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それからレナーテさんと俺は教壇へと立つと、少し離れた場所に生徒達が集まる。
数は半数、リーゼロッテ先生もいない。
俺とレナーテさんだけで大丈夫だろうか?
俺がそう思っていると、
「では先生、私から現状の説明はしておきました。これからの事については、先生からお願いしても良いですか?」
隣にいるレナーテさんがそう言ってくる。
レナーテさんの言葉に、
「分かりました。レナーテさんの家での事は話してくれたという事は、帝都の動きなどは皆知っているという事で良いんですよね?そして、それを踏まえて俺のこれからについての話を聞きたいという事で、良いんですよね?」
俺は確認の意味も込めて、そしてこれから彼らに話す事が帝都の思惑に反旗を翻す事についてだという事を伝える様に、俺は隣にいるレナーテさんも含めて生徒の皆の事を見る。
俺の言葉に、生徒の皆さんは緊張した表情が更に恐怖を感じている様だ。
しかし、
「お願いします。俺達は、まだ独り立ちしてる訳でも無いですが、それでも魔法という大きな力を扱うヒトとして、俺達は自分達で真実を知って行動したいと思っています」
アーレス君が俺に対して緊張をしてはいるが、覚悟を決めた瞳を向けて宣言をしてくる。
彼の言葉に、レナーテさんは頷き周りの皆も少しだけ決意をした様子を見せる。
それを確認した俺は、
「では話をさせて頂きます。まず、先程ここ魔法学院の校舎を綺麗に保てる様に、黙々と働かされている亜人族がいないことに気づいて彼女達を探しに行きました。その結果、彼女達は皆さんが良く知っている旧校舎に監禁されていたのです。おそらく監禁した理由は、帝都の命令に従った結果でしょう。貴族である皆さんなら、今まで亜人族に対してどの様な事が起きても、帝都、皇帝は口を出す事などもせず、むしろ亜人族を虐げる様に言っていました。それが何故、今になって彼らを保護する様な命令を下したのか…。それはこれから起きる、ジーグに住む亜人族との戦争に、駒として戦場へと送り出すつもりだと俺は想定しています。つまり、ジーグの亜人族は護ろうとして帝都に反乱を起こすのに、戦う相手の一部が護りたいと願った同胞だという、そういう状況を作ろうとしているのでしょう。俺はその状況を回避したい。故に帝都にいる、罪もない亜人族を救い出す必要があります。しかしそれは、帝都の命令に背く事になる。それについては、俺やレナーテさんが口を出す事は出来ないと思います。皆さんにも家族がいます。家族と話し、自分の考えを伝えても実権を握っているご両親の意見には逆らえない可能性だって十分にあります。まずは、皆さんはご実家からの手紙が無いのであれば、この事について話し合いをするべきだと思います。今生徒の半数がいないのは、実家からの呼び出しがあったからでは無いですか?」
レナーテさんが先に話をしてくれていたであろう事を、個人的に詳しく正確に、そしてそれに対するこれからの動きを想定した話をまずする。
そして、まずは自分達の家族にその情報を、そして自分達がどの様な考えをし、結論を出したのか、そして家族でどの様な決断をするのかを話し合いをするべきだと説明し、今この場にいない半数の生徒達は、その事で実家に呼び出されているのでは無いだろうかと質問をする。
俺の言葉に、数名の生徒が頷くのを確認すると、
「その子達は俺とレナーテさんがどの様な決断をしたのかを知らない。もし可能であるのなら、それを伝えて欲しいと思っています。それは可能ですか?」
生徒達にそう質問をする。
俺の問いを聞き、
「俺、何人か家の場所を知っています。すぐには無理でも、行けば会えると思います」
「私も、1人屋敷同士が近い人がいます。後は…知ってはいますが国が違って距離が…」
「なら、それについて今から話そう。皆で手分けをすれば、何とかなるかもしれない」
「俺は金銭にも余裕がある。竜車を使ってなるべく早く動けると思う」
生徒達がいない生徒達の実家の情報と、自分達の実家の位置と照らし合わせたりして誰がどこへ行き、誰と会うのか話し合いを始める。
生徒達のそんな様子を横目に、
「レナーテさんには少し相談したい事があります」
俺がそう切り出すと、
「何ですか?」
レナーテさんが返事をする。
「旧校舎に監禁されている亜人族は、魔法学院の学院長との奴隷契約で勝手に動く事が出来ない状態です。…正直な話をすると、奴隷契約を強制的に切る事の手段はあるんです。しかし、そうなると問題がいくつかあって、それを相談したいと思っているんです」
一度話を切って、俺は少しだけ声を潜ませながら、
「奴隷契約を強制的に切った際に、おそらく契約者には勝手に契約が切れた事くらいは分かるでしょう。その時に、クラスの皆さんがまだ全員に話が行き届いていない場合、疑われる可能性はあると思いますか?」
そう質問をする。
俺の問いを聞き、
「そうですね、確かに私達の方が他の生徒に比べて疑われ易い事は否定する事は出来ません。しかし、それでも私達は疑惑を掛けられても、犯人として捕まったりする事は無いと思います」
レナ―テさんは言葉を言い切る。
そのあまりの自信がある言葉に、
「その理由は何です?」
俺は再度質問をする。
そんな俺の問いにレナ―テさんは、
「私達よりも、先にリーゼロッテ先生が疑われると思います。リーゼロッテ先生は私達の担任の先生であり、先生個人も亜人族の方達に友好的に接している様子を他の先生や上の人達に、改善をしないとどうなるか分からないと警告されていた様子ですから。それに先生のお陰で、今や様々な魔法を研究し編み出そうとしているリーゼロッテ先生の事を、純粋な脅威と認識している人達もいると思います」
真っ直ぐに俺の事を見ながら説明をしてくれた。
なるほど、確かにそう言われると生徒達よりもリーゼロッテ先生の方が、学院からしたらどうにかしたい人物になるだろう。
となると、どんどん後手に回ってしまうな…。
さて、どうしたものか…。
俺も時間に余裕がある訳じゃない、しかし魔法学院や帝都の亜人族の保護もしないといけないし、情報収集だってしないといけない。
ジーグの方でも、そしてウンディーネさんやレヴィさん達の方でもやる事はある。
…何から解決していけばいいんだ…。
俺はそう思いながら、今は目の前の問題を解決する事に集中しようと考え、レナ―テさんと共にクラスの子達の話し合いの様子を窺う事にした。
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