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俺の言葉を聞いたレナーテさんが、静かに俺に次の言葉を促してくれる。
彼女のそんな様子に甘え、
「少し状況を整理しましょう。おそらくですが、帝都から命令された亜人族に関する事柄が少し面倒な状況になっています。幸い、俺が考えている通りですととても有利に動ける情報を2つ握っている状態です」
まずは、レナーテさん達が知らない情報も知っている事を説明する為に、一度話を整理して情報の提供、共有を目的に話を進める。
レナーテさんだけに限らず、レナリアさんやお父さん、周りのメイドさん達にもしっかりと聞く様に注意をしてから、
「まずは帝都からの命令、おそらく貴族達に出している忠告兼命令と一般の住民に出している命令は全く矛盾しているものです。貴族達には、ジーグとの戦争を機に亜人族の徹底した絶滅、もしくは完全な服従をさせようと考えていると、レナーテさんのお父さんは言いました。しかし反対に、平民である一般人にはそれとは反対の亜人族を傷つけない様にする命令が出されています」
俺はまずは自分が知っている情報を共有して貰おうと、帝都に来て知った事を説明する。
「どうしてそんな事を…」
俺の言葉を聞き、レナーテさんが不思議そうな表情をしながら疑問を口にする。
彼女のその問いに、
「おそらく、皇帝陛下の望まれる人族至上主義の世界を創る為。少しでも亜人族に肩入れをしている者達の徹底排除だろう…。貴族は特に、帝都の政などにも関係している者が多くいるからな」
レナーテさんのお父さんがそう説明をしてくれる。
彼の言葉を聞き、
「それはまぁ、一応理解は出来ました。何故その様な事をするのかという意味でですが…。しかし反対に、何故一般の人々には貴族達に反対の命令を…」
レナーテさんが混乱した様子で疑問を更に口にする。
その言葉に俺は、
「一般人の方が、亜人族に対する差別的な態勢が整っているんだと思います。故に、皇帝が考えている事に都合が良い。………おそらく皇帝は、戦争で奴隷となっている者達、主に亜人族の奴隷達とジーグの亜人族の同士討ちを計画しているんじゃないでしょうか」
あの性格が悪い閃光が考えそうな事を、憶測ではあるが説明を口にする。
俺のその言葉に、レナーテさん達は表情を歪ませて、周りにいたメイドさん達からは短い悲鳴が微かに聞こえる。
俺も閃光と同じで性格が悪いから、こんな憶測がすぐに脳裏に過ぎったのだろう。
自分でそう思いながら心の中で苦笑し、
「貴族、これから帝都の政治などを任せるのに、自分の思想とは反対の事を胸に宿している者達を徹底してあぶり出して始末し、虐げている亜人族同士で殺し合わせて、人族の…自分の思想と同じ考えをしている者達を失わない様にする為の、最高の人族至上主義の国を、世界を創る土台作り。これが帝都の作戦でしょう」
俺は今あるだけの情報で思いつく、憶測ではあるが俺の中では確実だと言っても過言では無い向こうの考えを説明する。
俺のその言葉に、レナーテさんも含めて客間にいる全ての人達の表情が恐怖に染まる。
そんな周りの反応に、
「貴族と一般人の接触など、基本的には無いと考えての命令だったのでしょうけど、運が良い事に俺とレナーテさんの接点があったから、帝都の作戦を知る事が出来ました。この情報戦に置いて、俺達は有利な方だと思っています。しかし向こうも、亜人族を護る活動をしている貴族達に目星を付けて、監視などをしている可能性もあります。あまり表立った行動は出来ないと考えると、少し危険な事もしないといけない事を肝に銘じて置いて下さい。特に、レナーテさんが今回の要と俺は考えています」
俺はそう説明をしながら、最後にレナーテさんの事を見る。
そんな突然に名前を出されるとは思っていなかったのだろう、レナーテさんは俺から呼ばれると首を傾げて、
「私…ですか?」
確認をする様に俺にそう聞いてくる。
彼女の問いに俺が頷こうとすると、
「待ってくれ、レナーテが危険な事をするのに納得は出来んッ!」
レナーテさんのお父さんがテーブルに乗り出す勢いで前屈みになってそう言ってくる。
そんな彼を落ち着かせようとレナリアさんが優しく声を掛け、レナーテさんのお父さんは少しだけ身を引く。
と言っても、結構まだ身を乗り出している状態なのだが…。
俺がそう思っていると、
「あの、ヴァルダさん?流石に私も、娘が危険な状況になる事を見過ごす事は出来ないのですが…」
レナリアさんが、少しだけ申し訳無さそうにそう言ってくる。
しかし、
「お父様、お母様も待って下さい。元はと言えば先生をこの状況に誘ったと言いますか、強引に呼び込んだのは私です。そんな先生が、私にやる事があるというのなら、それは私がやるべき事なんだと思います」
そんな両親を説得するレナーテさん。
彼女の言葉を聞いても、あまり納得出来ていないレナリアさんとお父さん。
俺は未だに納得出来ないのは、俺がレナーテさんに何をさせるのかを説明していないからだと思い、
「落ち着いて下さい。とりあえず、まずは俺の説明を聞いて下さい。まずはお父さんには、表立って行動は出来ないと思います。理由は説明しなくても分かると思いますけど…。そしてレナリアさんも同じ理由であまり行動をする事が出来ないと思います。そこで重要になってくるのが、レナーテさんです。確かに亜人族を尊重する考えを持つ皆さんではありますが、レナーテさんは他者から見たらまだ家督を継いでいる訳でも無い、親の指示にまだ従っていないといけない立場ではあります。それ故に、監視対象としての優先順位は大人に比べて低いはずです。それを利用して、レナーテさんに動いて貰わないといけない事が多くあります。主にやって貰いたい事は、レナーテさん達以外にも貴族の方達の中に亜人族に対して友好的な意思を持っている人がいるという事を聞いた事があります。その人達との接触、そしてレナーテさんが行っていた魔法学院のクラスメイト、彼らも亜人族に対して友好的だから、最下位のクラスにされていたんですよね?今この瞬間、彼らの身に何が起きるのか分からない状況、その対処をレナーテさんにしてもらいたいと思っています」
レナーテさんとご両親の反応を見ながら、俺はそう説明をした。
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