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翌朝、辺りの話し声が聞こえてきて目を覚ました俺は、集会場の硬い床で寝ていた所為で固まった体を伸ばして凝りを解し、よく竜人族の人達は大丈夫だなと思っていると、彼らが遺跡で岩のベッドで寝ていた事を思い出して、慣れているのかと考える。
反対に、柔らかいベッドを提供したらどうなるのだろうかと考えつつ俺は立ち上がると、既に集会場の前の広場に亜人族の人達が集まっている光景が目に入り、少し寝坊をしてしまった事に気がついて慌てて集会場の外に出る。
俺が外に出ると、集会場の前の広場に集まっていた亜人族の人達が俺に注目するのが見え、
「すまない皆。俺が寝坊をしてしまって鍛練に遅れが出てしまったな」
まずは寝坊をしてしまった事で、彼らを待たせてしまった事に謝罪をする。
すると、
「いえいえ、ヴァルダさんは集会場の見張りを夜明けまでしていたって聞きました。今皆で、エルヴァンさんに教えて貰った事の反復をしようと話し合っていた所でした。むしろヴァルダさんは、まだ寝ていなくて平気なんですかい?」
亜人族の男性が俺の事を心配した様子でそう質問をしてきた。
俺はその言葉を聞き、
「ありがとう。ゆっくりとはいかないが寝る事は出来た。とりあえず、エルヴァンとバルドゥを呼ぶとするか」
俺は感謝の言葉を伝えた後に本の中の世界を開いて、エルヴァンとバルドゥを召喚する。
「おはようございます、ヴァルダ様。シェーファから伝言を預かっております」
「おはようございます、ヴァルダ様」
俺に挨拶をしてくるエルヴァンとバルドゥ、挨拶の後に伝言があると言ってきたエルヴァンに俺は続きの言葉を促すと、
「…最近、お帰りが無いとの事で心配だと申しておりました。…それはもう、不機嫌な悲しみが混ざった様な複雑な表情で…」
エルヴァンがシェーファから預かった事を教えてくれる。
そう言えば、最近は集会場で泊まり込んでいたから塔に帰っていなかったもんな。
俺はそう思い、今日でも明日にでも一度塔に戻って、ついでにゆっくりとベッドで休みたいなと考える。
すると、
「ですので、私が夜の番をしますのでヴァルダ様は夜にでも塔に戻られた方が良いと思います」
エルヴァンが俺に気を遣った事を進言してくれる。
すると今度は、
「それでしたら、私も見張りをします。どうかヴァルダ様もごゆっくりとお休みをして下さい」
バルドゥがエルヴァンの言葉を聞いてそう進言をしてくる。
2人の言葉を聞き、俺は甘えるとするかと考えると、
「ありがとうエルヴァン、バルドゥ。では2人の言葉に甘えて、今日は帝都に向かう予定なのだがジーグでの留守を任せても構わないか?」
俺は2人にそう質問をする。
俺のその問いに、
「はい、お任せ下さい」
「どうぞ、ごゆっくりと…」
エルヴァンとバルドゥがそう返事をしてくれる。
ならば、今日は頑張って動いて夜は塔のベッドで気持ち良く眠れる様にしようと決意をする。
そうして俺は、エルヴァンとバルドゥにジーグの事を任せると、集会場を後にしてセンジンさんの屋敷へと向かう。
珍しい事に、亜人族の人達が既に集まっているのにセンジンさんがいないという事態に、俺と同じ様に寝坊をしたか、それとも体調を崩してしまったかと不安になる。
センジンさんの屋敷へやって来ると、
「おはようございます。すみません、センジン様はまだ就寝中なのですが…」
ユキさんが俺にそう教えてくれる。
「体調が悪いんでしょうか?ならこの回復薬を…」
「いえ、ただ帰って来たのが朝方で…。まだ寝たばかりなんです」
俺が心配でアイテム袋から回復薬を取り出そうとすると、ユキさんがそう説明をしてくれる。
それを聞き、とりあえず彼に問題が無かった事に安堵し、
「そうですか、では言伝をお願い出来ますか?俺は今日と明日は確実に帝都にいると思うのですが、その間エルヴァンとバルドゥはここへ残していくので、鍛練の方に問題は無いとお伝え下さい」
センジンさんに伝えたい事をユキさんに言うと、彼女は分かりましたと返事をしてくれる。
彼女のその言葉を聞き、
「ハイシェーラさんの具合の方も、結構動ける様になったら一度集会場の竜人族の皆さんに顔を見せてあげて下さいとお伝えして下さい。皆さん、ハイシェーラさんの事凄く心配していましたから」
続けてユキさんにそうお願いをすると、彼女はもう一度分かりましたと返事をしてくれる。
ユキさんに伝言をお願いした後、俺はセンジンさんの屋敷を後にして森の方へと歩みを進める。
森へやって来ると、俺はカルラを召喚して彼女の背中に飛び乗り、
「いつも通り、帝都までよろしくなカルラ」
「ピャァァッッ!」
帝都へと出発した。
空高く舞い上がり、凄まじいスピードで海上を颯爽と飛び続けるカルラ。
そんなカルラの背中で、顔を上げ過ぎないで身を低くしながら、どさくさに紛れてカルラの背中に顔を埋めて深呼吸をして過ごす。
少しすると、カルラの怒った声の鳴き声で俺は謝りながら顔を上げて、それからはカルラの背中を撫で続けた。
そうして大陸の上空を飛び続け、見覚えがある景色になって来た所でカルラに近くで降ろして貰える様にお願いをし、カルラは俺に指示に従って草原に降り立ってくれる。
草原に降り立ち、俺はカルラにお礼を言って塔に戻って貰うと、少しだけ深呼吸をする。
土と草の匂い、ジーグにいた時も土と草などの匂いはしていたのだが、海風が混ざった匂いではあった。
しかし今は海の匂いはせず、純粋な草原の香りがしている。
…ここまでだったら、のんびりと落ち着けるんだがなぁ…。
俺はそう思いながら、これから向かう帝都の喧騒と人や様々な飲食店の入り混じった匂いを思い出して、少しだけ気分が下がりつつも確認しなければいけない事がある故に歩み始める。
歩み始めて数十分後、帝都の護りである壁が見えてくる。
それと同時に、商人の出入りが激しいのか検問所に長蛇の列が出来ている光景が目に入り、俺は帝都で何かしらの動きがあったのではないかと考えながら検問所の列へと向かった。
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