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渋く低い声の後に、地響きを感じて俺は視線を上へと上げるとそこには、俺の体の数倍はある大男が立っており、俺の事を見下ろしている。
白髪交じりの短髪、こちらを見下ろしている鋭い瞳、口元は髭が生えている。
遠目からでも分かる隆起した筋肉、上半身は何も身に着けておらず、下半身には継ぎ接ぎだらけのズボン。
そんな大男の肩辺りに、セイレーン達がいるのが見える。
建物の中は、生活に使っているのであろう道具が置いてあるのが分かるのだが、俺の様な普通の人のサイズだと、巨人族の道具全てが武器になりそうだなと考え、俺は少し緊張しながら、
「初めまして、突然の来訪申し訳ありません。俺はヴァルダ・ビステルと言います。レヴィさんの案内で、ここにいる皆さんと話し合いがしたくやって来ました。敵対の意思はありません、どうかお話だけでも聞いて頂けませんか?」
大きな声でそう声を掛ける。
すると、
「ヴァルダは信用出来る、皆を苦しめる人族ではあるけど危害を加えてくる事は無い。私が保証する」
レヴィさんが俺に対しての印象を少しでも良いモノにしようと、巨人族の男性とセイレーン達にそう声を掛けてくれる。
しかし、流石にレヴィさんの言葉でも俺が関わってくると反応が悪いのだろう。
セイレーン達は怪しい者を見ている視線を俺に向けてくる。
流石に、初対面の亜人族にその様な視線を向けられてきた故に、悲しい事に慣れてきてしまっている自分がいる。
彼らの気持ちは十分に理解出来るし、共感も出来る。
俺がそう思っていると、
「…レヴィ、デシレアはどうしたの?」
1人のセイレーンが、訝しんだ様子でレヴィさんにそう質問をする。
どうやら、ウンディーネさんがいない事で更に怪しく感じているのだろう。
俺がそう思っていると、
「デレシアは、話し合いで一緒では無い。私が、個人的にヴァルダをここへ連れてきた」
レヴィさんが俺の事をチラッと見ながらそう質問に答える。
すると、
「デレシアの許可は、貰ってるんでしょうね?」
同じセイレーンが、更に質問を投げかけてくる。
その言葉に、俺は絶対に許可は貰っていないと察する。
ウンディーネさんは、俺の事をあまり好ましく思っていない。
そんな俺を、この様な大切な場所まで連れてこようというレヴィさんの判断に反対する姿しか想像できない。
おそらく、今回の事は絶対にウンディーネさんには相談していないはずだ。
俺がそう思っていると、
「貰っていない。私の独断で、ヴァルダを招待した。私の仲間を、紹介したくて。ヴァルダも、皆に興味を抱いてくれてるから」
レヴィさんが質問に淡々と答える。
その言葉に、
「レヴィッ!それは私達を生け捕りにしたリ、討伐したりして報酬を貰うからよッ!」
「人族が私達モンスターや亜人族に興味を抱くなんて、それ以外ないじゃない!貴女だって、何度攻撃されたか分からないでしょう!」
セイレーン達が激しく怒った様子でレヴィさんの事を責める。
マズい、これ以上俺がここにいてレヴィさんの立場を悪くしたり、彼女が傷つく様子は見たくない。
もっと正式な、それこそウンディーネさんの許可を貰って堂々とここへ来るべきだった…。
俺はそう反省に、上から言い放たれる苦言を黙って聞いているレヴィさんに声を掛けようとすると、
「耳元で騒ぐな小娘共。いくら小さきお前達の声でも、何重にも重なれば五月蝿い」
巨人族の男性が、静かに注意の言葉を囁く。
しかし巨人族の囁きだけあって、単純に俺達にも聞こえる程の声量になっているのだが…。
俺はそう思っていると、巨人族の男性に声を掛けられたセイレーン達は押し黙る。
そして、
「…小さき人族よ、貴様はここへ何をしに来たのだ?」
巨人族の男性はそう聞いてくる。
それを聞いた俺は、
「何をしに来たのかと問われれば、何個か理由があります。しかし一番個人的に重要なのは、貴方も含めて亜人族の方達と交流をしたいと思ってこちらにやって来ました。その際に皆様が自分の事を信用に足る人物だと判断して頂ければ幸いだと思っています」
質問をしてきた巨人族の男性、そして彼の肩辺りにいるセイレーン達にも向かってそう答える。
それを聞いたセイレーン達は、やはり俺の言葉が信用出来ない様で苦々しい表情をする。
しかし、
「フッフッフ…。交流をしたいだけか。面白い事を言う小さき者だ。我らが貴様達人族にどの様な仕打ちをされてきたのか、理解していてその発言をしているのか…?」
それ以上に、俺の言葉に対して不快感を表している巨人族の男性の、腹の底から出していると思わせる低く凄みのある声。
その言葉に、俺は少し配慮に欠けた発言をしてしまった事に気がつき、謝罪をしたい気持ちを持ちつつも押し黙る。
今は余計に気分を害さない様に、俺は彼らの事を気遣いもせずに、ただ己の欲望を吐露した事に対する叱咤を受けるべきだ。
今までも、出会ってきた亜人族の人達に対して同じ様な事を言ってきた。
今までは皆、おそらく寛容に俺の発言を聞いてくれていたからこの様な叱咤を受ける事は無かった。
しかし本来なら、巨人族の男性の様に皆怒るはずなんだ。
それ程までに、人族は亜人族に対して酷い事をしてきた。
俺自身が何かをした訳では無くても、人族というカテゴリーの時点で彼らが信用するに値しないと判断してもおかしい話では無い。
俺は巨人族の男性の言葉に、今までの配慮に欠けた事を反省していると、
「…人族だからと言って、ヴァルダを責める事はおかしい。それじゃあ、過去の亜人族が人族と魔族の戦争に協力しなかったという理由で、今もなお亜人族を虐げている人族と同じ事にならない?」
レヴィさんが、巨人族の男性にそう伝える。
その言葉に、
「………貴様の様に、皆が自分の身を護れる程強い訳では無い。我らは、自分自身と数が限られた仲間、友、家族を護る為ならば自分達が今の人族と同じ事をしてでもやらなければいけないと思っている。その感情に、間違いがあると言うのか?」
巨人族の男性がそう言う。
それを聞いたレヴィさんは、少しむすッとした表情になり、
「そういう事を言ってるんじゃない。敵意も、悪意も無いヴァルダを責める事は、必要では無いと言ってる」
少し怒った様子でレヴィさんが、巨人族の男性にそう返答をする。
そして、
「ヴァルダは、面白い。普通の人族では無い考えを持っている。私はそれをもっと知りたい」
レヴィさんが俺の事を見て、まるで自分の意見を言ってくれと伝えてきている様に言葉を続けた。
その言葉を聞いた俺は、今の彼女の言葉の力のお陰で、今この場で全ての話をするべきだと判断し息を深く吸い込んだ。
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