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レナーテさんの屋敷の獣人のメイドさんに案内され、俺は屋敷の奥の客間へと案内された。
「こちらにお掛け下さい」
「ありがとうございます」
俺に座る様にソファへと案内され、俺がそこに腰を下ろすと同時に客間の扉が開かれて、ティーセットを運んでくるメイドさんが準備を始める。
目の前の、座っている俺の膝よりも低いテーブルの上にティーカップが置かれ、そこには紅茶の様な液体が注がれている。
「頂きます」
「あっ、は、はい…。こちらの蜜をお入れになると、より美味しくなるので良かったら」
俺がお茶を淹れてくれたメイドさんにそう言うと、メイドさんは少し驚いた様子で俺の言葉に返事をし、蜂蜜の様なとろりとした液体が入っている瓶を差し出してくる。
「ありがとうございます」
俺はお礼を言って瓶を開け、そこから差し出されたティースプーンを使ってお茶に蜜を入れてから混ぜ、それを口に含み味わう。
紅茶の様な色合いをしているお茶であったが、結構爽やかな香りと味に少し驚きつつ、その爽やかさの中に感じる甘みが美味く感じる事が出来る。
すると、
「遅くなりました先生」
レナーテさんが部屋の扉を開いて中へと入ってくる。
服装が出会った時と違い、少しだけ外向きの豪華さを感じさせる服装に、魔法学院での服装は動きやすい様な服を着ていたんだな、彼女も貴族としてそういうキラキラとした服を着るのだなと思いつつ、
「構いませんよ」
部屋の中に入ってくるレナーテさんにそう伝える。
するとレナーテさんに続いて、
「失礼しますね」
「………」
レナリアさんと、レナーテさんのお父さんが部屋の中へと入ってくる。
ご両親は服装を変える必要が無かった様で、先程挨拶をした時と特に変わった様子は無い。
相変わらず、お父さんが俺の事を見てくる視線が敵意を感じさせる…。
お父さんが危惧している事など、何も無いのだが…。
俺がそう思っていると隣にレナーテさんが座り、俺とレナーテさんの対面にご両親が座る。
一瞬、何故レナーテさんが俺の隣に座るのかと思ったのだが、彼女もまだ詳しい事は両親から聞いていない様子だった事を考えると、今からされる話を聞く立場は俺と一緒なのを考えると、話をする側とされる側に分かれるのは当たり前だろう。
だから、意味深に考える必要は無いんですよお父様?
俺はレナーテさんが隣に座った瞬間に、俺の事を見てくる視線が更に酷くなったのを確認した…。
俺がそんな事を考えていると、
「…ほら貴方、レナーテにも、レナーテが信頼をしている先生にもお話を聞かせてあげないと」
レナリアさんがお父さんの肩を叩いてそう話をする様に促す。
そのお言葉に、
「…っ…。あぁ、そうだな」
お父さんは俺に向けていた険しい表情を、真面目な険しさに僅かな変化をさせて、
「レナーテ、今この国…いや、世界は岐路に立たされた」
そう話を切り出した。
世界の岐路、やはり…。
「お父様、それは一体どういう…」
俺がお父さんの発言である程度話の内容を察すると、あまり詳しい事情を知らないレナーテさんが困惑の声を出す。
「亜人族の国、ジーグで密偵をしていた剣聖が先日帰還した。剣聖の報告では、ジーグの亜人族が帝都、この世界、人族に反乱を起こす事を考え行動していると報告したのだ。その報告を聞いた皇帝陛下はこれが機会だと言い、ジーグとの戦争を開始する意向を示された。それと同時に、世界にいる亜人族の絶滅、もしくは服従を示した者達への完全な従属を決められた。そして………。亜人族に対して友好的な者達への制裁もお考えの様だ。今までは目を瞑っていた様子だったが、この機会に亜人族に関する全ての制裁を始めるおつもりだ」
レナーテさんの言葉を聞き、辺りの空気が重くなるのを感じる。
当たり前だ、戦争に関する事は位が低くても貴族であるレナーテさん達にも被害があるし、それに加えて彼女達は制裁対象である亜人族に対する友好的な体制でいる人達なのだ。
この屋敷にいるメイドさん達を見るだけで、それは分かってしまう。
故に、彼らは選ばなくてはいけない。
帝都の命令に従い亜人族を虐げる側になるのか、それとも亜人族の命令に背いて制裁される側になるのか。
この事に関しては、俺は口出しするつもりは無い。
家族で決める事であり、俺にはそんな家族間の話し合いに口出しをする権利なんて無いのだから。
しかし、もしレナーテさん達が亜人族を虐げる立場になるのだとしたら、俺がここにいる必要は無くなる。
亜人族の、俺の敵になるという事なのだから。
俺はレナーテさんのお父さんの言葉を聞き、旦那の様子を心配している様子のレナリアさん、そして唇をきつく閉めているレナーテさんの順番で様子を窺う。
すると、
「…お父様とお母様は、どの様にお考えなのですか?」
レナーテさんがキツく閉じていた唇を開き、目の前に座る2人にそう質問をした。
その言葉にレナリアさんは、
「私は、お父さんの意見に従うつもりよ。この人の意見に、私は反対をするつもりは無いわ。お父さんは、私達の事を考えて結論を出すのだから」
レナーテさんにそう言う。
彼女の表情は、少しだけ諦めている様な表情が浮かんでいる。
それが、どの様な意味での表情なのかは俺には分からない。
しかし、
「………すまない」
お父さんの微かな謝罪の言葉で、俺は察してしまう。
そして、レナーテさんのお父さんはテーブルの端に置いてある鐘を鳴らすと客間の扉がすぐに開かれ、
「ご用でしょうか、旦那様」
1人のメイドさんが部屋の中には入らずに、扉の前でそう声を出す。
その言葉にレナーテさんのお父さんは、
「………皆を呼んでくれ」
そう指示を出し、その言葉を聞いたメイドさんが重苦しい空気を感じ取ってすぐさま命令に従って動き出した。
メイドさんがいなくなった後、部屋の重苦しい空気は更に悪化し、扉が開かれているのにも関わらず換気をして欲しいと思ってしまう程、息苦しさを感じさせる程誰もが沈黙している。
…レナーテさんのお父さんがどうするのか、俺はそれを確認させてもらうとしよう。
俺がそう思っている内に、先程屋敷にいる人達を呼びに行ったメイドさんが帰ってきた。
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