだけなら、まだ1回燃やすだけで許してやろう。
俺がそう思っていると、
「ふ、ふざけるな!これを連れて行かなかったら、私も私の妻も娘もどうなるか分からないんだ!」
男性が慌てた様子でそう言ってくる。
ふむ、どうやら家族を人質にされている様だ。
なら、
「イーフル君、フレイムであの人の剣を溶かしちゃってください」
俺がイーフルにそう指示を出すと、
「シャァーッ!」
イーフルは俺の言葉に一鳴きし、口から火力を押さえまくった炎が噴き出される。
イーフルの種族はサラマンダー、火の精霊だ。
火の中で生活し火と共に生きているイーフルにとって、あの片手剣だけを狙う事なんて造作もない事だ。
「うわぁぁっ!」
流石に男性は目の前まで迫ってきた炎には恐れてしまい、すでにイーフルの炎で刀身が溶かされた剣を前に投げ捨てる。
「さぁ、ここで火傷したくは無いでしょう?さっさと彼女を預けてくれると助かるんですがねぇ~」
俺が更にそう言うと、護衛の人は悩んでいる様に首を左右にぎこちなく動かして何やらブツブツと言っている。
これ以上の脅しは、あの男の後ろにいる女の子に被害が及んでしまうから駄目だ。
俺がそう思っていると、
「ヴァ…ピエロ様?あの人間をどうにかしても、あの豚みたいな人間をどうにかしないといけないんじゃないですか?」
肩に乗っているクラリスがそう聞いてくる。
俺はその言葉に、
「あぁ、それも考えている。ああいうのは殺すだけでは駄目だ。今まであの男の所為で辛くても楽しい未来があったはずの人がいると思うと、殺す事は救いでしかない。ああいうのは、今まで自分が行ってきた事を体験させる方が良いに決まっている。だがそれが出来ない者がいるはずだ、情報だと殺されている人も、あの子と同じ様に手足を奪われた者がいる。故に、その時は頼んだぞ」
護衛の男に聞こえない様に、肩に乗っているクラリスにそうお願いすると、
「任せてください!私のフェアリーダストで狂わせてあげます!」
クラリスが元気にそう言ってくれる。
そうしてクラリスと話していると、
「この愚図がぁ!いつまでこの私を待たせるつもりだぁ!」
後ろから情けない怒声が聞こえてきた。
振り返ると、先程礼服の男性に食って掛かっていた公爵が建物から出てきていた。
公爵は頬に付いた贅肉をプルプルと震わせて顔を赤くし、怒りを露わにしている。
どうやら待ち切れずに、外へ出てきてしまった様だ。
俺がそう思っていると、
「も、申し訳ございません!こ、この者がこれを引き渡せとおっしゃってまして!」
護衛の人が怯えた様子で言い訳を言い、俺の事を指差してくる。
すると、
「そんな者など首を刎ねておけぇ!」
公爵は興奮してそんな事を言う。
それにしても、ここまで我が儘なのはどうなのだろうか?
公爵としてしっかり出来ているのか変な心配をしてしまう。
まぁ、この公爵が一応理性とかを保っていられるのは今日で最後だろう。
これからクラリスのフェアリーダストで、精神が狂ってしまうだろうし。
俺がそう思って公爵を見ていると、
「お前達ぃ!この私の邪魔をしている愚か者を早く処分してしまえぇ!グズグズするなぁ!力しかない能無し共のお前達に幾ら払ってると思ってるんだぁ!」
公爵が建物の中にいる護衛達にそう命令をする。
すると、その言葉を聞いた護衛の人達がぞろぞろと建物から出てくる。
ふむ、こうやって見ていると護衛の人達と公爵の間には色々と溝というか、確執がありそうだな。
俺はそう思い、
「貴方達に選択肢を授けましょう。1つは、このイーフル君の炎で消し炭になる。もう1つは、この私の肩に乗っている可愛いフェアリー、クラリスちゃんのフェアリーダストで精神を狂わされて廃人になる。好きな方を選ばせてあげますよ~」
護衛の者達にそう脅す。
すると、
「ヴァ…ピエロ様が可愛い…えへへ~。私、頑張っちゃいますよ~ッ!」
俺の言葉を聞いたクラリスが嬉しそうな表情をして、えへへと頬を緩ませる。
そんな彼女とは反対に、護衛の者達は俺の発言に少なからず恐怖しているのか、仲間がどういう選択をするのか目配せをして確認している。
そんな彼らを見て、
「えぇい何をしているぅ!早くその男を殺せぇ!そしてそのフェアリーを私の元に引きずって持って来なさいぃ!」
公爵が護衛の者達に指示を出す。
さりげなくクラリスにも手を出そうとしやがったな。
よし、とりあえず手加減して滅茶苦茶殴ってやろう。
俺はそう思いながら、
「イーフル、バーニングサイクル」
イーフルにそう指示を出した。
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