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「ひぃぃッッ!せ、先生これはッッ!大丈夫なのでしょうかッ!?」
「シルに限って落とす様な事はしないと思いますけどぉぉッッ!!?」
今までカルラの背中に乗って、風の抵抗などを背を低くする事で防ぐ事が出来ていたのだが…。
シルの力で上空を浮遊しながら飛んでいる俺達は、風の抵抗を体全体で受けてしまって凄い事になっている。
レナーテさんの事を今見るのは、流石に申し訳無い。
俺はそう思いつつも辺りの確認をしようと目を開けようとしているのだが、瞳を開けた瞬間に風で一瞬で目が乾燥してしまって開け続ける事が出来ない…。
そんな俺達の様子に気がついていないシルは、
「フン♪フフン♪フフ~ン~♪」
鼻歌を歌いながら、彼女の姿だけを見ると優雅に空を飛んでいる様に見える。
しかし、俺から見えるシルの背景がとても速く動いている光景が、優雅に浮いて鼻歌を口ずさんでいる光景に合わなくて少し苦笑してしまう。
だがこう考えてみると、レナーテさんの案内が無いとシュタール公国へとは向かう事が出来ない。
「シ、シル…。もう少し、速度を落としてくれないか?これではレナーテさんがシュタール公国へと案内をしてくれる事が出来ないんだ」
俺がシルにそうお願いをすると、
「はぁ~い」
シルは俺のお願いを聞いてくれて、少しだけスピードを緩めてくれた。
そうしてようやく普通に会話が出来る様になったレナーテさんは、
「それで、シュタール公国はどの方向ですか?」
「………あの川に特徴的な岩場に丘…なるほど、位置は大体把握出来ました。シル様、南西の方向にお願いします!」
「………南西ってどっち~?」
「あ、あっちです」
シルと話をして方向を決めると、俺達は方向を少しだけ変えて再び進み始める。
カルラの気遣いとか、今まで思ってなかったが体に乗っている故の地に足が付いている様な安心感とかがあったんだな…。
今は完全に体1つで空を飛んでいる怖さがある。
シルを信頼していても、こればっかりは当分慣れそうには無いな。
俺はそう思いつつ、出発した時に比べて少しだけスピードが落ちた事で、少しだけ周りの景色を見る事が出来る様になり、シルとレナーテさんがシュタール公国への方角などの話をしている間、辺りの景色を見続ける。
結構な距離、空中を飛んでいるとその内遠くから街の様なモノが見えてくる。
…これまた面白い街だな。
俺は街を見ながらそう思う。
帝都と同じでそこそこ人の流れはある、しかしそのどれもが商人の様で、何台もの馬車を操っている御者の姿が見える。
そして街並みは小さな建物や大きな建物が様々な場所にあったのとは違い、大きさは全てある程度の高さで調整されている様に同じ高さで揃っている。
そして目に入るのが、オークの体格以上だと思われる鐘だ。
それが街の中央にあり、凄まじい音が鳴るのではないかと考えられる。
というか、あれを間近で聞いたら大変な事になるのではないだろうか?
俺がそんな心配をしていると、
「先生、シル様。あそこがシュタール公国。賢者様が住まう魔法の国です」
レナーテさんが俺とシルにそんな説明をする。
…魔法の国か、魔法を使えるのは貴族だけという話だったが…。
ここは貴族が多く住む国という事か?
俺がそう思っていると、
「先生、ここが魔法の国と呼ばれるのは賢者様がいるからなのです」
レナーテさんが俺が疑問に感じている事を察したのか、そんな説明をしてくれる。
つまり、賢者だけの知名度でそう呼ばれているという事か。
「賢者というのは、やはり魔法を多く使えたり並みの魔法使いでは辿り着けない領域の魔法を使えたりするのですか?」
俺がそう質問をすると、レナーテさんは少し不思議そうな表情を俺に向けると、
「先生は魔法を扱えるのに、賢者様の事を知らないんですか?」
そんな質問をしてくる。
こちらの世界の事は、まだ知らない事の方が多い。
しかし、魔法を使う上で賢者の事は知っている事が常識なのだろうか?
俺は少し不安に思いつつも、
「すみません、あまり自分はそういった事に疎いので…。それにしても、レナーテさんが賢者に対して様付けしているという事は、それだけ尊敬する人なのですか?」
彼女にそう質問をする。
俺のそんな質問を聞いた瞬間、
「魔法の研究、そしてそれを応用した生活をより良いモノにする可能性を見出す賢者様は、魔法を扱う者からしたら尊敬の眼差し以外に向けるモノなど無いという程、魔法を実戦以外にも活用する道を切り開く学者。シュタール公国は、その賢者様の生活基盤を魔法で補える部分を活用している類の見ない魔法国なのです。シュタール公国はその賢者様の助手や、賢者様に支援をしている人達がいる国なのです。商人が多いのは、より良い素材などを集めて魔法との相性が良いのか調べる為だと聞いた事があります」
一気にそう捲し立ててくるレナーテさん。
レナーテさんの説明を聞き、リーゼロッテ先生も魔法に関しては熱心な部分があったが、彼女がシュタール公国で過ごしていたから、あそこまで魔法に関しては凄く熱い人なのだろうと察する事が出来る。
そして、そんなシュタール公国や賢者の事に詳しいレナーテさんも、魔法に関しては勉強熱心で日々努力を怠らない人なのはよく知っている。
魔法を生活をより良いモノに応用か…。
…夢があるとは思う、実際には難しいかもしれないが生涯を費やして戦う事以外の魔法のあり方を模索する。
その結果成果が得られ、便利な物が自分達の生活に取り入れられるという事は。
俺みたいに、応用などが出来ない者からしたら大して興味を示さないとは思うが…。
俺がそう思っていると、
「ヴァルダ様~、どこに降りますか~?」
シルが俺にそう質問をしてくる。
俺はシルの問いを聞き、
「入国の検問所はやはり通っておきたい。近くの草原にでも降ろしてくれ」
何かあった時に、リーゼロッテ先生に迷惑を掛ける事が無い様に正式な手続きをして入国しようと考え、俺は目に入った木が目立つ草原の方を指差してシルにお願いをする。
俺の言葉に、シルはは~いと間延びした返事をして、空中散歩は終わりとなり俺達は地面に下り立つ事が出来た。
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