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ハイシェーラさんは少しだけ壁伝いに体を動かした後、俺の言う通りにして大人しく貸して貰っている布団がある部屋へと戻った。
俺はハイシェーラさんが布団に横になった際に、
「ふぁ~…」
普段の彼女からは想像出来ない気の抜けた声を聞いて、俺はもしかしたらハイシェーラさんが竜人族の族長では無い、素の姿を見ているのではないのだろうかと考える。
それに、彼女がここまで布団を気に入った様子を見るに、竜人族の皆さんにもこれからは布団を使って寝る様に言うかもしれないな。
俺はそう思いながら、
「では、体が完治するまで大人しくしていて下さいね」
「うむ。皆の事は任せた」
ハイシェーラさんに声を掛けると、彼女から皆さんの事を任される。
彼女の言葉に俺は短く返事をしてから、彼女の借りている部屋を後にして一度ユキさんに挨拶をしてから屋敷の外に出る。
そうしてセンジンさんの屋敷を後にした俺は、ジーグの町民達に声を掛けてセンジンさんがどこにいるか話を聞いて行く。
町の人達も、謎の殺人者に怯えているのか少しだけ緊張している様子だ。
センジンさんなどはジーグに元々いるからあまり警戒される事は無いだろうが、俺みたいな帝都や大陸から来ている者には警戒するのが当たり前だろう。
警戒されてしまうのも、仕方が無い事だ。
俺はそう思い、センジンさんの居場所を聞いて行くと、つい先程港に向かった姿を見た者から話を聞く事が出来、俺は港に急ぐ。
港に辿り着くと、俺は辺りを見回す。
すると、海に向かって何かを見ているセンジンさんを見つける事が出来た。
その佇まいと真剣な表情から何が見えるのだろうと疑問に思って彼と同じ方に視線を移すが、海面に何かだある様に俺には見えない…。
声を掛けても良いのだろうか?
俺はそう思うが、話しかけなければ今後の事についても話が出来ないと思い、
「何を見てるんですか、センジンさん?」
俺は彼に近づいてそう声を掛ける。
すると、頭や体は動かさずに視線だけを俺に向けてきたセンジンさんは、
「あぁ、ヴァルダ。いや、この海の少し行った所に、もしかしたら剣聖がいるんじゃねぇかって考えたらよ、どうにかして攻撃する事は出来ないもんかね~と思っちまってな」
俺の問いにそう言ってくる。
その彼の答えた言葉に、
「…流石にエルヴァンでも、それは出来ないですね…」
俺はそう答えて、センジンさんと同じ様に海の方へ視線を向ける。
俺の言葉を聞いたセンジンさんは、
「…クソッ!剣聖がどこまで俺達の事を報告するか、それが問題になるな…」
悔しそうな顔でそう言う。
その言葉に俺は頷き、
「えぇ。拷問をされた様子を見るにアンリの眷属化の影響で情報は流してはいないとは思いますけど、それでも剣聖本人の視点から見た情報は皇帝に流れてしまうでしょう。………時間は、あまり残されてはいないと思います」
俺の言葉を聞いたセンジンさんは、
「………よしッ!俺達も出来る限り急いで準備を始めるか!こんな所で立ち止まって、いなくなった奴の後ろ姿を追いかけようとしてる暇なんか無いッ!剣聖が持っている情報よりも、俺達が更にその上を行く作戦を考えて、1人1人の力量を押し上げるぞ!そして一気に畳み掛けてやる!」
まるで海に報告するかの様に、大きな声でそう言うと、
「お前等ァッ!犯人探しは終わりだッ!それぞれの仕事に戻ってくれッ!ただし、周りへの警戒は切るんじゃねぇぞ!もしも襲われたら、大声で助けを呼べッ!」
海の方を向いていたセンジンさんが勢いよく振り返り、港の方に向かって慌ただしく動いていたジーグの町民達にそう指示を出す。
彼の言葉を聞いた町民達は少し不安そうではありながらも、これ以上姿形も分からない者を探すのは時間の無駄だと判断したのだろう。
互いに周りの人達にお疲れさん、ゆっくりと休めとか励まし合った言葉を送り合っている。
俺がそんな光景を見ていると、
「俺達は、竜人族の集会場へ行って竜人族の飯の支度をするか」
センジンさんが気合を入れ直す様に、体を捻る様にその場で体を動かしつつ俺にそう言ってくる。
彼の言葉を聞いた俺は、
「そうですね。ひとまず皆さんの所に戻るとしましょう」
賛同し、まずは竜人族の皆さんに朝食を食べて貰い、それから準備を開始しようと考えた。
そうして俺とセンジンさんは港を後にして、エルヴァンと竜人族の皆がいる集会場へと戻った。
集会場へ戻った俺は、エルヴァンにお礼を再度言った後彼を塔へと一度戻す。
その際に、今日はゆっくりと休んで欲しい事を伝えると、最初は大丈夫ですと言っていたエルヴァンではあったが、
「常に最良の体調で戦いに挑む。それが、強者として必要な事では無いか?昨日の夜からエルヴァンは一睡もしていないだろう?それでは俺も心配になってしまう。今日だけだとは思うのだが、それでもゆっくりとして欲しい」
そう伝えると、エルヴァンは折れてくれてお言葉に甘えさせていただきますと返事をしてくれた。
少々強引ではあったが、本心を伝えている事は事実である。
大切な家族であるエルヴァンが、寝不足で倒れたりしたら俺は主として駄目だろうと考える。
エルヴァンを塔に戻す為に説得している間に、センジンさんが豪快男料理を竜人族の皆さんに提供し、彼らはそれを食べ尽くしていく。
そうして竜人族の皆さんの朝食が終わる頃に、俺も少しだけ朝食を分けて貰えてセンジンさんの料理を食べた。
朝から、凄く多くて濃い味付け。
中々、特にこの世界に来てからは食べる事が減った健康よりも力を付ける為の朝食に、塔での朝食はサンドイッチとか、ザ・朝食を食べていたんだなと感じる。
そうして皆での朝食を終え、とセンジンさんは少しだけ相談を始める。
相談するには、アンリも来て欲しいと思った俺は一度戻って来る様に空に向かって大声を出すと、流石はアンリ、聞き取れた様ですぐに俺達の元へと戻って来てくれた。
更に、俺は塔からバルドゥを呼び出すと、
「それでは、これからの各々のやるべき事を確認、共有する為の話し合いを始めます」
俺はセンジンさん、バルドゥ、アンリの順番に視線を合わせて、俺と視線が合うと頷く姿を確認してから考えを話し始めた。
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