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俺の言葉を聞いたアーデさんとラーラさん、そして周りの女性達は落ち込んだ表情を見せつつ、しかしすぐにそんな表情を無理矢理明るいものへと変化させる。

まるで、俺に不安な気持ちなどを察せられない様に、自分達の方が大変な状況だというのに俺を気遣ったその姿に、俺はこんな決断しか出来ない自分の準備不足や力不足に後悔を感じる。

しかし、今は反省しているだけではいけない時なのだ。


「とりあえず寒さなどは感じないとは思いますが、その恰好では外に出るのも、これから俺が連れてくる人にも見られるのも恥ずかしいと思うので、これを身に着けて待っていて下さい」


俺はアイテム袋からマントを取り出すと、それを近くにいた女性に纏めて差し出す。

女性は最初はおそるおそる手を出してきたが、俺が差し出された手の上に畳んであるマントをまとめて置くと、彼女は何度も頭を下げてくる。

その様子に、お礼を言っている様だと感じた俺は、


「そんなにお礼を言われる程の物でも無いですよ。ただのマントですから」


苦笑しながら彼女にそう伝えて、俺は立ち上がって頭を下げる。


「では、少しの間待っていて下さい」


俺はそう言い、旧校舎を後にしてアンジェの指輪を首へと掛ける。

流石に俺がレナーテさん達のいる教室に行くまでの間に何かされる事は無いだろう。

しかしそれでも、急がないといけない事に変わりは無い。

そう考え、俺は地面を蹴って駆け出し、一気にレナーテさん達の教室があると言われた校舎の中へと入る。

校舎の中は相変わらず綺麗で、先程までいた旧校舎がどれだけボロいのか分かってしまう。

俺はそう思いながら廊下を歩き、奥の部屋へと向かう。

目的の奥の部屋の扉の前に立つと、その扉が僅かに開かれており、


「だがレナーテ、それでは皇帝陛下………国自体の命令を背く事になるんだぞ…」

「分かってるわ、それでも私は亜人族を虐げる事をしたく無いの。私も強制している訳じゃない、私の意見と考えを聞いて、そして皆の家族と話をして決断して欲しいと、私は心の底から思っているわ」


中から微かにそんな声が聞こえてくる。

レナーテさんの言葉に、教室内が少しだけざわつくのが聞こえる。

数は半数くらいだろうか、教室内から聞こえてくる声の様子を聞きながらそう考えつつ俺は体を滑り込ませる様に、微かに開いていた教室の扉を少しだけ開いて中へと入る。

旧校舎の時とは違い、教室も随分と広い。

正直ここまで広くても意味はあるのだろうかと考えつつ、俺はアンジェの指輪を外して姿を現す。

しかし、生徒達は教壇で話をしているレナーテさんに集中している所為で、俺には気づいていない様子だ。

長い様な、短い様な微妙な月日。

数年ですら無いのに、俺が最初出会った時に比べて立派になった、自信がある様な生徒達の表情。

しかしそれは、普通に過ごしていたら見る事が出来たのだろう。

今の彼らの表情は、困惑と焦り、苦悩が支配している表情をしていた。

そんな生徒達を見て、レナーテさんがどれだけの覚悟を決めて俺と協力して亜人族を護る事を決めたのかを理解する。

それだけ、彼らの中で皇帝陛下、国の命令に背く事が自分達、そして家族に被害が及ぶのか考えると恐ろしいのだろう。

俺がそう思っていると、自分の意見を押し通そうとしている事に気がついたレナーテさんが、一度頭を振って冷静さを取り戻そうとする。

そんな彼女達の元に俺が歩みを進めると、


「誰だッ!…って、えっ…?」


1人の男子生徒、こちらの世界では珍しくは無い金髪、そして前に会った時よりも男らしく感じる、イケメン力が上がっているアーレス君が警戒心を剥き出しにした表情と視線を俺に向けて来たのだが、俺の姿を確認した瞬間にその表情は一変して、キョトンとした表情を見せている。

彼の反応と言葉に周りの皆も振り向いて俺の事を見てくるのだが、皆同じ様な驚いている様な顔をしている。

そんな彼らに俺は、


「お久しぶりです、元気にしていましたか?」


とりあえず普通に挨拶をしてみる。

俺が声を発した瞬間、


「せんせぇ~ッ!?」

「嘘…」

「私、まだ寝てたっけ?」

「抓ってあげようか?」


周りの生徒達が、戸惑った声を出して様々な反応を見せてくれる。

特に、友達に両頬を引っ張られて面白い顔を俺に向けてくる生徒や、混乱して目が左右に泳ぎまくっている様子の生徒とか、良い反応をしてくれる。

俺はそんな彼らに苦笑いを向けると、


「先生、亜人族の皆さんの居場所は分かりましたか?」


レナーテさんが俺にそう聞いてくる。

彼女の問いに、


「…旧校舎にいましたよ。薄着だった事以外は問題は無さそうでしたので、寒さ避けと肌を隠す為にマントは渡しましたけどね」


俺は素直にそう答える。

すると、


「…なるほど、そういう事ですか…」


レナーテさんは静かにそう呟いた。

どうやら、学院の無意識なのかは分からないが、された側からしたら嫌がらせに感じる事を理解した様だ。

亜人族を監禁するのに使われていた場所が、亜人族の尊厳を尊重したいと考えて、実力に反して最底辺のクラスに落とされてしまった場所。

しかし自分と考えが同じ仲間との楽しい時間を過ごし、辛い事も楽しい事も経験し更なる高みを目指した場所。

そんな大切な場所を、護りたいと思っている亜人族の監禁場所に選ばれたという事実に、レナーテさんは怒っている様子だ。

しかし、彼女は瞳を瞑って大きく深呼吸をすると、


「それで先生、今はどの様な状況なんでしょうか?」


心に燻っていた怒りの感情を押し殺し、俺にそう質問をしてくる。

…偉いな、自分の感情を押し殺して。

俺だったら、即座に反抗的な行動に移行していただろう。

レナーテさんのそんな様子を見ながら感心しつつ、


「少し問題がありまして…。亜人族の奴隷契約を解除するのに、学院長を脅迫しないといけなくて…」


俺がそう説明をすると、レナーテさんが少しだけ表情を引き攣らせて、


「サラッと怖い事を…」


俺にそう言ってくる。

周りの生徒達も、彼女と同じ様に頬を引き攣らせた表情を俺に向けてくる。

…頬を引っ張られている子が、引っ張っている子の手動で頬を引き攣らせている様子に俺は心を少しだけ落ち着かせる事が出来た。


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