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レヴィさんも先程までいた島へと戻る姿を見送った後、俺はセンジンさんに会う為に歩き出す。
何だろう、すれ違う亜人族の人達にたまに挨拶をされるのが安心するというか、ここにいても良いんだと思わせられる。
流石にあれだけ拒絶反応をされていたからか、挨拶をされるだけで癒される。
俺がそう思って歩いていると、道の向こう側からセンジンさんが歩いてこちら側に向かって来ているのが見える。
俺が手を挙げてセンジンさんに声を掛けようとすると、俺が声を出す前にセンジンさんが、
「おぉヴァルダ!」
俺よりも先に声を掛けてきた。
そんな様子に俺は苦笑しつつ歩みを進め、彼に近づくと、
「センジンさん、どうしたんですかこっちの方に来て」
俺はそう質問をしながら自分が来た方向、つまり港の方に向かう道に視線を向ける。
俺のそんな問いを聞いて彼は、
「大陸で物資の調達をしてくれた者の荷物が届いたんだ。…そうだ、ヴァルダも一緒に確認しに行かねぇか?」
俺の質問に答えると、今度は俺にそう聞いてくる。
彼の言葉を聞いて、俺は来た道を戻る事になるけど物資の確認という作業に興味が湧いて、
「そうですね、ではお供します」
少しだけ冗談交じりの言葉で一緒に行く事を伝える。
そうして俺とセンジンさんは港へと向かうと、俺が初めてジーグに来る際に乗った船よりも小さい船が港に泊まっていた。
船から数は多くないが、それでも旅をしながら商人をしている人達の積み荷程の量はあるな。
俺がそう思っていると、センジンさんは船の近くで荷卸しをしている男性に声を掛ける。
少しだけ世間話をした後、荷物を卸していた男性が1つの木箱を開けて中身をセンジンさんに確認する様に促している。
その様子を眺めていると、センジンさんが俺の方に手でこちらに来いと手招き、俺は早歩きで彼らの元まで行く。
「…どうだい?」
「…俺にもこれの良し悪しは分からねぇが、それでもジーグの職人の腕に掛かれば逸品物になるだろうな。ただ、やはり数はあまり集まらないか…」
「こっちの金銭があまり無いからな。向こうも今、何かとこれが要り様らしくてな。1つの価格が上がってるらしいぞ」
そんな話をしているセンジンさんと男性の言葉を横に、俺は箱の中身を確認する。
そこには鈍い銀色の金属が箱の中に入っている。
「鉄、ですか?」
俺がそう質問をすると、
「あぁ、ジーグには鍛冶師が数人いるからな。質が悪い武具を買い集めるよりも、職人達に任せた方が信用もある。何より良いモノだ」
センジンさんが俺にそう説明してくれる。
なるほど、確かに大陸で売られている剣などは本当に良し悪しが分かれると思う。
露天商が広げている装備とか見ると、本当に使う事が出来るのかと考えてしまう程粗悪な物まで会ったりするからな。
それを仕入れるくらいなら、時間は掛かっても素材を集めた方が良いと思うな。
俺はそう思いながら、
「なるほど………。………今思いついたのですが、少し話を聞いてくれませんか?」
センジンさんに少し頭を過ぎった考えを相談しようと声を掛ける。
俺の言葉を聞き、センジンさんは少し不思議そうな表情を俺に向けて、
「どうした?」
続きの言葉を促してくれる。
「実は知り合いとまではいかないんですけど、ドワーフの知人がいるんです。その人に剣を預けてその剣と同等のモノを作って貰っているんですけど、その人にもここで打って貰うのはどうでしょうか?勿論、交渉はします。今は、その人の実力を知る為に剣の鍛錬をお願いしていますが、出来次第では更に良いモノが手に入ると思います」
センジンさんに俺の頭を過ぎった考えを告げると、彼は少しだけ考える素振りを見せる。
そして、
「ヴァルダの提案も悪いものじゃねぇ。だがこれは既にジーグの職人達にお願いをしちまったモノだ、今から少し分けてくれなんて言う訳にはいかない。俺達の為に剣を鍛えてくれる奴らに、それは失礼になっちまうからな。信用の問題になる」
俺の考えに悪くないとは言うが、それを実際に実行する事は難しいと説明をしてくれる。
センジンさんの考えを聞いた俺は、確かにそれは信用問題に関わる事だなと考えて、
「分かりました、流石に俺もセンジンさん達の関係に亀裂を入れたい訳では無いので、この話はもう少し時間を置いたりしましょう」
俺は話を切り上げる。
それから俺は、これから鍛冶師達の元へ荷物を運び入れて、詳しい話をする故に遅くなるとユキさんに伝えてくれという伝言を受け、俺はまずセンジンさんの屋敷へと向かった。
センジンさんの屋敷に辿り着いた俺は、ユキさんにセンジンさんが鍛冶師の人達との話し合いで遅くなる事を伝えた後、自分も集会場の方に泊まる予定だという事を伝えて、食事などの準備は必要ない事をユキさんに伝えてから、俺は集会場へと向かった。
センジンさんの屋敷を後にして森を歩いて集会場の近くまでやって来ると、集会場の方から疲労困憊の人達が町に向かって歩いてくる姿が見える。
彼らは俺の事が見えると、必死に体を動かして俺に挨拶をしてくる。
そんな彼らに俺は、
「お疲れ様です。無理に立ち止まったり頭を下げなくて良いですから、早く家に帰って体を休めて下さい」
そう言い、そのまま歩いて町へ戻った方が良い事を伝える。
大きな怪我はしていないが、服などに付いている土汚れを見て、なかなかハードな鍛練をしていた様だと察する。
そうして俺の横を通り過ぎる、亜人族の人達に挨拶をしながら様子を見て、大丈夫だろうかと考えつつ彼らを見送った。
亜人族の皆が町へと帰って行く姿を見送った後、俺は集会場へと向かう。
そうして集会場へと辿り着くと、
「ぐッ…ウォォ゛ッッ!!」
「踏み込みが甘い、もっと腰を落とし地を踏み締めるんだ」
バルドゥとエルヴァンが剣を交えて鍛練をしていた。
互いの剣が衝突する度に、僅かに衝撃波を発生させて辺りの木々の木の葉が音を出して揺れる。
元々の体力の違いか、亜人族の皆はあそこまで疲れていたのに、エルヴァンとバルドゥは未だにあそこまで力を尽くして剣を振るう事が出来るその光景に、俺は2人の邪魔をしない様に息を潜めて待つ事にした。
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