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カルラの背に乗って空へ飛び立った後、レナーテさんの案内でレベルデン王国へと向かったのだが…。
その道中、いつもの様に最高スピードで飛ぶのかと思っていたカルラだったのだが、俺の予想とは反対にゆっくりとしたスピードで空を飛んでいる。
ゆっくりと言っても馬車などに比べると明らかに速いのだが、それでも俺が座っている態勢を維持した状態でいられる事が、何よりもカルラがいつもよりも遥かにスピードを出していないのが分かる。
おそらく、レナーテさんがいるから彼女を振り落とさない様にと考えての彼女の気遣い故の速さに、俺は文句などは言うつもりも無く、むしろレナーテさんの事を考えてくれた事への感謝に俺はカルラの背中の羽毛を撫でまくる。
しかし、
「………ピャァ~」
カルラは僅かな返事をするだけで、あまり嬉しそうという訳でも無かった。
…少し自意識過剰だったか、カルラは俺に撫でられると嬉しいものかと思っていたが…。
俺は苦笑しながら、カルラの体を撫でるのを止めて空の景色を見る事にした。
そうして前に来ていた時に比べたらゆっくりではあるが、それでもすぐにレベルデン王国に辿り着いた俺達は、まずはカルラに少し物陰に降りてくれる様にお願いして、近くの草原の丘に降り立ち、カルラにお礼を言ってから塔へと戻って貰った。
カルラを塔に戻した後、俺とレナーテさんと共にレベルデン王国へと入国する。
レベルデン王国の様子も少しだけ前とは違うな、どこか慌ただしく動いている様子が見える兵士などを見ると、彼らは帝都に召集されているのだろうと考える。
そんな様子に、住民達も不安そうな様子を見せている。
「先生、行きましょう」
「…え、えぇ」
先を歩くレナーテさんから声を掛けられ、周囲を見ていた俺は返事をして彼女の後を追いかける。
それにしても、結構久しぶりに来たなここへも。
レナーテさんの後ろから、前方に見えるレベルデン魔法学院の校舎を見ながらそう思っていると、
「ん?」
ふと違和感を感じて立ち止まる。
俺の小さな囁きに気がついたのか、レナーテさんは立ち止まって振り返ると、
「どうかしましたか先生?」
彼女は周囲の違和感に気がついていないのか、キョトンとした表情を向けて質問をしてくる。
そんな彼女に俺は、
「レナーテさん、少し物陰に隠れましょう」
そう言って少し早歩きになると、彼女は突然歩くスピードを速めた俺に驚き、
「ど、どうしたんです突然ッ!?」
レナーテさんは慌てた様子で俺にそう質問をしながらもすぐに付いて来てくれる。
魔法学院の敷地内に入りつつ、俺は校舎の影に隠れる様に移動をする。
そんな俺に付いて校舎の影に隠れたレナーテさんが、
「先生、何かあったんですか?」
俺にそう質問をしてくる。
そんな彼女に、
「見てくださいレナーテさん、生徒達が町の兵士達みたいに荷造りをしているんです。もしかしたら、魔法使いとして戦争に参戦するのかもしれません」
俺はそう説明をしながら、校舎の影から顔を出して辺りの様子に目を向ける。
魔法学院で臨時の教師をしている時にも見ていたが、やはり今着ているものはただの制服という訳では無いな。
私服の生徒も多いし、皆が荷造りした荷物を脇に置いてあって、杖などの装備の確認をしている。
「…レナーテさん、校舎の中はそこの窓から見る事は出来ますか?」
俺は生徒達の様子を窺いながらそう言うと、
「す、少し高いですが…。…アースウォール」
レナーテさんが後ろで土魔法を使用して、どうやら少しだけ高い位置にある窓から校舎の中を覗き込んでいる様だ。
「…校舎の中に、亜人族の人達はいますか?」
俺が不安に感じた質問をすると、レナーテさんが何も答えずにいる。
少しして、
「…いません。先生、皆さんがいませんっ!」
レナーテさんの焦った声が聞こえる。
その言葉を聞き、
「…おそらく、学院側で亜人族に密偵がいない様に監禁、もしくは更に酷い行いをされた可能性もありえます。…急ぎたいですけど、レナーテさんはともかく俺は既に部外者。こうなってしまった以上、あまり目立った行動は避けたい、先に行って下さい。教室はどこですか?」
俺は窓から校舎の中を覗き込んでいるレナーテさんの事を見て、一旦彼女と分かれる事を提案する。
提案を聞いたレナーテさんは頷いて、
「分かりました、教室はこの校舎の奥です」
俺の問いにそう答えてくれる。
それを聞き、
「レナーテさんはまず、自分達のクラスに行き皆と帝都の事情などを説明、説明が必要無い場合や終わった時は、ひとまず待機して下さい。俺は亜人族の皆さんを少し探してみますので、俺が教室に戻る前警戒しつつ教室にいて下さい」
「分かりました。皆さんの事、お願いします先生」
俺が簡単に指示を出すと、レナーテさんが俺にそう返事をして校舎の影から何事もなかった様に普通に歩き出した。
俺はレナーテさんが校舎の裏から出て校舎の中へと入って行く姿を確認してから、俺はアンジェの指輪を首に掛けてから校舎の影から出発する。
緊張で表情が固い生徒や、どれだけの戦果を上げられるのかと友達に話している生徒。
戦争に対する様々な感情を見せる生徒達ではあったが、その誰もが亜人族を殺す事を躊躇っている様には見えない。
同じ言葉を話し、意思を疎通出来る存在を、何の躊躇も無しに甚振り殺す事が出来る。
何も悪い事などしていない、仇という訳でも無い。
ただ人種が違うというだけで、彼らは殺す事に何も感じる事が無い。
歪だ。
俺はそう思いながら、校舎の中には亜人族の人達を監禁などしていないだろうと考え、まずは外から探し始める。
魔法学院の敷地内には、様々な施設もある様で建物はある。
まぁ、俺は関係者では無かったからあまり詳しくは無かったし利用する事は無かったが、それでも存在だけは知っている。
それを考えて、俺は何か所か目星を付けていた。
まずは、訓練場から少し離れた物置。
大きさはあまり無いが、同じ物がいくつか並んでいるのだ。
俺は訓練場へと向かい、その近くにある1つの物置を周囲に注意しながら開けて中を見る。
しかしそこには誰もおらず、ただ授業に使うであろう材木などがあるだけだ。
俺はその物置を閉めて、続けて隣にある物置を開けて中を確認していく。
そうして全ての物置を確認し、誰もいない事を確認してから次の目星を付けた場所へと向かう。
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