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俺の質問を聞いたウンディーネさんは、次々と質問には答えてくれる。
不本意そうというか、聞かれて仕方なくと言った感じだ。
元々、根は真面目な人なんだろう。
溜め息交じりに放たれる言葉と、俺が発する問いの言葉に大きな落差が見られるが、俺はそんな事を気にせずにウンディーネさんに、
「それにしても俺、水を掛けられる程情けない格好をしていましたか?」
そう質問をすると、彼女は淡々と、
「えぇ、あの様な様子で普段生きているのなら、もう少し他の者を見習った方が良いのではないでしょうか?」
俺にそんな言葉を放ってくる。
確かに、考え事をしていながら歩いていてフラフラとしている様子に見えたのは否定は出来ないが、一応ボケ~っとしながら歩いていた訳では無いんだぞ…。
俺はそう思いつつ、
「それで、明日ジーグの代表、つまりセンジンさんとの話し合いが行われるという事ですが、何か問題があったのですか?」
彼女に質問をすると、俺の問いを聞いたウンディーネさんは答えるつもりは無い様に視線を俺とは反対の方向に向けてしまう…。
彼女との話し合いは、センジンさんに任せるしか無いな。
センジンさんに聞いても良い話かを予め聞いてから質問をしないと、もし彼女があまり人に話したくない内容の場合は、話は聞かずにただ手伝える事が無いかだけを聞いておこう。
俺はそう思いつつ、ふとある考えと言うか思いついた事があり、
「質問、しても良いですか?センジンさんとの話し合いについてでは無く、一昨日、もしくは昨日の事で少し質問したい事があるんですが…」
彼女に向かってそう声を掛けると、話し合いについてでは無いという言葉でウンディーネさんは僅かに俺の方に視線を戻してくれる。
その様子を見た俺は、とりあえず話は聞いてくれそうだと思い、
「一昨日か昨日、海に人族が1人で船などに乗っている姿を確認していませんか?」
まずは剣聖について、僅かでも情報が欲しいと思って彼女にそう質問をしてみる。
しかし、
「………海に1人で船に乗っている人族は見ていませんね」
俺の期待していた答えは帰ってこなかった。
「そもそも、私も含めて海にいる私達は広大な海での生活で、わざわざ船に近づく事はありません。大陸からジーグへ来る船を襲うにも、こちらは被害が出てしまう。それ故に、明確な敵であると認識した状態で迎撃をしているのです。それ以外は基本的に、隠れてしまった方が見つからずに穏やかに暮らせるでしょう」
更に続けてウンディーネさんがそう説明をしてくれる。
その言葉に、確かになと納得してしまう。
海という住むには大きい、そして自分達の行動に制限は無く、敵対者である人族には海上での行動に制限が課せられる状態で、危ない橋を渡る必要なんて無いのか。
ウンディーネさんの説明を聞いて納得をしていると、俺はふと疑問に感じてしまう。
では何故、彼女も含めて反乱に参加するつもりでいるのか。
俺が来る前から、反乱に対する話は聞いていた様子だったし、更に参加する事で話は進んでいる様子だった。
俺がそう思っていると、
「…言いたい事は分かります。どうせ他の亜人族とは違い、私達は人族に捕まる可能性や殺される可能性が低い今の状態を捨て、危険を冒してまで反乱に参加するつもりなのか、そう疑問に感じているのでしょう」
ウンディーネさんは俺の考えている事を見事に言い当てる。
しかし、俺は彼女のその言葉の言い回しを聞いて理解をしたと思う。
確実ではないが、おそらく半分くらいは彼女達が反乱に参加する理由を当てる事が出来る。
俺はそう思うと、
「他の亜人族の為…ですか?」
俺はそう聞く。
「………」
俺の言葉に、ウンディーネさんは何も答えない。
故に、
「自分達は安全だ、だから危険を冒してまで人族に関わる必要は無い。おそらく、普通のヒトだったらそう思うのが普通の事だとは思います。しかし、亜人族である自分達はそうでは無い。自分達の安全が確立しているのなら、それを壊す必要などない。他の者達がどうなろうと、自分達は関係無い。その考えが、貴女達には出来なかったんじゃないですか?」
俺は言葉を続ける。
憶測ではあるが、確信している彼女達の考えを代弁する。
俺の説明に、ウンディーネさんの表情は少しだけ驚いた表情を俺に向けている。
そんな彼女の表情を見て、
「本当につい最近、同じ様な事を話したんですけど…。亜人族の強みはその違う場所、種族であっても助け合おうとする連携力の強さだと俺は思っています。自分達が得をすれば良いと思っている、人族には決して真似が出来ないその見えない力が、反乱ではとても大きな力になると俺は考えています。そしてその連携に、俺も僅かにでも、人族ではありますがその力に力が貸せる様に頑張っているつもりです」
俺がそう言うと、ウンディーネさんは少ししてハッとした表情をすると、
「………人族にしては、私達の気持ちや考えを理解している所は素直に褒めましょう。そして、それを力として認識しているのも悪くはありません」
また視線を海の方へと移して、俺の事は見ずにそう言ってくる。
これは、褒められているのだろうか?
俺がそう思っていると、
「しかし、それだけではありません。私達は安寧を求めているのです。海の上を船で渡り、貿易をする事は悪い事ではありません。しかしその際に、何故近くにいた私達亜人族は攻撃をされるのか理解出来ません。私達が自由に、安寧に暮していく為にも、船に乗ろうが乗るまいが静かにして欲しい。それを主張する、反乱でもあるのです」
俺の回答に少し不満を感じていたのか、ウンディーネさんは更に俺の言葉に付け加えてそう言ってくる。
なるほど、確かに広い海での生活は自由に見えて、結局今の人族では亜人族に対して攻撃をしてくるだろう、彼女達が何もしなくても。
だからこそ、そうならない為にも反乱に参加するという事か。
わざわざ反乱に参加するのではなく、一方的に攻撃をしてしまえば良い様な事ではあるが、ウンディーネさんはそれをしたがらないだろう。
やはり彼女も含めて根は真面目なんだろうな、海の亜人族達は。
俺はそう思いながら、ウンディーネさんと一緒に町へと向かう。
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