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突然登場した男性は俺の事を一瞥すると、俺をここまで連れて来た男性を見て、拘束されている魔王の娘を事を指差し、
「今回の目玉はあの女だが、その他にも良い商品が多い。警護はしっかりとしておけ」
門番をしていた男性に軽い注意をする。
すると、門番の男性は少し面倒くさそうに、
「分かってますよ。今さっき、ブルクハルト様から出品して欲しい奴隷を預かったので、それを檻に入れた所です」
門番をしていない理由を説明する。
「…そうか。ブルクハルトの所から来たと言う事は、あいつの信条に反する事をしたやつなのだろう」
礼服を着た男性が俺の事を見ながらそう言うと、
「…とりあえずお前は持ち場に戻れ。そろそろオークションが始まる」
「へーい」
門番の男性にそう指示をして身嗜みを再度整えると、この倉庫から出て行った。
門番の男性も、檻の鍵がしっかりと施錠されているのを確認すると、そのまま来た道を戻って行った。
足音が聞こえなくなるのを静かに待っていると、やがて近くで泣いている女の子の声しか聞こえなくなる。
さて、行動を開始するか。
俺はそう思うと、手錠からハズレアイテムである紙を取り出して、手錠と足枷に使用する。
音を出さない様に取れた手錠と足枷を地面に置くと、
「何やってんだあんた?」
一緒に檻の中にいる男が、少し不機嫌そうな顔で俺の事を見てくる。
見ると、他に捕まっていた人達が俺の事を気にしている事に気がついた。
「…いや、俺はわざとここまで来たんですよ。少しあの人に用事があって」
俺が未だに暴れて拘束を外そうとしている魔王の娘に視線を移すと、
「……ここでは俺が1番に入ったが、あいつはずっとあんな感じに暴れてるぞ。拘束を外しても簡単に話しなんか聞いてくれないと思うがな」
男性は少し呆れた様な顔をして、自分から少し離れて身を寄せ合っている女の子達を見る。
俺も男性と同じ様に女の子達を見ると、
「……」
「…ひっ」
俺と男性の視線に怯えて、更に身を寄せ合って小さくなる。
と、のんびりしている暇はない。
俺はそう思い、男性と女の子達にも手錠から出したアイテムを使って手枷を解除していく。
男性は驚き、女の子達も少しびっくりしている感じをしている。
俺は3人の枷を外したのを確認すると、次に檻の鍵を確認する。
だが、
「…パッと見は何も魔法とかの痕跡は無いな」
クラスが召喚士の俺には、檻の外に付いている南京錠の様な物に魔法的な物が使用されているかは分からない。
そこで俺は、
「…クラスチェンジ・錬金術師」
職業を変更して、鑑定スキルを使用する。
すると、この檻自体にも南京錠の様な物にも魔法的なモノは使用されていない事が分かった。
おそらく、手枷などで魔法の縛りを科しているからこの檻から逃げる事は出来ないと思ったのだろう。
だが、その慢心が今の状況にはとても良い事に繋がった。
俺はそう思うと、クラスチェンジを使わないで檻に触れて力一杯腕を開く様に動かす!
すると頑丈そうに見えた鉄の棒も、俺の力で見事に曲がって檻に1人なら余裕で抜け出せる隙間を作った。
「あ、少しこの檻の前で待機していて下さい。下手に飛び出して見つかったりされたくないので」
俺は檻から抜け出すと、男性と女の子達に小さな声でそう言って拘束されている魔王の娘の檻へと向かう。
俺の足音に気がついた魔王の娘は、更に体を動かして拘束をどうにかしようとする。
俺はその光景を見つつ、まずは魔王の娘が入っている檻を調べる。
すると、やはり今回の大目玉である彼女には相当な拘束がされている様だ。
鑑定スキルで分かったのは、この檻には魔法が使われている事だ。
鑑定スキルのレベルを上げていたらもっと詳しく分かったのだろうけど、俺は最低限の鑑定が出来るだけしか鑑定スキルを育てていない。
俺はそんな事を考えながら、今持っているアイテムでこの檻の魔法が解除できるのか試してみる。
だが、アイテムである紙を檻に触れさせようとすると、紙は一瞬で燃え尽きてしまう。
これじゃあ駄目って事か?
…数は少ないがこればっかりは仕方がない。
ここで渋っていても無駄に時間を浪費するだけだ。
俺はそう思い、魔法というモノならどんなに高レベルでも無効化するアイテム、静寂の石を取り出す。
この静寂の石の効果はそれだけでは無い。
普通なら無効化など、対抗するスキルでないと打ち消す事が出来ないスキルでも無効化する事が出来る。
唯一の欠点は、効果範囲が半径5メートルくらいなのだ。
これを使えば、彼女の拘束はおそらく全て外す事が出来るだろう。
しかし、これを使った瞬間あの人暴れて大きな音出すよね?
どうすれば良いのだろうか?
俺はそう考えつつ、
「そこの拘束具でガチガチに固められている女、魔王の娘…だな?」
とりあえず少し偉そうに話しかけてみる。
だが、
「~ッ!!~ッ!!~ッッ!!」
警備とかに聞こえない様に小さな声で問いかけたのは意味が無かった様だ。
魔王の娘の出した叫び声とも言えない声で、俺の言葉は全く聞こえていない…。
こうなったら、力ずくで抑えつけるしかないな。
…し、信頼関係は駄目そうだが、そこは時間を掛けてゆっくりと育めば良い。
俺はそう自分自身に言うと、静寂の石を檻の南京錠に当てる。
瞬間、檻の南京錠と魔王の娘を拘束していた手枷やら足枷が音を立てて倉庫の床に落下する。
そして、自分の拘束が外れた魔王の娘は少し驚いた表情をすると、俺の事を真っ直ぐに見つめて口を大きく開いた!
大きな声を出させる訳にはいかない!
俺は魔王の娘が大きな口を開けた瞬間にそう思い、檻の鉄の棒を一瞬で押し曲げると魔王の娘の口に手を当てて大きな声を出させない様にする!
だがここで、少し踏み込み過ぎた様だ。
勢いが強かった所為で、俺の体はそのまま魔王の娘を倉庫の床に勢い良く押し倒してしまった…。
それはもう、倉庫の床に少しヒビが入ってしまうくらいに…。
そして、その所為で魔王の娘が俺の事を物凄く睨み付けているのがよく分かった…。
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