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幸いな事に、魔王の娘を押し倒した時に音は出てしまったが、周りから警戒される声は聞こえない。
もしかしたら、オークション会場の方が賑わっていてこちらの音が聞こえないかもしれない。
俺がそう思って一安心していると、
ギュウッ!!
俺の腕を握りしめて潰そうとしてくる魔王の娘。
結構力が強いな、少し痛みを感じる。
俺はそう思いながら、
「無駄な抵抗をするな。お前の今の力では俺に敵わない。今は大人しくした方が、お前には良い事だと思うぞ」
そう言うと、彼女は少し動きを止めた後に更に足をバタバタと動かして暴れ始めてしまう…。
い、言い方が悪かったのだろうか?
俺は少し反省をして、
「俺の言葉を信じる事は出来ないだろうが、お前を助けに来た。今俺の言葉を信じないで外に出ても、また捕まる可能性が高い。それなら、俺の事を信用しなくても良いから、俺の力を利用すると考えろ。魔王の娘なんだ、他者を従えるのもした事があるだろ?」
そう言ってみる。
今はこの人と争っている場合じゃない。
早くここから逃げ出さないといけないのだ。
今こうしている間にも、見回りの人達がここに来てしまうかもしれない。
俺がそう思って少し焦っていると、魔王の娘は少し考える様な表情を見せる。
バタバタと動かしていた足も、今は落ち着いたのか動かしていない。
頼むから、話を聞いてくれ。
俺がそう願っていると、魔王の娘はゆっくりと頷いた。
それを確認して俺はゆっくりと彼女の口から手を離して体の上から退く。
すると、
「…」
魔王の娘はゆっくりと起き上がって、手首を少し摩ったりしている。
長い間拘束されていた所為で、痛みなどがあるのだろう。
俺はその様子を見て、
「クラスチェンジ・召喚士」
クラスと装備を変更する。
すると、突然の俺の変化に警戒した様子の魔王の娘と一緒の檻に入っていた人達。
俺はそれを無視して本の中の世界を開いて、特に防御力も無い装備を人数分取り出して、
「これを着てもらおうか。その姿では、恥ずかしくて動きにくいだろう」
そう言うと、一緒の檻に入っていた女の子達が嬉しそうな顔をして俺の元にやって来る。
俺は装備を女の子達に渡すのと同時に、男性の分も渡して、
「あの人にも渡しておいてくれ」
そうお願いする。
すると、
「は、はい!」
「…コクコク」
1人は返事をして、1人は何度も頷いて装備を持って男性の元に行ってくれる。
俺がそれを見ていると、
「それを着せたら、私はあんたの奴隷になるって事?」
魔王の娘が、初めて声を出す。
少し棘がある言葉だが、声はとても綺麗だ。
聞き心地が良く今は状況が状況なだけに鋭い声色だが、落ち着いた声を出したら心地よくなりそうだ。
俺が1人でそんな妄想をしていると、
「…沈黙は肯定と捉えてもいいのね?」
魔王の娘がそんな事を言ってしまう!
俺はその言葉を聞いて慌てて、
「い、いや、そんな事は無い。…そうだな、身の安全は約束しよう。ここを脱出して、ゆっくりと話せる事が出来たら見返りの話をしよう。互いに利益があった方が、信じる事も出来るだろ?」
そう言うと、魔王の娘は俺の顔をジッと見つめてきて、
「…わかった」
そう言ってくれると、俺の渡した装備を着てくれる。
さて、次はこの人達を一度本の中の世界の中に入って貰わないといけない。
その後は安全な所まで逃げて、そこで解放すればいいだろう。
魔王の娘にも、一応説得はするつもりだが嫌なら無理に家族になって貰わなくても良い。
…ちょっと残念だけど…。
俺はそう思いながら、本の中の世界の拡張ページを少しだけ切っておく。
それにしても、以外に警備がいないもんだな。
俺がそう思っていると、
「着たよ」
魔王の娘が俺が渡した装備を身に着けて俺にそう報告してくれる。
俺はその言葉を聞いて、周りの人も装備を着てくれたか確認すると全員が装備を着けてくれている。
「では次ですね。これを利き手に押し付けて下さい。一時契約をして、身を隠してもらいます。一時契約ですので、後で解除する事も可能ですから安心して下さい」
俺はそう伝えて、1人1人に拡張ページの切れ端を渡す。
だが、流石に誰も簡単には押し付けない。
どうしたものか…。
俺がそう思っていると、
「ここで時間を食ってる訳にはいかない…。今はあんたに利用されるよ」
魔王の娘が、俺にそう言って拡張ページの切れ端を右手の甲に押し付ける。
瞬間、魔王の娘の甲に本の中の世界も表紙に描かれている模様が刻まれた。
それを見ていた女の子達と男性も、今は逃げる事を優先する事と魔王の娘の言葉を考えて自分達も同じ様に手の甲に押し付けていく。
よし、これでここにいる皆を塔へと避難させる事が出来る。
俺はそう思うと、
「帰還」
塔へ行くための言葉を呟く。
瞬間、いつもの様に黒い靄が発生する。
「この中に入ればとりあえず安心だと思って下さい。中に入ると、おそらくセシリアと名乗る女性が現れますので、その人に従って移動なりしてください。…勝手に動くと、身の安全は保障できませんからね」
俺が少し脅す様にそう言うと、魔王の娘と男性は静かに頷き、女の子達は俺の言葉に少し怯えた様子で何回も頷く。
そして、最初は魔王の娘から黒い靄へと入っていき、続いて女の子達、最後に男性が中へ入っていく。
全員が塔へ行ったのを確認すると、俺は静かに周りを見回す。
この高そうなツボとか、盗品なのだろうか?
俺はそう思いながら、ふと考える。
もしここにある物全てを回収したら、いずれ役に立つ事はあるだろうか?
俺はそう思いながら、周りに注意しながら置かれているアイテムや物品を見ていく。
どれも「UFO」で見た覚えもない物ばかりだ。
クラスチェンジをして錬金術師になると、鑑定スキルを発動して更に詳しく見ていく。
そうすると分かるのが、どの物品も偽物か安物かのどちらかだ。
ある意味闇オークションだな。
俺がそう思っていると、…見つけた。
クッションなのか、柔らかそうなものに包まれるように置かれているそのアイテムの名前は、
「レオノーラの鱗」
騎士団長の、鱗だった。
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