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教え子達の話し合いは少しして終わった様で、皆実家に戻る為の準備を始めていた。
その間に、
「リーゼロッテ先生と会う為には、彼女の居場所が分からないといけないんですが…。彼女は一体どこへ行ったんですかね?」
「私もそれは…。しかし、私が帝都に呼び戻される前には、先生は少しの間教室に来れない事を言って来ました。おそらく先生の方にも連絡があったか、もしくは他の理由で教室に行けなくなったか…」
俺とレナーテさんは、リーゼロッテ先生の所在について話し合っていた。
「リーゼロッテ先生の家は、流石にどこか分かりませんよね…」
彼女の居場所が分からないと、色々と説明やら事情を話したいのに出来ない…。
俺がそう思っていると、
「確か先生のご実家は…んん…??」
レナーテさんが何かを思い出す様に囁きながら、難しい表情をして辺りに視線を向け続ける。
そして、
「そうでしたっ!アーレスッ!」
何かを思い出したかの様に、レナーテさんはアーレス君の名前を勢いよく呼ぶと、
「ん?どうしたレナーテ?」
友達と話し合いをしていたアーレス君が、声を掛けてきたレナーテさんの事を見てそう質問をする。
「確か貴方、前にリーゼロッテ先生にご実家はどこか聞いていましたよね?」
「ん?あぁ、聞いた事はあったけど、結局はぐらかされたぞ。それは教師と生徒の距離感では無いとか言われたしな」
しかしアーレス君の質問に、リーゼロッテ先生は答えてくれなかったらしく、結局何も分からない事に変わりはない…。
でも、流石にリーゼロッテ先生も生徒に個人的な情報を教える事はしなかったか。
少しだけ安心したというか、あのリーゼロッテ先生でもそこまでドジでは無かったかと安心する。
すると、
「あれ?でも前に先生が、シュタール公国の思い出話をしてくれた時が…」
「あ~っ!先生が魔法の練習で、隣の屋敷の庭にファイアボールを誤射しちゃったって話?」
「そうそうっ!」
女生徒達のそんな会話に、
「「「…リーゼロッテ先生………」」」
俺とレナーテさん、アーレス君が同じ声色で彼女の名前を呟く。
おそらく、今俺達が感じた気持ちは絶対と言い切れる程同じだっただろう。
やはり、リーゼロッテ先生はリーゼロッテ先生だった。
しかし、
「シュタール公国、なるほど…」
レナーテさんは何故か納得する声を出す。
そんな彼女に俺とアーレス君が注目をしていると、
「シュタール公国、魔法使いが多くいる実力主義な傾向がある国です。リーゼロッテ先生の実力と、魔法研究に対する熱意はそういう事ですか…」
レナーテさんは、リーゼロッテ先生が魔法に対する熱意が他の先生と比べると全然違う事を理解した様だ。
シュタール公国、聞いた事も無い国だな。
つまり、それほど遠い国という事だろうか…。
マズいな、ただでさえ時間が無いのにこれ以上遠くの国にまで行くのは時間的にも労力的にも辛いのだが…。
しかし、それくらいしか今出来る事は無い。
…場所を調べる必要は無い、それくらいならこの子達だって知っているだろうし、一応地図だって持ってはいる。
よし、生徒達に指示を出して俺もすぐに行動をしないと…。
俺はそう思って声を発しようと口を開いた瞬間、
「ではアーレス、そちらの事は貴方に任せても良いですか?私は先生と一緒に、リーゼロッテ先生のいるシュタール公国に行ってみる事にします」
先にレナーテさんが皆に指示を出してしまう…。
というか、レナーテさんには亜人族の事とかお願いしようと思っていたのだが…。
俺がそう思っていると、
「…了解、俺は家も遠くない。おそらく家で話し合いをしたとしても、あまり時間は掛からないで帰って来る事が出来る。先生、旧校舎の亜人族に対してはどの様に接すれば良いですか?」
アーレス君が俺にそう質問をしてくる。
「知ってるかは分からないですが、あの人達は契約で話す事が出来ない様にされています。彼女達をまとめている、アーデさんという人だけが話す事を許可されています。彼女と話し、他の人達が何を求めているのか聞くのが良いでしょう。あまり、大きな声を出すのは良くないです、皆さんが怯えてしまいますから。それだけ心掛けていれば、大丈夫だと思います」
俺がアーレス君の問いに答えると、
「分かりました。それまでは亜人族の人達はどうしましょうか…」
再びアーレス君がそう聞いてくる。
その言葉を聞き、
「ひとまず私が、今までの話を要約して説明をしに行ってきます」
レナーテさんがそう言って歩き出し、教室から出ようとすると、
「という事で、皆それぞれ行動を開始しますよ。先生も、シュタール公国へ行く為の準備をお願いしても良いですか?」
クラスメイトに簡易的な指示を出し、俺にもそう言ってくる。
準備と言っても、俺は馬車や竜車を使うつもりは無いから準備という準備はあまり必要ないんだがな。
俺がそう思っていると、レナーテさんの指示を聞いた生徒達がそれぞれ動き始める。
とりあえず、レナーテさんが帰って来るまで俺は出来る範囲で準備?をするしかないな。
「レナーテさんっ!校門で待っていますよっ!」
俺は教室から飛び出すレナーテさんの後を追って教室から顔を出すと、廊下を走っているレナーテさんの背中に向かってそう声を掛けた。
俺の声はしっかりと聞こえた様で、走りながら片手を上に少しだけ伸ばして合図を送ってくると、どんどん廊下の奥へと向かって行った。
それから次々と教室を出て行く生徒達を見送り、教室に残っているのは俺を含めて数名になった。
残っている生徒達は、帰り支度をしている様子でまだ時間が掛かりそうだ。
「では、俺も行きます。よろしくお願いしますね」
俺がそう言うと、生徒の皆は身支度をしながら返事をする。
それを確認した俺は、教室を後にして校舎を出てレナーテさんに伝えた通りに校門まで移動をする。
勿論、アンジェの指輪は装備して。
でないと、他の生徒が俺の姿を見た事で俺がまたレナーテさんやリーゼロッテ先生などと関わっている事がバレ、面倒な状況に陥る可能性が十分にある。
ただでさえ、今は色々と問題を抱え込んで大変な状態だ。
出来るだけ、これ以上問題を抱え込みたくは無い。
俺はそう思いながら、校門に辿り着くと物陰に隠れてアンジェの指輪を外し、レナーテさんが来るのを待つ事にした。
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