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アラトが去った後、俺はセンジンさんがどうしてそこまで急いでいるのか質問をすると、
「あぁ、ヴァルダの事を探していてな。ユキが竜人族の族長の怪我の様子が良くなって、少しだが無理をしない程度に動ける様になったという報告と、騎士達を殺した犯人探しでな」
センジンさんが俺にそう報告をしてくれる。
ハイシェーラさん、少しだけだが動けるようになったのか、良かった良かった。
俺がそう思っていると、
「………アラトの奴、何度もヴァルダに因縁を付けてくるな」
センジンさんがアラトの去って行った方向を見ながらそう呟く。
彼の言葉を聞き、
「俺、そこまで信用出来ないですかね~」
俺はアラトの言葉を気にしていない様に言葉を言い、
「報告ありがとうございました。今から集会場へエルヴァンと竜人族の皆に少し顔を見せに行くので、それが終わり次第センジンさんの屋敷へ向かいますので、ユキさんによろしくとお伝えください」
続けてセンジンさんにそう伝えると、彼は分かったと言い返して踵を返す。
センジンさんと分かれる様に、俺も集会場へと向かい直す。
そうして集会場へと戻って来た俺は、外で背負っていた大剣を鞘ごと地面に突き立てて仁王立ちをしているエルヴァンを見つけると、
「おはようエルヴァン、昨夜はありがとうな。深夜だと言うのに突然呼び出してしまってすまなかった」
まずは今まで、おそらくエルヴァンの事だから寝ずに見張りをしてくれていたのだろうと考えてお礼を伝え、その後に突然呼び出してしまった事への謝罪を伝える。
俺の言葉を聞いたエルヴァンは、地面に突き立てていた大剣を手で掴むと、
「ヴァルダ様の御呼び出しとあれば、たとえどの様な状況であっても直ぐにお答えいたします」
俺にそう言って上半身ごと動かして、僅かに頭を下げる動作をする。
「竜人族の皆さんは、大丈夫だったか?来て早々、問題が発生してしまったからな。怖がったり、不信感を感じていなければ良いのだが…」
俺がそう心配を口にすると、
「彼らも驚きはしている様子でしたが、恐怖を感じていたりしている様子は見せませんでした。自分達の身は、自分達で護ろうと互いに言い合っていました」
エルヴァンが、俺がここを留守にしていた間の事を教えてくれる。
とりあえず、竜人族の皆さんが落ち着いた状況であるのなら良かった。
俺は安心して、先程センジンさんが報告をしてくれたハイシェーラさんの事を思い出し、彼らにも良い知らせを教えなければと思い、
「まだエルヴァンには、ここの護衛をお願いしたい。構わないか?」
俺がそう聞くと、エルヴァンは大丈夫ですと短く、しかしそれだけで力強く頼もしい言葉が返ってきた。
エルヴァンの返事を聞き、俺は集会場の扉を開いて中へと入る。
最初、警戒していた様子の竜人族の皆さんであったが、中に入って来た俺の姿を見て緊張が和らいだのが肌で感じ取れた。
そんな彼らに対して、
「良い知らせがあります」
そう前置きをしてから、俺は先程のセンジンさんの報告を皆に伝える。
センジンさんから聞いた、ハイシェーラさんの体調が良くなってきた事を竜人族の皆さんに説明をしていくと、俺が集会場に入った時から見えていた表情が更に穏やかなものになっていくのが分かる。
それから俺は、集会場を出てエルヴァンにもう少しの間見張りをお願いした後、センジンさんの屋敷へ向かって歩き始めた。
センジンさんの屋敷へと着くと、
「戻りました」
俺は屋敷にいるユキさんに聞こえる様に、少しだけ大きな声で挨拶をする。
すると、
「おぉ、その声はヴァルダではないか」
玄関からすぐ近くの廊下から少し力が入っている様な声が聞こえて、俺は声の発生源であろう廊下の方を見る。
そこには屋敷の壁に手を添えて、少しだけだが動き辛そうに歩いているハイシェーラさんが立っていた。
少しだけ体をユラユラと揺らして?震わせているハイシェーラさんが、俺に背を向ける向きで立っている。
「ハイシェーラさんッ!?大丈夫ですかッ!?」
俺がそう声を掛けて肩でも貸そうかと近づくと、
「まぁ待ってくれ。悪いが1人でやらせてくれ。寝たきりの状態から回復して、まだ腰が痛む事はあるが立って歩く事が出来ている。このまま、少しずつ動く事に慣らしていかなければいけないからな」
ハイシェーラさんがそう言ってくる。
その言葉を聞いて、俺は彼女に差し伸べた手や腕を引っ込めて、
「分かりました。でも、もしも危ないと判断したら即座に俺が肩を貸しますからね。それと、無理はしないでください」
不安ではあるが、彼女の意見を尊重して俺は見守る事に専念する。
「…お帰りなさいませ」
すると、廊下の奥からユキさんが顔だけを出して俺に挨拶をしてくる。
そんな彼女に心の中で、何故顔だけしか出さないのだろうと苦笑いを浮かべながらそう思いつつ、
「ハイシェーラさんの事、ありがとうございます。センジンさんは今ここにいますか?それとも、もう出かけましたか?」
俺がそう質問をすると、
「いえ、私はあまり何もしていませんので…。センジン様は、ここで朝食を流す様に胃に入れた後、騎士達を殺した者を探す為と、他にも犠牲者がいないか確認する為に出発してしまいました」
ユキさんが俺の問いにそう答えてくれる。
そしてユキさんの言葉に、
「あの者はとても良くしてくれたぞ。布団という柔らかいモノを敷いてくれたお陰で、とても安らかに安眠する事が出来た」
ハイシェーラさんがそう教えてくれる。
…確か竜人族の皆さんは、硬い岩みたいなベッドで寝ていたよな。
それが原因の可能性も、あるのでは無いだろうか?
俺はそう思ってハイシェーラさんの事を見つつ、
「分かりました。俺も少しだけハイシェーラさんの様子を見た後、センジンさんと合流してこれからの事について対応させていただきます」
ユキさんにそう伝えると、彼女は分かりましたと言った後顔を引っ込めた。
俺とユキさんの会話を聞いていたハイシェーラさんは、
「昨夜、少しだけ外が騒がしかったのはその事が原因か。…皆は無事か?」
俺にそう聞いてくる。
彼女の言葉を聞いた俺は、
「夜から、エルヴァンに護衛をお願いしていますし、先程挨拶もしてきました。ハイシェーラさんの体が少し良くなった事を伝えると、安堵した表情をしていましたよ」
彼女にそう伝えると、ハイシェーラさんは安心した表情を俺に向けて、
「ありがとう、族長である私が足手まといになってしまっているが、君になら安心して彼らを任せて、私は体を休ませる事に専念出来そうだ」
そう言った。
彼女の言葉に、
「えぇ、ヴァルダ・ビステルの名に懸けて、竜人族の皆さんの安全は保障しますよ。だから、ハイシェーラさんは皆に元気になった姿を見せてあげて下さいね」
俺はそう伝えると、彼女は笑って返事をした。
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